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~一章~ それぞれ2



 ティーポットにハーブとジンジャーを入れて湯を注ぎ3分間蒸らす。砂時計をひっくり返し、砂が落ちきるのを待つ。


「王宮では、たまにふらりとコイツが現れて、フローの様子を教えてくれるんだ」


 アルの脱いだ外套の中から大きなあくびをしながら出てきたのは、サラマンダーのグラダだった。


『美味しそうなお菓子の匂いがする』


『グラダ、お菓子食べたい』


 グリーンの瞳をうるうるさせながら、先ほどゼンが持ってきてくれた焼き菓子を見ている。


「どうぞ」


 篭に入っているそれをひとつ取りグラダに差し出す。すると、フヨフヨと浮かび上がりフローの前まで飛んできて、前足で器用に掴む『ありがとう』お礼を言って食べ始めた。


「お茶をどうぞ」


 テーブルの上にカップを置くと、アルはそれを一口飲んだ後「刺激的な味がする」気に入ったらしく、すぐに飲み干してしまった。


「試験はどうだった?」


「それと、エリク兄様とここまで来たの?」




「試験は、大丈夫。多分、全回答間違えていないと思うよ」


 さらりと凄いことを言ったような気がする。


「試験は、他国からの受験者全員がひとつの部屋で行ったから、試験前にエリクから声を掛けられたときに、帰りにフローに会いたいから緑国まで連れて行ってくれとお願いしたんだ」


 そして、さらりとフローの髪を一房手に取りキスを落とすと、妖艶な笑みを浮かべフローを覗き込んだ。


「フローと相談したいことがあったからね。手紙だと、王宮で一度内容を確認されるからさ」


「······フロー?顔が赤いけど?熱でもあるのかい?」



「······な、ないわ」


「もう一杯、······お、お茶を淹れるわね」


 席を立ち、ポットに新しい茶葉とジンジャーを入れて湯を注ぐ。


······な、な、何あれ


······フェロモン駄々漏れだし


······髪にキ、キスとか何処で覚えてきたの


······王宮勤務、恐るべしだわ



 お茶を淹れ終わり振り返ると、今まで座っていた椅子を、私の椅子の隣に並べて座り直したアルが「ダメかい?」眉を下げてお願いしてきた。


······断れません


······覚悟を決めるしかないわ


······私、頑張れ



「······ダメじゃないわ」


 カップを置き、アルの隣に自ら座る。


「相談って言うのは何?」


 恥ずかしくてアルの顔が見れなく、そっぽを向いたような形で聞いてしまった。


「うん。······僕とフローの婚約についてだよ」


「こ、こ、婚約?」


 突然の婚約発言に、持っていたカップからお茶をこぼしそうになった。


 以前、第一魔獣騎士団寮の食堂にゲートを作るために訪れていた父様から、母様と結婚したときの話しを聞いて、緑国も黒国にもない婚約の話を聞き、アルは青国での形式を取り入れようと考えた。


 でも、これからのことを決めるのはフローの気持ちや考えを聞いて、二人で話してからと思い、エリク兄様に連れてきてもらったと話しだした。


「これからのことを一緒に考えてほしい」


 アルは、大学に受かったら婚約したいと思っているという。そして、二年間大学に通い、卒業後に第一魔獣騎士団で地盤を作りフローが大学を卒業したら婚姻を結びたい。


 婚約をしたい理由は、青国では婚約者がいると他の異性と二人きりになってはいけないし、婚約者がいると分かればほとんどの異性は身を引くこと。牽制になる。


 そして、魔術世界大学は青国にあり、魔法の代わりに魔術を使う青国の学生が大半なのだ。


「婚約者を語れなくても、婚約者がいるとは語れるだろう?」



······お互いに、変な虫を寄せ付けない訳ね


······なるほど、婚約って素晴らしい!


······名案だわ!



