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~一章~ 精霊王




 夕食の席では、滞在している従兄弟達と兄様達で、王都街へ買い物に行ってきた話で盛り上がっていた。


 お土産に、王都街で長蛇の列に並んで買ってきたと、焼菓子をもらった。今流行りのチョコ掛けクッキーだ。オレンジピールが入ったクッキーにオレンジジャムを載せ、上からチョコを掛けたものが一番人気だ。木苺果肉とチョコチップを練り込んだクッキーも甘酸っぱくて人気である。


「ウィル兄様ありがとう」


「フローの好物は木苺だからね」


「凄い!どうして知ってるの?」


「えっ?いつもお茶の時間はラズベリーティーしか飲まないから?」 



······確かに

······ベリーティーばかりかも


「今日はフローが一緒に行けなくて淋しかったよ。明日は午後から魚釣りに行くんだけと、フローも一緒に行こうよ」


 ウィル兄様から釣りに誘われた。午後からは家庭教師の先生も来るし、その後はゼンと弓の訓練もあるからと断る。


「予定があって行けないの」



「······ゼンとばっかだな···」


 すると、サイガ兄様が睨んでポツリと言った。



「いつもゼンと一緒よ???······勉強に訓練、外出に昼食!双子の片割れって感じだもの」


「そうだ!三人にも話しておくわ!······私、10歳になったら魔術大学に入りたいの。そして、卒業後は戦士······騎士になりたいの」


 だから今は、夢に向かって出来ることに時間を使いたいし、ゼンは応援してくれて相手になってくれていると話をした。


 家族はみんな知っているが、従兄弟には何も話していなかったから、遊ぶ遊ばないで気まずくなると思わなかったし、未来の夢を話すことにした。



「えぇー?フローが騎士?」


「女騎士?」


「マジ騎士?」


 ダリルが、わざとらしく何度も振り替えりながら騎士を連発する。


······しつこい




「······そ·····そ、そうか」


······ウィル兄様どもってる




「騎士?辞めろ······女の幸せは結婚だろ」


······サイガ兄様拒否ってる




「名を馳せる騎士になるわ」


「あと、騎士になって好きな人と結婚するの」


「以上が私の未来だわ!ふふっ······」


「期待に応えるよう頑張る」


······期待してないよね



 従兄弟三人は口をポカンと開けて、あっけにとられていた。イケメンズ台無しだ。


 とまあ、話しは逸れたが、将来の為の土台造り中なので遊びに参加出来ない旨を伝えた。







 空には銀色に光る小さな月が二つ、雲ひとつなく満天の星。星の輝きで夜の小道も明るく、軽やかな足取りでワクワクドキドキしながらある場所へ進む。


 みんなが寝静まった頃、寝間着から普段着に着替え、昼の内に用意していた水筒を入れたリュックを背負い、ハンカチに包んだ精霊石をポケットに入れ家を抜け出した。


 家の門を抜けて、北に林の小道を進むと池がある。そこには夜行性のウーパールーパーが池の中から出てきていて、夜空を照らす明かりに反射したウルウルの体が淡い輝きを纏い、幻想的な風景を醸し出している。その光景を横目にしばらく進むと、その先には自然に薬草と花が咲き乱れているお気に入りの丘がある。


 丘に着くと、さっそく体力回復を作るときに必要な薬草をいくつか採取した。 


 丘の上には大きな木が一本あり、フローは木の下に素早くシートを広げリュックの中から黒国から持って帰ってきた薬草袋と、パーリンばあちゃんから少量分けて貰った万能薬につかう貴重な粉末にした薬草。最後にポケットからハンカチを取り出し包んでおいた精霊石を出す。


 薬草袋の中からブラックオル草を出すと虹色に光だした。夜空に掲げれば、しばしその輝きに見惚れでしまった。


 視線を戻し、手の上を見ると精霊石も星明りでキラキラ光りとっても綺麗である。


······何の精霊さんなのかな



 そんな事を思っているとフサリと目の前に何かが垂れ下がった。「白銀の毛?」もちろん自分の前髪ではない。



『珍しい花だね』


 突然自身の上から声が聞こえ、恐る恐る視線をあげると、フローの後ろから頭を前に出しブラックオル草を見ている人がいる。



「······だ、誰?」


 

『おや?驚かせてしまったかな』



 長い白銀の髪がサラサラと顔から離され、金色の瞳がフローを覗きこんだ。


『私はユーグ・ホワイティエ』


『あなたは何故ここに?そしてその花は?』


 次の瞬間、今までの出来事から、この花をどこで採取したのか、ここに至るまでの記憶が次から次へ画像が速まったように頭の中に流れだした。


······な、何?


