夢と日常と7
「と、言う訳なんですよ」
凛さんに、俺達の出会いを一から十まで話した俺は、ふぅ、と溜息をつきながらカップに残っていたコーヒーを少し飲んだ。
「なるほどね~。二人の契約にはそういういきさつがあったんだねぇ」
凛さんは使用済みのコップを洗いながら納得の声を出してくれた。
しかし、話を聞いている間も仕事を忘れないとは……。
さすがは女店主というべきか。
「いいわね~、まさしく青春だわ。今の内に堪能しときなさい。その日常はかけがえの無
いものなのだからね」
優しげに笑いながら、昔を思い出すように凛さんはそんな事を言ってきた。
と、思った次の瞬間、優しげな顔をニヤリとした顔に変えて、いや~本当にいい話だった、と前置きして、
「功成君が礼ちゃんと付き合ってるって言い切れなかった理由も解ったしね」
と、言ってきた。
理由? 俺達の出会いと契約のいきさつの外にそんな事まで言ったっけ?
俺はコーヒーのカフェインを体に投与しながら必死に考えた。
……なんだか身の危険を感じたから。
「ずばり、功成君、礼ちゃんに好きだ、って言ってないでしょ!」
凛さんはズビシと人差し指をこちらに向けてきた。
横に座っている礼はピクッと動いた。
俺は激しい後悔の念に襲われた。
……図星だったからだ。
ああ俺のバカなんで気付かないんだよ普通の奴だったら今の話聞いて気付きそうなもんだろうが。
そこまで考えて、俺の出した結論は、
「アハハ何のことやら」
ごまかす、だった。
一見無謀に見えるこの作戦だがしかし凛さんは俺の話を聞いてあくまで推測を述べたのであって推測は絶対的に事実とはかけ離れていてつまり事実を知らない凛さんはごまかし続ければ――
「――ええ、確かに、好きだ、という言葉を言ってもらった事はありません」
アーイタタタタ……。
「ええ?! 本当に?」
凛さんは派手に驚いた。
やっぱりごまかし続ければ良かったんだなぁ……。
まぁ今さらだけど。
「うわぁ、高校生の時からそんな甲斐性無しって、功成君……。ちょっとやばいよ」
夕日に向かって、大きなお世話だバッキャロー、と叫びたい気持ちになった。
「でもね功成君、大丈夫よ」
凛さんは俺の肩に手を置き、慈愛に満ちた顔で言ってきた。
「甲斐性無しなんて称号、すぐに撤回できるんだから。甲斐性無しを撤回するにはね、行動で示せばいいのよ。そう、甲斐性無しなんて、あって無いようなものなんだから」
……そんな人の事を甲斐性無し甲斐性無しと連呼しなくても。
あれ、なんでだろう目から体液が……。
「それで?」
俺はぶっきらぼうに聞いた。
「具体的には俺は何をしたらいいんですか?」
しばらく凛さんは思案顔になったが、すぐにパッと顔を輝かせると、とんでもない事を言ってきた。
「そうね、まず礼ちゃんに好きだ、と言うのは決定事項ね。ね、礼ちゃん?」
礼は凛さんを見て、俺を見て、少し考えて。
「そうですねぇ」
やっぱり肯定した。
「あとはね~」
もう完全に遊びモードの凛さんは更に俺を窮地に追い込む。
「オプションでキスくらい欲しいものね」
「そうですね――って、ええ?! ななな何言ってるるですかっ凛さんっ」
わぁ~礼が慌ててる~、めずらし~。
アハハハハもう現実逃避しようそれがいい。
「何を慌ててるの? 礼ちゃんも功成君にキスして欲しいでしょ?」
「ええ?! いや、えっと、その……っ! ………まぁ、その、少しは……」
礼はそうとう混乱しているようだ。
普段では絶対にありえないような事を言っている。
俺は、思った。
この状況下において、あの状態の礼を救い出せるのは、俺だけだ、と。
そう、まさに俺の意地とプライドをかけた戦いが、今始まるのだ……!
「凛さん、いい加減に――」
「――私特性のコーヒー最近値上げしようと思うんだけど、功成君どう思う?」
「っすいませんっしたぁ!」
そして今終わった。
ちなみに今の俺の体勢は土下座だ。
何を隠そうこの俺は、一秒土下座の必殺技を持っている。
え、何? すごいって? ははっよせやい照れるじゃないか。
……まぁこの技を使えば誰だって哀れに思って許して――
「まぁコーヒーの値段は五千円に留めておきましょう」
――くれなかった。
しかし、俺がお金を集めてるって話を聞いても、なお俺からお金を奪うとは……。
凛さん、あなたは恐ろしい人だよ。
お読み下さりありがとうございます。
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