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妖精物語(ふたつの世界)  作者: ぺるしゃ
夏の章
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夏の章その2:わたくしとお姉さまの忠告


それから、わたくしは、図書館に向かいました。


あんなに楽しみだったのに

でも、もう、中には入る意味もなくなって。

入る気にはちっともなれなくて。


少し夕暮れがかってきて。

でも"太陽"のきらめきは、まだまだ強く

わたくしを疲れさせます。


・・・舞さま、あんな言い方、しなくても。


いえ、その、わたくしが、良くないのですわ。


こんなに、わたくしが調べたのは


舞さまが、きっと、幸せになってくれると思って。

ちょっとだけでも、お近づきになれればと思って。

ほんの少しだけでも、よろこんでくれると思って。


・・・違う、こんなにというのは

わたくしだけ思っていること。

わたくしだけが知っていること。


でも、でも、じゃあ。

舞さまは、じゃあ、どうしたいの。


わたくしは、のどをぎゅっと掴みながら

声をあげることなく泣き崩れました。

誰も聞こえないはずなのに。


「あらあら、泣いている子がいますわね。」


・・・誰?

わたくしの声、聞こえないはずなのに。


聞こえてきたのは、どこか懐かしい声でした。


レシラ「・・・お姉さま。」


お姉さま。なぜここに。


いえ、『完璧な妖精』のティテーナ姫なら

わたくしがどこに居るかなんて

わかって当然なのでしょうね。


ティテーナ「あら、もうちょっとは泣くかと思ってたけど。

      もう涙が引っ込んだ。」


ティテーナ「気晴らしに、様子を見に来てみたけれど。

      だいぶ無駄なことをしているわね。

      この様子じゃ、課題の達成は無理かしら?」


気晴らし?課題の達成は無理?

相変わらず、上から目線。


レシラ「ええ。まあ、今日のところは

    ちょっと失敗ですわね。」


ティテーナ「確かにそうね。全然進展していないものね。

      でも、結果的には、よかったのかも。」


レシラ「・・・?」


また、意味のわからないことを・・・。


レシラ「あの。ちょっとわたくしには

    お姉さまの言うことが、理解できません。

    "結果的によかった"って、どういう意味かしら?」


お姉さまは、"やれやれ"というような

おおげさな仕草をしながら、わたくしを見つめました。


ティテーナ「ふぅ・・・。

      なにもわかっていないのね。」


ティテーナ「そんなレシラに、わたくしから

      アドバイスして差し上げますわ。」


アドバイス? なにを言いたいの。


ティテーナ「レシラ、あなた、入れ込みすぎよ。

      舞さんには、深入りしない方が良いわ。」


レシラ「・・・?」


だから、その理由を答えなさいって。


レシラ「ごめんなさい。お姉さま。

    わたくしにもわかるように

    教えていただけます?」


レシラ「『完璧な妖精』のお姉さまなら

    魔法でぱぱっと、なんとかなるでしょうけど。」


レシラ「"こんなわたくし"が、深入りせずに

    どうやって舞さまを幸せにできるとお思いで?」


ティテーナ「ふぅ・・・。

      もともと、自分で言ってたでしょう。

      こんなの、元から無理な課題ですの。」


ティテーナ「それに、たかが魔法学校の課題でしょう。

      人間を幸せになんて

      真面目に取り組む必要なんてないのですわ。」


たかがって、なに?

たかが、魔法学校の課題?


『完璧な妖精』のお姉様には、わからないのですね。


レシラ「わたくしには、難しい課題なのは、そうですわね。

    それくらいはわかっています。」


レシラ「でも、お姉さまには、たかが課題かもしれませんが

    わたくしは、懸命に取り組んでいますもの。」


レシラ「それに、わたくしが課題に落ちたら

    お父さまの経歴にも傷が付いてしまいますわ。」


ティテーナ「・・・あらあら。頑張っていらっしゃるのね。

      レシラはお父様が本当に大好きねぇ。」


お姉さまは、からかうように挑発をしてきます。

      

ティテーナ「あはは。ごめんなさい。でもね。

      いくら頑張ったって、全部無駄ですの。

      この世界には"呪い"がかけられていますもの。」


呪い?なにそれ。聞いたこともありませんわ。

全部無駄って、どういうこと?


レシラ「呪い?全部無駄?」


ティテーナ「ええ、まぁ、忠告はしましたわ。

      あとは自分で考えてね。」


お姉さまは、言うだけ言って

どこかへ飛び去ろうとしています。


一番気になるところを聞く前に、勝手に。


レシラ「まって、お姉さま。

    呪いってどういことですの!」


わたくしは、大きな声で、お姉さまを呼び止めます。


お姉さまは、詠唱をやめ、くるっと振り向くと

わけのわからないことを話しはじめました。


ティテーナ「そうねぇ。レシラには

      昔話がわかりやすいかしら?

