~一章~ エリク黒国へ行く
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「「「おかえり!」」」
「「「····はじめまして!」」」
ゲートから黒国に転移した先は
「···ただい···ま···じゃなくて、ここは?」
目の前には第一魔獣騎士団の面々だ。慌てた矢先、大声を張り上げてしまった。
「もちろん、第一魔獣騎士団の寮だよ」
···それは聞いていたから分かってる
···どうしてここなのかってことよ
「そんなことより、呪われたのか?」
···みんな自然にご飯食べながらチラ見?
「呪いじゃなくて、祟られたのでは?」
···祟られた?って意味不明なんですが
「···なんで食堂なの?···それに、祟られたって何をよ!」
モンド様が厨房から出てきて「食堂長のシェフのモンドと申します」一度団員たちを一瞥してからエリク兄様に挨拶をした。
それを見た団員たちは、直ぐさま席を立ちエリク兄様に次々と挨拶をする。
「はじめまして、フェアローラの二番目の兄のエリクシエル·ドゥルスと申します。いつも···今も?妹がご迷惑をお掛けしています」
挨拶を済ませたところを見計らい、「食堂にゲートが設置されているなんて···」フローがモンド様に問い、団員たちは「呪い関係?」とエリク兄様に問う。
「とりあえず、話しはお茶を飲みながらにしましょう」
みんなの隣のテーブル席に座るようモンド様に言われ、淹れたての紅茶を一口頂いた。
ゲートの設置場所については、ヴェル様と父様の間で話し合われて決まったのが食堂だったらしい。当初は、フローが借りている部屋にする予定だったが、転移するとき護衛の同行が無しになったために何かしらあればすぐ対応出来る場所にということだった。
「ここなら私はほとんど居るし、厨房には誰かしらシェフたちが常備居るからさ」
「そうだったのね。···ところで、この時間は訓練の時間じゃないの?」
隣のテーブルから、チラチラこちらに視線を送りながら食事をしていたケノスさんに声をかけると「夜勤明けなんだ」そのため、食事が今の時間になっていたらしい。
「で、フローは?···呪い関係?」
ケノスさんの失礼な質問に他の団員たちも興味津々らしく、全員フローを見ながら生唾を飲んだ。
「来たときから呪いって言ってるけど···なんのことだか分かりません」
頬杖をつきながら隣のテーブルをちらりとみる。
するとエリク兄様が一言「成長」と発した。これで、なんのことだか分かるはずと言いたげな、冷ややかな視線で合図される。
「あ、···エルフの儀式が無事終わり、本来の体に成長しました。へへ···」
「「「······」」」
「ごめんなさい。自身のことなんてすっかり忘れてました。テヘ···」
可愛くウインクをケノスさんに送る。
「フローって、メチャクチャ可愛い子だったけど、成長して綺麗···とても美人さんになったな。でも残念なことに、変わった性格はそのままなんだな」
残念ながら送ったウインクは、かすりもしなかったらしい。
☆
そろそろ休憩時間になる頃だろうと、エリク兄様と訓練場に向かった。
訓練場の手前でレイモンド団長とグレイ副団長が何やら話していたところに水を差すように声を掛けてしまった。
「レイモンド団長!グレイ副団長!」
団長たちの少し手前で大きく手を振り名前を呼びながら駆け寄ると、しばし二人は固まってこちらを見ていたが、レイモンド団長が「おかえり」優しく微笑み掛けてくれた。
グレイ副団長はというと、不思議な生き物を見たかのような、何とも言えない表情だ。
「···えっ···じょ···嬢ちゃん?」
「そうですよ!」
すかさずレイモンド団長が、フローの後ろから追いついてきたエリク兄様に視線をずらし、挨拶を交わした。
それと、母様から預かってきたお土産を団長へ渡した。
かなりガチガチに緊張したエリク兄様に「私のことはグレイ兄と呼んでくれ!」肩をバンバン叩いて笑っているグレイ副団長。
それを横目にレイモンド団長がため息をついた後「レイとアルが待ってるぞ」その言葉にフローは訓練場へと走り出した。
訓練場が見えてきたところで、目の前に突然アルが転移魔法で現れ、走っているフローは転びそうになったが、それを受け止め抱きかかえられた。
