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~一章~ 弓に魔力を



 儀式で守護石を体内に戻してから三週間が過ぎ、本来の体に戻る急激な成長も大部落ち着いてきたころ、光の当たり具合によって変わっていた瞳の色もすっかり元にもどってしまった。

 だが、まだ背は伸び続けてる。エルフ族は人族より長身の種族だ。昨夜、フェン兄様が身長を測ってくれたのだが、158センチもあった。エリク兄さんとの差が6センチしかない。



 サイガ兄様のことが発覚してから二日後に、従兄弟たちは青国に帰った。


 変わらぬ平穏な日々が戻ったが、心にポッカリ大きな穴が空いている。ベット脇のクローゼットの前に下げている第一魔獣騎士団の制服を眺めながら今日という一日を報告するのが日課になってしまった。


 黒国での日々が何年も前だったような気がする。


「アル、レイ···みんな···今日も一日お疲れ様でした。私も、勉強も弓の訓練も頑張ったよ。明日は、私の弓が届く日なんだ。魔法も少しづつ覚えてきたし頑張るね。·····早く会いたい。声が聞きたい······。おやすみなさい」


 ベットに入り掛け布団を掛けると、上手に肩から移動してきたサラマンダーも布団の中に入り、フローの胸元から顔だけだして大きなあくびを一度してから目を閉じた。






「ノシュガーじいちゃん、いらっしゃい」


 家畜小屋でメィメーが産気づいて三日目、そろそろ赤ちゃんが産まれるということで、シュー様が外出できなく、ノシュガーじいちゃんが我が家に弓を届けに来てくれた。


「みんな元気かい?パーリンが朝からベリータルトを焼いたから、お土産に持ってきたよ」


「わぁー!パーリンばあちゃんのベリータルト!嬉しい!ありがとう。ダフルスさんに言って、昼食後のデザートにしてもらうね」


 ノシュガーじいちゃんは、シュー様にも届け物があるから着替えたら弓場に来るように言うと、そのまま家畜小屋へ向かった。


 ベリータルトを厨房へ持って行った後、弓場で飲むお茶を用意してから部屋へ戻り、着替えを済ませ弓場へ行く。


 弓場に着くと、ノシュガーじいちゃんとゼンが小屋のドアの前にいて、ちょうど中に入るところだった。


「ごめん、待たせちゃったかな。すぐお茶を淹れるね」


「今、二人で来たばかりだよ。ね、ノシュガーじいちゃん」


 脱いだ上着をゼンが受け取り、ハンガーに吊るしながら声を掛けると、ノシュガーじいちゃんは頷ずいた。


「あぁ。それとフロー、朝から頭の上に乗っているそれはどうしたんだい?ずいぶん珍しいものを拾ってきたな」


「この子?サラマンダーよ!拾ってきたわけじゃな······えっ······ノシュガーじいちゃん、見えるの?」


「ハイエルフは精霊の加護があるから見えるんだよ。精霊サラマンダーは赤い体色で尾先の炎は赤に近い黄色じゃなかったかな?灰色に緑色とは初めて見たよ」


「俺、何度か見せてもらったけど目の色と口から吐く炎も緑だし、こいつの口の中も緑色なんだよ!」


「ゼン、口の中ってどうやって見たの?私も初めて知ったわ」


「こいつの特技はあくびだからな」



 お茶を入れ、厨房のダフルスさんが持たせてくれた焼き菓子をテーブルの上にセットし、先日の夜の出来事をノシュガーじいちゃんに話した。


「······精霊王がサラマンダーだと言ったのよ、それにパーリンばあちゃんの事も知ってたわ」


「精霊王か······帰ったら、パーリンに聞いてみることにしよう」



 お茶を飲み一段落すると、ノシュガーじいちゃんは小屋の入口を指差して、袋の中に弓が入っているから出してみるように言う。



 袋を開けて弓を出す。


「·······す、凄い」


 漆黒の闇の様な弓だった。


「······あ、ありがとう、大切に使うね」


 初めて目にした弓の色と形、更に······大きく重いなんてもんじゃない。驚愕したフローを横目で見ていたノシュガーじいちゃんは「気に入ったかな?」苦笑混じりでフローに問う。


