勉強会4
「よし、始めるか」
その俺の言葉を皮切りに、勉強会が始まる。
「健一、解らないところがあったら質問しろよ」
教科書を開きながら健一に言う。
元々の目的はそれだからな。
「じゃあ早速質問していいか?」
そう言って健一は、数学の教科書を俺に見えるように差し出した。
「どれどれ……。ん?」
俺が覗き込むと、健一はおかしなところを指差している。
普通、数学なら問題を指していそうなもんだが、こいつは――。
「なんで問題文を指してるんだ? 問題文の意味が解らないって事か?」
「いやいや、違うよ。どこを見てるんだ? ここ、だって」
そう言ってまた問題文を指す健一。
いや、ちょっと待てよ。
すごくピンポイントで見れば……。
「素数……?」
「へー素数って、そすうって読むのか。ありがとう、助かったよ功成」
どうやら読み方で困っていたらしい。
「バカか! お前はバカか!」
「バカって言った方がバカなんだからな!」
「うるせえ! 大体、素数って他にどんな読み方があると思ったんだよ!」
「素数とか素数とかだ!」
「素数なんて読み方が、数学にある訳無いだろうが!」
「ってめえ! 素数をバカにしやがって! 今すぐ素数に対して誠心誠意謝れ!」
「謝るかボケ! 大体何に対して謝ってるか謎過ぎるだろ!」
素数についての討論を健一と繰り広げる。
そんな中で、とうとう堪忍袋の尾が切れたのだろう。
――礼の凛とした怒声が部屋に響いた。
「功成君! 田中君! いい加減にしなさい!」
ピタリと止まる俺と健一。
礼は勢いそのままに、早口にまくしたてる。
「まったく……さっきから黙って聞いていれば何ですか! 漢字の読み方一つで子供みたいに! 少しは周りの事を考えてください!」
その礼の怒声が、耳にエコーのように繰り返され、俺の胸に深々と突き刺さった。
胸の痛みに耐え切れず、膝を着き、手を着く。
何てこった……! 俺が礼の邪魔を!
「す、すまない……! 二度とこんな事は無いよう、気を付ける……」
心の底からの謝罪をする中で、横を見れば健一が、気を付けるんだぞ……、と言わんばかりの顔で俺の肩に手を置いていた。
礼に謝ったばかりである手前、手を出さないが、いつか殺すと心に誓う。
「ふぅ……本当にしょうがないですね。始めたばかりですが休憩でもはさみましょう。
紅茶でも淹れてきますので、少しくつろいでいてください」
そう言って礼は部屋を出て行く。
手伝おうと思い、俺は立ち上がった。
「よし漁るか」
だが健一の言葉に足を止める。
「健一君、もうこのパターンは読者に飽きられてきたと思うんだ」
「確かに俺もそう思うが、その発言は色々と危ないから止めた方が良いと思うぞ。そして俺の髪を鷲掴んで今にも引き抜こうとしているその手の動きも止めた方が良いと思うぞ」
「そうかそうか」
ブチブチブチッ!
「ぎゃあああああああああ!!」
おーいっぱい抜けたな。
さーてゴミ箱は、と……。
「って、何をしてるんだ、音無!」
ゴミ箱を探して視線を巡らせれば、視界に入ったのは机を漁る音無。
音無は顔だけをこちらに向け、言う。
「……彼女の部屋に上がった、シチュでは、部屋を漁る。これデフォ……!」
なんだろう、音無の言う事がまったくをもって理解できない。
立ち尽くす俺に、丸くうずくまっていた健一は笑いながら言った。
「功成よ……お前は漁らなくていいのかい? 昔好きだった男の事とか、お前以外の男が気になっているとか、そういう物が出てくるかもしれねぇぜ?」
その悪魔の囁きに俺の心は揺さぶられる。
くっ……確かに気になるが、俺は礼を信じてるんだ!
「音無、止めるんだ! 人の物を勝手に漁るなんて、健一みたいなクズがやる事だぞ!」
「……そう言いつつ、なんて一緒に机を漁ってるの?」
くっ、しまった……! 手が勝手に!
「違うんだ! これは……そう! 音無が漁った後を綺麗にしてるだけなんだ!」
「あ……中学時代の、文集発見」
「見せてください!」
しまった……! 今度は口が勝手に!
「……一緒に、見る?」
「見ます」
もう何でもいいや。
だって気になるし……。
礼とは中学別々だったしな。
忌々しい事に健一とは一緒なんだけど。
お読み下さりありがとうございます。
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