夢と日常と2
時刻は4時20分。
今日の授業は全て消化され、あとは帰りのHRを残すばかりだ。
担任の先生はまだ教室には来ておらず、クラスメイト達は皆、思いのままに動き回っている。
俺は廊下に立たされた時に持たされたバケツ(水入り)のせいでジンジンする手をさすりながら、帰りの準備をしていた。
廊下に立たせるだけでなく、バケツまで持たせるなんて時代錯誤もいいところだ。
そんな事を思っていると俺の悪友、田中健一が、後ろからいきなり俺の首に抱き付いてきた。
「功成ちゃーん」
うおっ、という驚きの声を上げながら、俺は鳥肌が立つのを感じた。
「やめろ、キモい! 離れろっ、このバカが!」
抗議の声をあげる俺の首を健一はますます強く抱きしめてくる。
しょうがなく俺は健一に対して、首一本背負いを敢行した。
あべしっ! という声を発しながら、机を巻き込み、そして健一はそのまま地に沈んだ。
ふぅ、と安心したため息を出しながら俺が再び椅子に座ると、健一は泣きながら、
「最近、功成ちゃんの俺に対する扱いが酷いと思うのは、俺だけ?」
と言ってきた。
安心しろお前だけだ。
そう心の中で言ってやりながら、俺はそのまま背もたれに背を預ける。
するとすぐに泣き止んだ健一も俺の前の席に座ってきた。
「なぁ功成、お前、今日が何の日か分かるか?」
そしてそんな漠然としたことを聞いてきやがる。
はぁ? 分かるわけ無いだろ、と言っても良かったが、それだとまためんどくさい方向に話がいくと思ったので素直に聞いてやる。
「知るか、何の日だ」
健一は微笑んで、
「ザ・決闘」
と言った。
なんで、‘ザ’を付けたのかは聞かないでおこう。
「決闘? なんだそりゃ?」
「えぇ!? 忘れちゃったの!? 前にも一回誘ったじゃん」
「知らん忘れた」
「なんか、すごくどうでもいい風に言うね・・・。健ちゃん寂しいなー」
そりゃあどうでもいいからな。
あと自分にちゃんを付けるな。マジでキモイから。
俺は本当にウンザリな気持ちになりながら、机に突っ伏した。
すると後ろから誰かが服の裾をつまんでくる。
後ろを振り返ると、そこに居たのは小学生のように小さな女の子。
思わず迷子? と聞きたくなるくらいに場違いな小ささだ。
しかし彼女は迷子でもなければ小学生でもない。
彼女は俺のクラスメイトだ。
「…決闘って、何?」
「音無か…」
彼女こと音無莉央は小学生のような容姿だが間違いなく俺のクラスメイトだ。
いつも眠そうな半眼で、喋れば棒読み。
クラスでも少し浮いている。
だが、一部の男子には大人気だそうだ。
理由はあまり追求したくない。
「決闘って言うのはだな、健一が――」
「――っ莉央ちゅわーーーんっっ」
言いかけたところで、健一が音無に飛び掛る。
どごっ!
…だがまぁお約束で、簡単に避けられ、健一は机と正面衝突した。
音無は怪訝な顔つきになる。
「…何?」
「気にするな。いつもの発作だ」
「…そう」
ここでついでに健一についても説明しておこうと思う。
健一は、バカで、女好きだ。以上。
「えーっと、話を戻すとだな、決闘っていうのは…」
「…決闘って、いうのは?」
…………………。
そういえば知らないんだった。
健一に聞こうにも、完全に気を失ってしまっている。
虚ろな声で、女に殺られて逝くなら本望や…、なんて言ってるが、まぁ健一なら大丈夫だろう。
ちなみに健一は音無に殺られた訳ではないが。
俺は音無に、決闘について自分は何も知らなかった事を告げた。
音無は、そう、と言うと、踵を返しながらもう一つ言葉を付け足した。
「…それなら、涼風に来たときに、教えて。…今日、来るんでしょ?」
俺は、もう歩き出していた音無の背中に向かって言葉を返した。
「ああ、わかった! それまでに健一から聞いておくよ。俺達も、すぐに行くから」
音無は横顔だけをこちらに向けて、こくん、と頷いた。
ちなみに、俺が言った’俺達’は俺と健一ではない。
だが間違いなく、’俺達’なのだ。
間違いなく。
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