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夢と日常と9

 俺は、激しく泣き出した男達を残し、健一を引きずりながら再び店内に入った。


 店内ではコーヒーが出来上がったらしく、音無はコーヒーを飲んでおり、凛さんはカウンターに立ってこちらを見ていた。


 礼もコーヒーを飲んで、心を落ち着けている。


 っていうかそれ二杯目じゃない?


 会計は俺持ちなのに……。


 俺は健一を床に横たえると、自分の席に向かった。


「あれ? そこに転がってるの、健一君?」


 凛さんは俺が店内に持ち込んだ人物を見て言った。


「そうです。またなんかバカやらかしたみたいですね」


 俺はそう返すと、俺の席にある、まだ残っているコーヒーのカップを取った。


 そして仰向けに倒れている健一に近付いていく。


「? 功成君、何してんの?」


「いや、こいつ寝てるんで、起こしてあげようかなー、なんて」


 俺は、健一に優しくコーヒーを飲ませてあげた。


 鼻の穴から。


「ぽあっ!」


 健一は変な叫び声を上げながら跳ね起きた。


 そして、鼻に手を添えながら呆然と言った。


「はぁはぁ、何だ、コーヒーか。何かのプレイかと思って盛り上がっちゃったじゃねぇか……」


 真性の変態か、お前は。


「む? お前、功成じゃないか。こんなとこで何やってんだ?」


 そんな事を言ってくる健一に、俺は心底呆れた。


「いつまでも寝ぼけてんじゃねぇよ。ここは涼風だ」


「涼風? ……おお! 確かにここは涼風だ!」


 俺は溜息をついて自分の席に座った。


 健一も音無の横に座り、注文をする。


「凛姉さん、カプチーノ一つ!」


 はいはい、と言って凛さんは準備を始めた。


 健一も、俺達ほどでは無いにしろ、この涼風の常連なのである。


 ちなみに音無は、俺達と同じように毎日涼風に通っている。


 ゆえに俺達は、俺達の関係がばれないように、毎日気を張らなければならない。


 というより、さっきのやりとりで音無にばれたんじゃないだろうか?


 俺は小声で横に居る音無に話しかけた。


「……なぁ音無。お前、その、俺と礼の…関係って言ったらいいのかな? その、知ってる?」


 音無はぼんやりとこちらを見ると、言った。


「……知ってる」


 まぁそうだよな……。


 俺達の事を話してる時にこいつも居たわけだし。


「じゃあお願いなんだけどさ。俺達と凛さん以外の人にその事は言わないで欲しいんだ」


 音無は、なんで? というような顔をした。


「その、礼がさ、恥ずかしいってんだよ。あんま付き合ってる的な事を人に知られたく無いみたいなんだ」


 音無は、そう、と視線を戻しながら言うと、別に良い、と言ってきた。


「え? 言わないでいてくれんのか? マジで?」


 音無はコクリと頷いた。


 俺はそれきり黙った音無に、サンキュー、と言うと前に向き直った。


 音無って実は結構優しいよな。


 やすらぎ気分でそう思った俺は、一つの事柄を思い出した。


 そういえば音無と言えば。


「なぁ健一。決闘って何の事だったんだ?」


 俺は音無の疑問を思い出して健一に聞いてみた。


 携帯をいじくっていた健一は、携帯から俺に視線を移し、答えた。


「おいおいマジで忘れちまったのか? 前に一回言っただろう?」


 健一は少し呆れ顔になった。


 ……健一に呆れられると、なんかちょっとむかつくなぁ。


 今度偶然を装って階段から落とすか。


 うんそれがいい。


 ふぅやれやれ、と溜息をつきながら、健一は偉そうに話し始めた。


「いいか? 決闘って言うのはダナ、俺が、学校という名の荒野で見つけたお姫様に、想いを告げる、凛然なる儀式の様なものなのだヨ」


 わーすごいなー。


 何がすごいって、荒野とか凛然とか儀式とかの言葉を健一が知っていた事がすごいよなー。


 心の中で盛大にバカにしつつ、俺は、ハァ、と一つ溜息をついた。


「要するに見ず知らずの女の子に無理やり告白するって事だろ?」


「誘拐みたいな言い方するなよ~」


 いやマジでお前が言うと、シャレに聞こえんから怖い。


「田中君はそこまでして彼女が欲しいんですか?」


 俺の横から礼が顔を覗かせて言った。


「う~ん、そうだね」


 健一は少し真面目な顔になる。


「恋人を作るのは……マイ 夢、って言っても過言じゃないね」


 ……ああ、夢を英語で言えなかったんだな。


 もうお前の言葉に、脳の理解力が追いつかないよ。


「相変らず青春だわね~」


 そんなこんなしてる内に、凛さんが健一が頼んだカプチーノを持って戻ってきた。


 健一はカップを受け取りながら、凛さんに泣きついた。


「凛姉さ~ん! みんな酷いんだよぉ! 俺が告白する前から、もう微妙にヒいてんだよ! ねぇ酷くない!」


 ヒかれてる自覚はあったのか。


 ぶっちゃけかなり驚いた。


「う~ん、そうね~。きっと、大丈夫だと、思うよ~」


 凛さんは困り顔になりながらも、健一の頭をよしよしと撫でてあげる。


 健一は嬉しそうだ。もう、すごく嬉しそうだ。


 そして嬉しそうな顔から一転、あ、と何かに気付いたような顔になった。


「そういえばさ~礼ちゃん! さっきまた俺の事、田中君って呼んだよね? いつも言っているじゃあないか。俺の事は愛を込めて、健一君、って呼んでって。礼ちゃんが功成を呼ぶ時みたいにさ」


 礼は眉を八の字にして苦笑いを浮かべる。


 ちなみに、言わなくても言いと思うが、健一は俺達の関係を知らない。


 凛さんや音無には、それぞれの理由で話したが、健一にだけは絶対に言ってはならない。


 妙に騒ぎまくった後、学校中の奴らにバラすに決まっているからだ。


 っていうか普通、名前で呼び合ってるんだから気付きそうなもんだ。


 そこらへんは健一のバカさ加減に感謝だな。

お読み下さりありがとうございます。

最近、新作『ストーカーとドMと露出狂の変態美少女が迫ってくるけど変態だからとかじゃなく同性愛者なんで興味ありません』を書き始めました。下にリンクがありますので一部分だけでもいいのでよろしくお願いします。

面白いと思って貰えましたら、ブックマークや★の評価、感想をよろしくお願いします!

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