······これ


······気持ち悪い



『ふむ、懐かしい香りはあの袋だったのですね。パーリンの孫でしたか』


「······え?」


『あぁ、あなたの記憶を遡り見させていただいたのです』


「今のは何ですか?人の頭を勝手に覗くなんて、失礼で···す···、え···パーリンばあちゃんの知り合いの方ですか?」



『この花は、白い地には咲きません。特にこの場所は魔素がないからすぐ枯れますよ。ほら』



 手に持っているブラックオル草の花は、いつの間にか下を向いてしまっていて、葉も萎れてきていた。



「あっ······」



『記憶を見れば、パーリンは面白いことを考えましたね』

 

『ふむ、不甲斐な思いをさせたお詫びに私がお手伝いしましょう。まず、薬草材を全て左手の上に乗せて魔力を与え薬草丸を作ってください』


 袋からもう一本ブラックオル草を出し、先ほど採取した薬草と粉末の薬草を手にしたところで魔力を流す。


『ふむ、綺麗な魔力だ。上手に練られたね。次はこちらに魔力を与えよう』


 ユーグ様は、精霊石を差した。


「······はい」


『これには、魔力と思いを言霊にして······言葉で縛るのではなく、お願いする感じがいいだろう。では、始めよう』



「精霊さん。私の大好きな人を守るお守りになってください。遠くにいる人だから、私はすぐに助けに行けません。色々なことからアルを守って欲しいのです」


 そう石に願い事を口にしながら、右手の人差し指でそれに魔力を注ぐ。魔力はそれらを包むかのように段々光の玉になる。


『まだまだ流し続けて下さい』


「はい」


『まだまだですよ』


「···はい」


『まだです』


「······は···い」


『まだです』


「······」


『もう少しです』


「······ま、魔力が···」


 こちらから注いでいたはずなのに、最後に魔力を根こそぎ吸われると、光の玉になった精霊石は手の上で浮上した。それと同時にフローは、意識を保っていられなく成りそうだ。


『頑張りましたね。ご褒美に私が魔力をわけて差し上げますね』



 クスリと笑うとそう言ってユーグ様の金色の瞳が近づいて······。


 そして、額にキスを落とされた。




······な、な、なにしやがるー



 一気に意識を取り戻した。



『ハハッ、心の声が駄々漏れですよ!』


『あっ、言うの忘れてましたが···あなたの思考は全て私に聞こえますから』



······は?



『それより、それを見てて下さい』



 浮上している光の玉、精霊石が揺れている。そして、ひび割れが始まった。


「しっ、失敗じゃないですか!」



『成功ですよ。失礼な···。よく見てて下さい』



 ひび割れから虹色の光が飛び出す。次第に全体にひびが入り、虹色の光の中から灰色の爬虫類?が、あくびをして出てきた。


「······は?······何これトカゲ?生きてる?」



『サラマンダーです。産まれたてですよ。降りてきたから手の上に乗せてあげて』



「······は?······え?······何で?石は?」


 それを手の上に乗せる。


『まぁまぁ、先ほど作った薬草丸を与えて』


 それの口の前に薬草丸を置くと、大きく口を開いてパクリと食べた。そして、フローをつぶらな瞳でじっと見ている。


 

 ユーグ様の話しによると、フローが持っていた精霊石は精霊の卵を宿しているものだったらしい。この精霊は白国でしか産まれないのだが、何らかの経緯があり精霊石が緑国に流れつき、フローの手に渡ったのだろうと言う。