「うん。いいと思う」


「絶対、婚約は必要よ!」



······あっ


······飛び級



「アルは一年早く大学に入学するけど、私もアルと一緒の学年になりたいから、飛び級試験を受けたいと思っているの。どうかしら?」


「えっ、······いや、フローもきちんと二年間大学で学んでほしいと思うよ」


「どうして?」


「同じ学年だと、意識してしまい···多分バレる。それに、せっかく大学に行くんだ。友達も出来るだろうし、二年間しか学生でいられない」


「今は、王宮勤めだからエメリラルド国に来ることが出来なかったけど、大学に入学すれば休みの日にフローと会うことが出来るしね」


 腰に腕を回し引き寄せられ、フローの頭上に頭をコテンと落とされた。


「······アル、近いわ。頭から足の先まで全部くっついてる」



「えっ?嫌なの?」



「ち、違うわ!嫌じゃないけど、ど、何処で覚えてきたの!」


 プルプル震えながら全身真っ赤に染まったフローは怒っているのではなく、恥ずかしいが頂点に達しているのだ。



「父上と母上かな?いつもくっついてるよ」


 それは、斜め上をいく回答だった。



「えっ?······レ、レイモンド団長が?」


 アルは頷いた後、両親のイチャイチャ話をするのは恥ずかしいから「おしまい」と、話を切り上げた。


「話を戻すけど、婚約はする方向でいいとして。フローも大学は二年間通うことでいいかな?」


「······他に好きな人を作らないって約束してくれる?」


 俯きながら小さな声でアルに約束を迫る。


 可愛らしいフローのお願いが嬉しいと、アルに両腕で抱きしめられた。


 

「約束出来るよ。フローは、急がなくていいし焦らなくていいんだよ。僕にはフローだけだからね。······フローもそうだと分かって嬉しいよ」


 抱きしめられた腕に、更にギュウギュウと強く力が入ってきた。


「······ア、アル···い···痛い。痛いから」




 




「······以上を二人で話し合いました」



 夕食後、ドゥルス家の客間にて、両親とテーブルを挟んで向かいに座り、アルと私は今後のことを相談した。


 母様は笑顔で何度も頷きながら話を聞いてくれていたが、父様は若干しかめっ面だった。


「ニイル、その顔どうにかならないの?」


「いつもこの顔だが······」


「遅かれ早かれフローはお嫁に行くのです。アルフォード様は、婚姻までの手順を踏んで下さっているのですよ」


「············」


 小さなため息を吐いた後、父様はアルを真っ直ぐ見据え口を開いた。


「アルフォード様、ご両親はフローとのことをどのようにお考えですか」



「先に、自分の考えは両親に話してあります。とても喜んでくれています。今日、こちらに来た結果次第に成りますが、両親も早いうちに御挨拶に伺いたいと言ってくれています」



「······そうか。······では、受験に合格したら婚約を許そう。サフィニア国では書面での形式が必要になるが、オブラニキス国とエメリラルド国では婚約という形式が無いため、今回は両家が集い約束を交わす形でどうだろうか?」



「はい。ありがとうございます」



「父様!ありがとう」



 話が決まると、母様がお茶を淹れ始めた。


 ドアをノックしてからフェン兄様とエリク兄様が顔を覗かせ「お疲れの方々に甘い物をお持ちしました」シトラスタルトとベリータルト、ベーコンサンドを軽食にとテーブルの上に並べている。


「なぜ、ベーコンサンドなんか持ってきたんだ?」


 まだ夕食を食べてから一時間位しか経ってないだろうと、父様がフェン兄様に問いかける。


「未来の義弟が、お腹を空かせる頃だから」


「そうね。緊張して食事もそれほど食べれなかったものね」


 母様がクスリと笑いアルを見た。


 アルは、少し顔を赤らめ恥ずかしそうに「···義弟」ニコリと笑顔でフェン兄様に「ご馳走になります」と、サンドイッチを食べ始めた。



「……そうだったな……たくさん食べなさい」



 母様がお茶をカップに注ぎ、フローはタルトを切り分ける。

 フェン兄様がタルトを皿に取り分け、エリク兄様がカトラリーを配置する。

 アルはサンドイッチをほお張っている。

 父様がみんなの様子をクルリと見渡す。




「幸せだな」


 誰にも気付かれないくらいの小声でつぶやき、至福のひとときを噛みしめた。







一章 おわり




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