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~一章~ 王子の恋?



 食べた食器を片付けた後、シェフのダフルスさんがデザートを出してくれた。

  

「フロー、時間がないから早く行こう」



 昼食後のデザートを前にして、ゼンはフローの手を引いた。


「ゼン······まだデザートが······」



 ダフルスさんに、15時のティータイムに食べるからとデザートを預かってもらい、しぶしぶゼンと歩きだす。



「デザートを我慢しなきゃならない程の話しなの?」


「今日のおやつは、バナナクレープだ。食べ損ねたプリンと一緒に食べた方が······絶対美味しいはずだ!それと、ダフルスさんにパンケーキもお願いしといたから、今は我慢だ」



「わかった。我慢する」


·······ゼンも私と一緒


·······ティータイム命


·······追加注文なんてやるわね



 厩舎に着くと、ゼンは信じられないことを言ってきた。


「······聞き間違えたみたい。もう一度言って」



 頭をワシャワシャ掻きながらその場に座りこむと「聞き間違えてない」下からフローを見上げて、ゼンはもう一度口を開いた。


「サイガは、フローの事が好きだ······多分」



······は?


「当たり前じゃない。たまに意地悪してくるからムカつくけど、私もサイガ兄様のこと小さいときから好きだよ」



「そうじゃなくて······だよ。恋の好きだよ」



········はぁー?


「······ゼン、笑えない冗談だよ」




「冗談じゃない。よく考えてみれば分かる」


 真剣な顔でゼンが聞いてきた。


「今回来たときに、儀式あとのフローの姿を初めてみたサイガはどんな感じだった?」



 エリク兄様と二人で談話室に行ったときのサイガ兄様のことを思い出してみる。


「おめでとうって、目も合わせず言われたの。その後、お祝いのプレゼントも黙って渡されただけだったよ」


「次に会ったときは?」


 シュー様とゼンとノシュガーじいちゃん家に行った日、夕食のとき一緒だった。


「弓を作りに行った日、夕食のとき······ウィル兄様に魚釣りに誘われたんだけど断った後にサイガ兄様が「ゼンとばっかりだな」とか言ってきて、イラっとした。赤ちゃんのころからいつもゼンと一緒なの知ってて、今更何ですか?って感じよ」


「それにね、そのあと騎士に成りたい話をしたら「騎士なんて辞めろ。女の幸せは結婚だ」とか言い出したの。勝手に決めつけるのは良くないよね」



「そうか·····あとは?」



「あとは、今朝からあんな感じ。思い出したら嫌なことばかりだね」



「やっぱり惚れられたな」


 ゼンは、上目遣いで呆れたようにフローを見てため息を吐いた。



「······ゼンさん?今の話しきちんと聞いていましたか?話の内容のどこに惚れられたような話がありました?」


 腕を前で組んでどや顔で見下ろす。



「はぁ······いいか、よく思い出しながら俺の話を聞くように」


 男の気持ちを最初から説明してやると言い、ゼンの話すその内容に戸惑う。


 おめでとうと伝えるときは、恥ずかしくて目も合わせられなかった。

 プレゼントを黙って渡したのも、恥ずかしくて会話が出来なかったから。

 釣りの話しのときは「ゼンとばっかり」それは「オレ以外の男とばかり」つまり嫉妬だ。

 次の「騎士は辞めろ」は、騎士のほとんどは男だ、男の中に好きな女に居てほしくない。

 続けて「女の幸せは結婚」つまり、仕事をするな俺が幸せにするってこと。

 今朝の「弓の標的になるから危ない」は、好きな人を失いたくない。


······い、いや


······サイガ兄様が?