「ごめんなさい。使いこなせないかも」


「大丈夫だ。最後の仕上げが終われば、最高の弓になるよ」


 弓を持ったまま席に戻るように促され、自分の身長を越えている弓を抱え椅子に座る。


「最後の仕上げって?まだ完成してないの?」


「今、仕上げが始まったところだよ。気がつかないかな?」


 弓をもう一度見てみるが、よく分からない。


 仕上げの何が始まったのか聞こうと顔を上げた瞬間、軽い目眩がした。


「······え、···な···なに······」


「フロー、どうした?」


 異変に気が付き、ゼンが椅子から立ち上がるとノシュガーじいちゃんはそれを手で制した。


「大丈夫だよ。弓がフローの魔力を吸っているだけだ。ただ、ゆっくりではなく勢いよく吸われてるから椅子から落ちないように見ててやってくれ」








「気分はどうだ?」



「フロー、大丈夫?ふらついてるよ」



 ノシュガーじいちゃんとゼンが心配して顔を覗きこんでいる。

 どうやら魔力を吸われているときに意識がなくなったようだ。


「本当だ、なんだかフラフラする」


 するとノシュガーじいちゃんはテーブル越しからフローの両腕を掴んで、魔力を分けてくれた。じいちゃんの魔力が体に優しく染み渡って行く。


「すまないな。フローの魔力を満たせる量は私にはない。少し気分は戻ったかな?」


「弓をみる限り、まだ魔力が足りないな。完成までは後2、3回ってところだな」



「じゃあ、毎日魔力を注ぐわ」



 そんなに急がなくてもいいだろうとノシュガーじいちゃんは言うが、7日後には黒国に行くゲートを開いてもらえる話をする。明後日はノシュガーじいちゃんがシュー様のところに来るから、その時にもう一度やることになった。


「その他は無理しない程度に、夜リリーが帰ってきてからやることを約束してくれ」


 魔力切れをおこすと、死亡する。特に今のフローは守護石を戻したばかりだから、自身の体に魔力が必要とされているときなので、見極められる人の助けがないと魔力切れをおこすリスクが高い。なので一人では絶対にやってはいけないと念をおされた。






 魔力を注ぎ終った次の日の早朝、フローは日の出を待てずに大きな弓を抱えて、ソロリと足音を消しながら玄関の壁にぶら下がっている一番小さな鍵を取り、それをポケットに入れて家を出た。昨夜の出来事を思い返しながら、弓場まで向かう。


 昨夜、弓に魔力を流し終えたときのことだ。

 目の前に突然、精霊王が現れたのだ。


「近くを通ったら、大量の光の魔力を感じたから来てみれば。これはなんだ?」


 首を傾げて弓を凝視している。


「あっ、弓です」 



「······見れば分かる」


 呆れた表情でフローに振り替える。


「私が聞いているのは、魔力が融合されているのはどうしてか?ということだ。面白いものを見せてもらった」


「えっ?」


 精霊王に言われた内容に意味が分からず聞き返そうとしたが、鼻で笑った後「ではまた」と言って、スルリと消えてしまった。


 その後は、中々寝付けなくて気がつけば窓の外がうっすら明るくなり始めていた。





 弓場小屋のドアに鍵をさし、中へ入る。テーブル脇の椅子に弓を立て掛けて手前の椅子に座り弓に向かって魔力を注ぐ。ノシュガーじいちゃんに、使用する前に魔力を注ぎながら名を与えるように言われたのだ。


「あなたの名前、色々考えたんだけど······あなたの名前は···ミア!」


 すると、弓が突然光りだした。真っ黒だった弓は虹色に輝きながらゆっくりと小さくなっていき、光が消えると光沢の美しいスリムな弓に姿を変えた。


「ミア」


 名を呼ぶとキラリと一瞬だけ光り、フローの呼ぶ声に答えてくれた。色は黒のままだけど、先程までと違って温かみを感じる優しい黒色に変化していた。



······やっぱり、ミラクルアローで正解だったわ


「ミア、今からあなたは私の相棒よ!」



 小屋の窓から朝日が射しこんできた。


 今日という日の始まりの合図のようだ。


 フローはミアを手に取り、奥の部屋から矢筒を持って背負うと小屋を後にした。



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