「···ア、アル」
「待っていたよ。おかえり」
とても小さな声をフローの耳元で囁き、強く抱きしめられる。
「アル、私、めちゃくちゃ会いた···かった···」
「ア···アル···つよ···ぎだよ」
「何?聞き取れなかった。もう一度言って?」
「···くる···い···」
「多分、妹は「強く抱きしめられて苦しい」と言っていると思うよ」
ニコニコと笑顔で代弁してくれたエリク兄様の登場に驚いたアルは「お前は誰だ」一瞬にして殺気を放った。
「はじめまして、フェアローラの兄のエリクシエルです。妹が死にそうなので、そろそろ離してくれないかな?」
ビックリしたアルは「あ、あ、兄?」フローを落としそうになり慌てて抱え直した。
「アル、力強すぎだよ。絞め殺されると思ったよ」
「···ご、ごめん」
そして、顔を真っ赤にしたままのアルがエリク兄様に挨拶をし終えると、三人で訓練場まで歩きだした。
先ほど、突然転移魔法でフローの前に現れて驚いたが「なぜ私の場所が分かったの?」そして、どこから転移してきたのかアルに聞くと、レイがフローに気がついて、訓練場に向かってきていることをアルに伝えてくれたからだった。
「めちゃくちゃ頭がいいじゃん。俺も魔狼欲しいな。アルの魔狼に子供が産まれたら、俺に一頭頂戴」
「エリク、魔狼はペットじゃないよ。魔狼から選ばれなければ、見向きもされないしね」
アルとエリク兄様は、年齢も同じだからか直ぐに打ち解け冗談も言えるような仲になった。
訓練場に近づいてくると、騎士団の団員たちも魔狼の姿も見えない。
「魔狼、まだ見えないけど何処にいるんだ?」
「本当だわ、誰も居ない」
「ピュィ!」
アルは突然大きな口笛を吹いた。
「な、何?今のは何?」
フローが驚愕しながらアルを見る。
クスッと笑ってアルは厩舎を指差した。
「見てて」
指を差した先、厩舎からヒョコリと顔を出したそれは、フローたちをめがけて走り出した。
「···な、何?あの可愛い生き物は?」
「まだ見てて」
すると、次々と厩舎からヒョコリ、ヒョコリと顔を出しこちらに向かってくる。
『フロー!おかえりー!』
「レイ!ただいま!」
フローのところまでレイが来ると、初めて出会ったときのような大きさになっている。レイを抱き上げモフモフしながら、久々の再会を噛み締める。
次々とフローに尻尾を振りながら群がる小さなワンコたち皆の歓迎に、嬉しくて涙を流してしまったが「みんな、ただいま!」きちんと笑顔で挨拶する。
「魔狼って、ワンコだったのか!俺も抱っこしてやるよ」
エリク兄様がそう言って手を動かした瞬間、みんなは歯を剥き出しにして唸りだした。
「ダメ!エリク兄様!」
「危ない!エリク!」
フローとアルの声にピタリと手を引っ込めたエリク兄様の前に、瞬時にアルが壁を作るように小さい魔狼との間に入り込む。
「ごめんね。私の兄様は、魔狼をみた事がなくて。みんなと会えるのを楽しみにして黒国まで来たのに、みんな可愛い過ぎるから···」
『そうなのー、じゃぁ僕のこと抱っこさせてあげるよぅ。フローの匂いと似てるからいいよ』
「レイ?···いいの?」
『だって、僕もフローが来るの楽しみに待ってたんだ。その人も僕たちに会うのを楽しみにしてたんでしょ?···雄同士だから気持ち悪いけど、ちょっとだけならいいよー』
「エリク兄様、レイが抱っこさせてくれるって!よかったね!」
「えっ?マジ···いいの?」
唇を綻ばせてレイを抱き上げ、その胴体にエリク兄様は顔を埋めた。
「可愛いいなー。モフモフ感が凄くいい」
その行為に呆気にとられたレイは、やっぱり気持ち悪いと『はい、終わりー』つかの間の癒しタイムで終わりを告げた。
レイがストンとエリク兄様の腕の中から地に降り立つと、魔狼たちは厩舎に向かって歩き出した。歩き出した魔狼たちは先頭の方から次々と徐々に元の大きさに戻って行く。
その光景を見ながらエリク兄様が「騙された?」などと、チビワンコに名残惜しそうに、その場に残っているフローの隣にいたレイと、アルの前に居るチェンを交互に見ながら落胆していた。
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