······全てに当てはまらないよね



「俺だってビックリだったよ。フローは気が付いていないと思うけど、毎回サイガにチラチラ見られてたから、何かしたかな?って思ってたんだ。ところが、今朝フローが弓場に来てから、フローと話す度に睨まれてさぁ。そしたら逆にサイガが気になっちゃって、ついつい見ていたら気が付いちゃったんだよね」


「·······何に気が付いたの?」


「だから、恋心。······フローは俺が弓を射った後、どこを見る?」


「矢の飛んでく先よ」


「だろ?」


「サイガはその後もずっと、うっとりと見ていた。最後の矢を射り終わるまでずっとな」


「矢を?」


「ばか!······フローをだ!」



······あ、あり得ないよ



 二人で会話をしていると、そこにエリク兄様が「ふたりに連絡があるぞ」封筒を持って、厩舎の中に入ろうとした。


 厩舎の外にいるよと言えば、こちらに向かって封筒を差し出した。


「外にいたのか。これ、先生が置いていったんだ。宿題の内容だってさ」


 今日は、急な私用が出来て急遽来れなくなった家庭教師の先生が、帰り道にワザワザ······各自で勉強できるようにと、内容を簡単に記した封書を預かったということだ。


「「ありがとう」」


············。



「······何かあったのか?」


「二人とも、様子が変だぞ?」


 エリク兄様は目を細めて二人を交互に見る。




「フロー、せっかくだからエリクに聞いてみよう。その方が色々分かるって」


 フローの返事を待たずに、ゼンはエリク兄様に話し始めた。


「エリク、サイガのことなんだけど······」


 今まで二人で話していたときの内容を、ゼンはエリク兄様に話した。そして全て話し終わると、今まで黙って聞いていたエリク兄様は、右手を顎の下に添え目を閉じた。


 しばらくそのままでいたが、ゼンがしびれを切らして「エリク」声を掛けると、双方の瞳が開かれた。そして一言呟いた。


「あぁ、わかってる」


 みんなでフローとサイガを二人きりにしないようにしているとエリク兄様は言い、今から話す内容はちょっと難しいことだけど「とりあえず知っていることを話すよ」と、教えてくれる。


「ウィル兄様が言うには、青国の王族貴族の結婚は政略結婚であるがために恋愛などの感情を良しとしない。そう育てられている。サイガ兄様は第二王子のため婚約前に恋愛関係は特に醜聞だと言っていた。これ前置きね」


「姿の変わったフローを見た日の夜。サイガが俺の部屋に来て、従兄弟同士は結婚出来るか聞いてきたんだ。俺は無理だと答えたけどね」


「その後も、王都に遊びに行ってもフローのことばかり聞いてくるし······。朝から訓練しているからフローは朝食時間が別だし、昼食はゼンと向かい合って食べてるのが気に入らないとか言うし、極めつけはダリルにフローと話し過ぎだと怒ってたことかな。ちなみにダリルは無視してたけどね」


「ここから話がちょっと変わるけど、従兄弟の三人の中で、実はウィルだけはフローが黒国に転移してしまったことを知っているんだ。青国では、すぐに箝口令が敷かれたから知っているのは陛下と宰相、近衛騎士の二人とウィルだけって聞いているけど。それでフローが魔術大に入学して騎士になるって言った次の日にサイガも魔術大に入学するって言ったんだ。サイガはサフィニア国の国立大に行くって言っていたのにさぁ。みんな呆気にとられたよ」


「それを聞いたフェンと俺は、アルも魔術大に行くってフローから聞いて知っていたから、ウィルに話したんだよ。この先サイガがこのまま行ったら、青国と黒国の国際問題に緑国も含まれて大変な事になるかも知れないからね。ウィルは顔面蒼白で、今回の長期滞在を一日でも早く帰れるよう手を打つって言ってた」


「帰ったら陛下に話して、サイガには早目に婚約者を選ばせるって、ウィル半泣きだったね。だから、滞在中は二人も気をつけて」


「このまま何事もなく終わればいいけど、サイガの執着力は半端ないからな。フローが、見た目めちゃくちゃ美人で可愛いく成長したのは兄弟でも分かるんだ。自分でも気をつけろよ」


 空を見あげ雲行きが怪しくなってきたと、エリク兄様は先に家に帰った。



「ゼン······私たち、こんなスケール大きい話ししてたっけ?」


「いや······ただの恋バナ?」


 雨が降りだしてきそうな真っ黒な雲が空を覆いだした。


「とりあえず、勉強してからゆっくりティータイムのデザート食べような」


「そうね、私たちも降りだす前に帰ろう」



 走っているときにポツポツ降ってきた雨は、家に着いたと同時に土砂降りに変わった。


 


 




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