「あのー。守り石は·····」


······今夜は期待外れちゃった



『君は面白いね!精霊を孵すなんて偉業を成し遂げたのに···お守り以上だろう!喜べ』



 残念そうな顔を見て、更に残念そうな顔をしながら喜べと言われても······無理でしょう。



『そうだ、名前を聞いていないのだが』


······石、無くなっちゃった



「申し遅れました。フェアローラ·ドゥルスと申します。フローとお呼びください」



······トカゲかぁ


······この木の根元に巣でも作ってあげるか



『フェアローラか、良い名前だな。ところで、心の声が駄々漏れだと教えたと思うが』


······明日、母様に聞いてみよう


······何か代わりになるものがあるといいな



『私との会話が成り立っていない·····。色々なことが何故か伝わっていない様なので、詳しく説明させてほしい······』



「······分かりました。手短にお願いします」


 そしてユーグ様は順に話した。



『精霊はサラマンダーだ。先程の効果効能は付与されている』

『守り石じゃなくて、精霊をお守りにすればいいだけだろう』

『親はフローになるため。名前を付けなくてはならない』

『フローが孵化させたことで、自身の魔力を与えて育てること』

『主のところへいった後は、主の魔力を糧とさせれば大丈夫』

『成長すると、念話ができる』


 人が精霊を産み出したのは初めてのこと。

 人を嫌う精霊が人に育てられると普通の精霊と違ってどう成長して行くのかは定かではないこと。


 普通のサラマンダーは深紅の色をしているが、白国で孵化する精霊は、そればかりではない。この子の体の色は灰色で瞳と尾先の炎が緑色なのだ。思い当たるとすれば、親と同じ色で産まれたのではないか?ということだった。



『精霊に関しては以上だ』



 それとより気になることがあるとユーグ様はフローの頭の中を覗き見た。


······ま、またぁ?


······頭の中がグルグル回って、気持ち悪い



「ユーグ様!勝手に人の頭をのぞき見しないで下さい」


「私からもお聞きしたいのですが、なぜ精霊に詳しいのですか?」



『成る程、フローの守護石のひとつは魔狼に分け与えたのですね。だからあなたは魔法の属性が儀式で決まらなかったのか。しかたがないですね』


······人の話し聞いてます?


 顎に手をあて、ブツブツ言っていたかと思うと、急に顔をあげて近づいてきた。その後、何かをブツブツ唱えてからフローの額にキスをした。


······は?···え?


······本日2回目ですが?


『魔法の属性が無いようでしたので、魔狼に与えてしまった光を主に与えておきましたが、他もある程度使えますよ。しかし、魔法属性のことは余り知られないようにした方がいいです』


 精霊を見つけて孵らせてくれたお礼だとクスクス笑いながら笑っている。


 そろそろ朝が近づいているので、帰ると言うと


『そうそう私のことはユーグと、様は要りません。·····何かあるときは、そのサラマンダーに言ってくれれば人がいない時間に会いに来るよ!私は精霊王だから人が苦手なんだよ。ハハッ······』


 笑いながら闇に消えていった。


······はっ?



 洒落にならないと思う。最後に精霊王と告げられて、今までのやり取りで不敬罪にならないのだろうか。


 帰り支度をしていると、サラマンダーが袋に入っているブラックオル草の花と私を交互に見ながら「ピュピ」と鳴いたので、袋から一本出して与えると、それに飛び付き花から茎、葉っぱまで平らげた。リュックを背負いサラマンダーをポケットに入れ尾先の緑炎から服が燃えないのを確認してから小道を戻り家に帰った。


 門の前には母様が······仁王立ちしている。


······まずい



「不良娘!心配しましたよ。すぐ寝なさい。朝食前には起こしますからね」


 げんこつだけで済んだ。



······めちゃくちゃ痛くて眠れないんですけど



 せっせと寝間着に着替え、サラマンダーを肩に乗せてベットに入る。


 母様が目を大きく見開き、それを凝視する。



「そ、それは?······トカゲ?······何??」



「えっ!見えてるの?」


「······明日話すね。おやすみなさい」




 大きなため息をし「···ト··トカゲ··をペットにしたいのかしら···ダメって言わないと」ブツブツ何かを言いながら、母様はドアから出ていった。




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