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~一章~ 転移後初めての夜


「リリー!エメリラルド国から急ぎの知らせがきているらしい」


 ニイルが席を立ち耳打ちをする。


「少ししたら、席を外して外に出てきてくれ。私は、先に出て待ってるから」


 リリーは、小さく頷き合図を送った。


 周りのご婦人方に挨拶をしたあと、リリーは急いでニイルの側まできて「何かありましたか?」と、訪ねる。


「私も、兄に急いでリリーを連れて来るようにと呼ばれたばかりで、内容は着いてからと···」


 私室に来いと言われたらしく「ただ事ではないのね?」と、ふたりは足早でサフィニア国国王陛下の私室へ向かった。



「陛下!デイニイル閣下とリリーアニス女王がおみえになりました」



「入れ!」



 私室まで来ると、扉の前に立っていた近衛騎士が急いで陛下にふたりの到着を伝えた。


 陛下の許しを得ると、即座に扉を開いて中に促された。


「急ぎ話すことがある。先ほど、エメリラルド国の宰相から緊急通達があった」



······マーシュ宰相から?



「フローが行方不明になった」



······え?······なぜ?


······3人を無事に見送ったと、お義父様とお義母様から連絡があったばかりなのに?



「兄上!どういうことですか?」


「義兄様。フローが······ですか?」



「ゲートを使って帰国するとき、三人は手を繋いでゲートに入った」


「しかし、あちらに現れたのはフェンとエリクの二人だけで、フローは転移されていないという内容だ」



 ふたりは混乱した。



「ゲート前の警備をしている、第三騎士団の記録を見たが、やはりフローもサフィニアを出発している。···フローは、どこかに転移しているはずだ」



「兄上!兄上の権限で、今すぐ魔術研究局を動かしていただけないでしょうか。ゲートの痕跡を調べたいのです。フローを早く見つけてやらなくては···」



「義兄様。私からもお願いいたします」



「······わかった。ゲートの痕跡を辿るにも時間が掛かるだろう。すぐにでも、魔術研究局に手配しよう」







「只今、サフィニア国に滞在されているリリーアニス女王陛下より、魔封書が届きました」


 マーシュ宰相からフェンが封書を受け取る。


 内容は、フローはサフィニア国からは転移していること···ゲートの痕跡を調べるが時間がかかること···。そして、この事に箝口令を敷くことになったので、他言しないこと。

 詳細がわかり次第、追って連絡をするので、家に帰り通常通りの生活をすること···と書かれていた。


 フェンが封書に書かれていた内容をマーシュ宰相に話すと「城内でも箝口令を敷きます」と言って通達を出した後、二人の帰りの馬車を用意してくれた。







 厩舎の奥の房を覗き込むと、明るいシルバーグリーンの髪色をした女の子が中で座っている。


 誰もが目を見開いた。



「お嬢さん?」


 第一魔獣騎士団、副団長のグレイが声を掛けた。


 濃いシルバーに薄い紫が入った髪。縁は濃いシルバーから内側に向かい薄い紫に変わり魔族特有の縦長の瞳孔を持つ瞳が、フローを凝視していた。


 声を掛けられ、フローの肩が一瞬跳ね、一呼吸置いたあとゆっくり振り返り······泣き出した。


「ごめんなさい」


「黒いフワフワだったのに」


 そして泣き続けている。



 房の中には誰ひとり入ることが出来なく、房の前から声を掛けられる。


「······黒いフワフワ?」


「······よくわかんねーが、もう泣くな、なっ!」


「お兄さんは、グレイって名前なんだけど、お嬢ちゃんのお名前は?」


 泣き止まないフローに、みんな慌て顔で聞いているが、泣き止みそうにない。



「怖くないよ!こっちにおいで!」


「みんな正義の味方の騎士団員だよ!」


「泣いているとお目めが腫れちゃうぞ!」


 騎士団員たちは、各々頑張って声を掛けてみるが、全く泣き止む気配がない。



「「「アル!どうにかしろ!」」」



 自分たちでは、どうにも泣き止ませることが

出来ないと覚った団員達は、それを見ていたアルに矛先を向けた。


 アルは軽くため息をつき、フローを見据え説得し始める。


「騎士団のみんなはフローを心配しているだけなんだ。その子の色が変わったことをじゃないよ。フローのことが心配なんだ。その子の親は父上のことだけしか認めていないから、みんな房には入れないんだ。なのにフローが房に入っているから怪我とかしていないか心配してるんだよ。一度房から出てみんなを安心させてくれないか」