      "シンデレラ"という物語は知ってる?」


レシラ「昔話? 『シンデレラ』?」


そして、わたくしに向かって

子供に読み聞かせるように、話しはじめました。


ティテーナ「むかーしむかし

      シンデレラという少女がいました。」


ティテーナ「彼女は、魔法をかけられて、

      舞踏会へいくことができました。」


ティテーナ「シンデレラは、王子に見初められます。

      でも、かけた魔法は、日付が変われば

      解けてしまうのでした。」


ティテーナ「すごーくわかりやすく

      レシラにもわかるように

      伝えてあげたつもりなんだけど、わかった?」


・・・わかった?


わかったって、なに? なにさま?


そのおとぎ話と呪いの関係はなに?

"日付が変われば魔法解ける"ってどういうこと?


抽象的で、そんなまどろっこしい伝え方で。


レシラ「おあいにく様。その物語は存じませんが。」


皮肉をこめて、お姉さまに返答します。    


レシラ「日付が変わろうとなんだろうと。

    わたくしの魔法なんて

    どうせ解けてもかまいませんわ。」


レシラ「もともとわたくしは、"魔法"なんて

    まともに使えませんもの!」


ティテーナ「・・・ばかねぇ。

      何も理解できていないのね。」


レシラ「???」


あああ、もう、どうして。

なんでわざわざ、癪にさわる言い方をするのかしら?


・・・とと、だめ、だめ。

冷静に、冷静に。


ティテーナ「よくよく考えなさいな。

      後で泣いても知らないですわ。

      では、ご機嫌よう~。」


レシラ「お姉さま!まって、待て!

    ちょっと、意味のわからないことを・・・」


お姉さまは、今度は振り返らずに

そのまま飛び去っていきます。


夜の空に、お姉さまの姿は隠れました。


わたくしは、ただ呆然と、たたずみます。

まったくもって、納得がいっていません。


いらだちは、最高潮に達していました。


・・・あのさ、ちょっとくらい

自分のほうが知っているからってさあ。


その言い方はないんじゃありませんの?


意味のわからないことを話すために

わたくしのもとに来ましたの?


お姉さまは、何が言いたかったの?


・・・だめ、だめ、だめ。

ちょっと、きついですわ。苦しい。

お姉さまと話すだけで、心がすさんでしまう。


・・・やっぱり、舞さまのもとへ戻りましょう。

さっさと、あんなお姉さまのことなど忘れましょう。


==============================================


わたくしは、少しのいらだちを抱えながら

すっかり暗くなった夜道をすすみ

舞さまの家へ帰りました。


窓へ近づこうとして、ふと考えます。


また、遅くなった。

舞さまにも言わず、遅くなってしまった。


舞さま、どう思っているのでしょう。


舞さまから見れば

わたくしなんて"ストーカー"。


・・・もうダメかも。

なにをやっても無駄って、こういうこと?


ぐるぐると、また、考えがまとまらずにいます。


少し、宙に浮いた状態になっていると

そのままぐいっと、部屋の中に引き寄せられました。


舞「レシラちゃん。」


舞「ごめん、さっき、言い過ぎたって思って。

  レシラちゃん、居なくなっちゃったと思ってて。」


舞さまは、泣きそうになりながら。

わたくしに語りかけました。


舞「レシラちゃん、調べてくれたんだよね。

  この暑い中、かけまわって。」


そんな、舞さまの声を聞いていると

わたくしは、考えがまとまらなくなって。


レシラ「あ、ええと、ええと・・・。」


舞「でも、いまはちょっと

  気持ちを整理させてほしい。」


レシラ「え、ええ。そうですわよね。

    わたくしの押しつけで・・・」


舞「・・・押しつけじゃないよ。」


舞さまは、言い切りました。

そして、言葉を続けます。


舞「で、夏休みになったら。

  その、せっかくだから、少し。」

  

舞「協力して、もらいたいんだけど。」


あつく、いらだっていた、わたくしの熱を冷ますように

涼しげな風が、窓から入ってきました。


わたくしは、喜んで返事をしました。


==============================================


最初、わたくしは今日のことを

すごく楽しみにしていました。


勝手に期待して。

・・・結果、わたくしの期待通りにはいかなかった。


お姉さまにも、久しぶりに会いましたが

それで、余計にいらだって。


お姉さまのおっしゃることは

相変わらず意味がわからないし。


わたくしのやることは

お姉さまから見たら無駄に思えるかもしれない。


でも、わたくし、お姉さまの言うような

"全部無駄"だなんて、決して思いません。


今日のことだって、無駄だとは、ちっとも思いませんわ。


だって、今日の舞さまの言葉を聞いたら、夏休みが・・・。

もっと、もっと楽しみに思えてきましたもの。


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