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夢と日常と1

 気付いたら走っていた。


 空はどこまでも青く澄み渡っている。


 地面は花で埋め尽くされていて、目の前には蝶なんかがヒラヒラと飛んでいたりする。


 僕は意味もなく目の前の蝶を追っていた。


 しかし速い。


 こっちは全力で走っているというのに全く追いつけない。


 っていうか……。


 いい年こいて花畑のど真ん中で蝶を追っているって……。


 しかも全速力で……。


 少々……いや、かなり…アレだよな……。


 やべ、なんか涙が出てきそう。


 ――いや挫けるな、僕!


 目の前の蝶を追い、そして捕まえる。


 これはいわば僕の使命!


 僕は必死に蝶に両手を伸ばす。


 ていっ! ていっ!


 簡単に、且つ優雅に僕の手をかわす蝶。


 と、ここで不思議に思う。


 いつから走っているのかは分からないが、僕はかなりの時間を走っているはずだ。


 なのにまったく息が切れない。


 なぜだろう、と思ってきたところで何か声が聞こえてくる。


「お…、…川っ! …………………絵…っ!」


 その声を聞いた途端に僕の頭から疑問が吹っ飛ぶ。


 さては、僕の使命を妨害する悪魔だな!


 負けるかっ、僕は蝶を捕まえるんだ!


「何を………い………っ! お…っ! 起…ろ梓…!」


 くっ、しつこいやつだ。


 って、ちょっと待てよ。


 なんかこの声聞いたことがあるような……。


 衝撃はその後に来た。


 ※ ※ ※


 まず頭に衝撃が来た。


 その後に体が浮遊感に包まれた。


 そして全身に痛みが広がった。


 これを言葉にして表すと、まさに今俺の体には、千尋の谷から落とされ、転げ落ちながらも追い討ちとしてシャイニンウィザードを食らったような痛みが、そして長時間、船に揺られ続けたような酔いが、見事にマッチして、初めて彼女と来た遊園地で絶叫系は苦手なのに見栄を張って三回連続で乗ったような――


 ――まぁ要するに落ちたのだ。学校の机から。


 なんで落ちたのか、それは今の状況を見るに簡単に察せる。


 俺の横には倒れたイス。


 俺のよだれでべちゃべちゃの教科書を載せた机の横に立つ憤怒の形相をしたいかつい男性教師。


 あっちゃーやっちゃったよコイツみたいな空気が漂う教室。


 うん、まぁすごくすごーく簡単に言えば先生のゲンコツが落とされたってことだネ、ボクの頭に。


 先生は黒板の方へ歩きながら話しかけてくる。


「絵川君、ずいぶんと爆睡だったようだね」


 俺は倒れたイスを直しながら、フランクに笑いつつ受け応える。


「ハハっ、何を言ってるんですか先生。俺が先生の授業で眠るハズ無いじゃないですか。僕先生の授業が一番好きなんですよ」


 すると先生はニンマリと嫌な笑みを称えながら言ってきた。


「じゃあ今から先生が出す問題もすんなりと答えられるな?」


「問題?」


 と、問い返しつつも冷静に考える。


 問題ってどんな問題が来るんだ?


 まさかまだ習って無いような問題が来ないだろうな?


 っていうか、今何の授業だっけ?


「では問題だ!」


 教室中に先生の野太い声が響く。


 俺は身構えた。


 どんな問題が来ようとも、答えればいいんだ…っ!


 自分を、そう自分を信じるんだ…っ! マイ、ビリーブ、俺!


 そして先生は、ゆっくりと口を開いた。


「君は昨日の夜何をしていたでしょうか?」


 はい、ちょっと待ってくれ。


 この問題(?)はどこかおかしい気がする。


 いや、この問題がどの科目にも属していないようにみえるとか、先生がクイズ口調で聞いてくるとか、そういう事じゃなくて。


 なんで問題の内容が俺の私生活?


「なんだ? この程度の問題も答えられないのか?」


 先生が嫌な笑みを浮かべてくる。


 くっ……! これは簡単な問題ですよ、みたいな言い方をしやがって……っ!


 トン トン


 そこで俺の机を小突く音が聞こえた。


 音の方向を見れば俺の悪友、田中健一が親指を立てて俺に任せろといった顔をしている。


 お前に頼るのは癪だが、今はそんな事を言ってられねぇ、力を貸してくれ!


 そう目で訴えると、健一は頷き、目にも止まらぬ速度で紙に何かを書いて俺にバッと見せてきた。


 そこに書いてあったのは――


 ――すいません、先生の筋肉を想っていたら眠れませんでした。良かったら触らせてくれませんか?


 ドズッ!


「ぎゃああああああああああああああああああああ!」


 健一は目を押さえて床を転がった。


 まぁ俺がチョキを目にくれてやった事が原因だと言わないでもない。


「絵川! 早く答えろ!」


 先生も健一のことスルーのようだ。


 しかし、困った。


 この問題(?)にどう答えたらいいものか……。


 俺が真剣に考えていると、先生はおもむろにため息をついた。


 そしてやけに優しげな目で、


「絵川……先生も鬼じゃないんだ。正直に答えたら許そうじゃないか」


 と言ってきた。


 そうだよ……正直に言えば、いいんじゃないか。


 別に俺にはやましい事なんてこれっぽっちも無いんだから。


 俺は清々しい気持ちになりながら、顔を上げ、言った。


 正直に。


「徹夜でゲームしてましたぁ!」


「廊下に立っとれぇ! このばかもんがぁ!」


 世界って不条理なんだな……。


お読み下さりありがとうございます。

最近、新作『ストーカーとドMと露出狂の変態美少女が迫ってくるけど変態だからとかじゃなく同性愛者なんで興味ありません』を書き始めました。下にリンクがありますので一部分だけでもいいのでよろしくお願いします。

面白いと思って貰えましたら、ブックマークや★の評価、感想をよろしくお願いします!

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