 すると、フローは小さく頷き、涙をハンカチで拭ってから房から外に出た。


「ご心配をお掛けしました。私はフェアローラです。フローとお呼び下さい。」


 肩まであるシルバーグリーンの髪にグリーンとブルーの緑彩眼は騎士団員達の興味を惹いた。


 騎士団員達はちょっぴり強面揃いであり、フローが怖がらないように『ライ!お前の出番だ。泣かせるなよ』シルバーブルーの長髪と瞳の美形騎士団員ライがフローの相手に抜擢された。ライ様は、フローの前で膝をつき目線の高さを合わせてから微笑んだ。


「はじめまして。私のことはライと呼んでくれると嬉しいな!フロー嬢はちょっと耳先が尖っているし独特な髪の色からするとエルフ族だよね。ここまではどうやって来たのかな?フロー嬢のことを教えてくれるかい?」




 家がエメリラルド国にあることや家族のこと、サフィニア国からここまで来たことと最後に黒いフワフワのことなどフローは思い出しながらライ様に話した。


「フロー嬢はひとりで頑張ったんだね。知らない場所にきて、突然ひとりになっちゃって怖かったね。!ここでは私達がフロー嬢を守るから、もう大丈夫だよ」


 ライ様は安心するよう両腕を伸ばして、フローの両手を優しく包んだ。


 それを見ていた騎士団員達は『次からの面倒事は全てアイツに任せよう···』と、全員一致で頷いた。







「嫌いなものはないかな?二人とも···ゆっくり食べなさい」


「はい。父上」


「あ、ありがとうございます。とっても美味しいです」


 ライ様とお話しを終えた後、厩舎にアルの父様が来て、ライ様がフローに起きた今日一日の出来事を報告した。


 そのときに、今いる場所が黒国の王宮内にある第一魔獣騎士団の厩舎で、中にいる魔獣は魔狼だと教えてもらった。


 そして今は、第一魔獣騎士団寮の食堂でアルの父様を前に、アルとフローは遅い夕食にありついている。


「両親が心配されているだろうから、話を聞いた後すぐに城に連絡を出したのだが。我が国の王もサフィニア国に祝言に渡っているため、両親に事が伝わるまで、少し時間が掛かってしまうようだ」


「ひとまず、騎士団の寮に部屋を用意した。我が家にと思ったのだが···将来の醜聞になる恐れがあるので、不自由しないよう侍女を寮まで呼んだから何かあったら侍女に言いなさい」



 フローは赤ちゃん黒フワのことが気になる旨を伝えると、アルの父様は明日また厩舎に連れていってくれる約束をしてくれた。


「フロー嬢にお願いがあるのだが、先ほどの魔狼に名前を付けてもらいたいのだが······明日、厩舎に行くまでに考えてはもらえまいか?」



「魔狼にも名前を付けるのですね!私があの子の名前を付けていいのですか?」



 アルの父様が『フロー嬢にしか付けられないのだよ』と言って、何故か少し困った顔をしていた。




 食事の後、用意してくれた寮の部屋へ案内されると疲れてベットに倒れ込んだ。


『名前は一生の宝物で、この世に産まれてからの初めてのプレゼントなんだよ!』



······父様が言っていた···っけ···



······そうだ···兄様たち···


······何処かに転移しちゃっ···た···


······のかな···




「フロー、ライだけど。着替えを持ってきたんだ。入っていいかな?」


 ドアをノックしても、声を掛けても返事が返ってこないので、そのまま入室するとフローがベットにもたれ掛かるようにして寝息を立てていた。


 ベットの上に寝かせ直して着替えをサイドテーブルに置いた後、小さな声で話し掛ける。


「大変な一日だったね。ゆっくりおやすみ」


 ソロリと移動し、起こさないように静かにドアを閉めた。




本日、また投稿します

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