~一章~ 弓の達人と元王宮医師
「おはよう!フローです!」
"コンコン" ドアをたたくと、中からドアが開かれる。
「ノシュガーじいちゃん、パーリンばあちゃん!」
「待っていたよ」「いらっしゃい」
先日、母方の祖父母が、最後の子供姿のフローに会いたいと遊びに来てくれた。その時に、儀式の御祝いに欲しいものはないかと聞かれたので「弓が欲しい」即答した。
ノシュガーじいちゃんは弓師と言う職人だ。
じいちゃんとばあちゃんはエルフ族の中でも
数が少ないハイエルフで、二人とも60歳を越えたくらいだ。しかし、見た目は30歳位でメチャクチャ若く見える。
「シューとゼンも、待ってましたよ」
「知り合いから珍しい薬草をいただいたので、薬草茶を味見してくれるかしら?とても美味しく出来たのよ」
馬車で一時間ちょっと、母様の実家はとても居心地がいい。道沿いにパーリンばあちゃんの作業場があり、その裏に位置する家はカントリー風で凄く可愛い。その少し離れた西側の森の手前にノシュガーじいちゃんの作業場がる。
以前、ノュガーじいちゃんは弓の達人だったらしく、お弟子さんも沢山いて、シュー様もその中の一人だったという。
シュー様は、ドゥルス家の厩舎隣りにある家畜小屋でメィメーという種類の大変貴重な絶滅危惧種の牛を繁殖している。メィメーのお乳は絶品で、シュー様は週に二回はノシュガーじいちゃんに届けに来て、今でも弓魔法を習っている。
時々そこに便乗して、ゼンと一緒に連れてきてもらっているのだ。
パーリンばあちゃんは元は王宮医師だった、今は薬草師として薬を作っている。魔力練りも、パーリンばあちゃんに叩き込まれた。
私は、まだ魔法を禁止されているため、今は魔力を流すだけだが、魔法と一緒に錬金出来るようになれば、緑国第三位の薬草師になると、パーリンばあちゃんは言う。ゼンもたまに一緒に習うが、狩や戦いに役立つものだけでいいと、もっぱら弓の訓練に勤しんでる。
ちなみに、薬草師の第一位はもちろんパーリンばあちゃんだが、第二位はゼンの母様、リューイ様なのだ。体が弱く数をこなせないが、難易度が高い薬草なども精製度が素晴らしい薬草丸を作ることができると聞いている。
流石同じ血が流れていると、パーリンばあちゃんはゼンの練った薬草丸を手に「薬草師になると将来役立つのよ」いつもの言葉を投げかける。が、ゼンは父親を目指しているため「戦士になれなかったらね」興味はないらしい。
「美味しい!これが薬草茶?全く苦味がないし、花の香りが一層増して美味しすぎる。何杯でも飲めるよ」
ティーカップに浮かぶピンク色した花弁が一枚。その花弁から濃厚な薫りが薬草茶をひきたたせている。
「パーリン様、これはもしや······」
「ふふっ······あらあら、シューにはバレバレね」
「コーセル草よ」
初めて聞くその薬草は、光魔法をたまに浴びせながら育てないと枯れてしまうという植物だった。この世界では、白国でしか育たない植物らしい。苗をいくつか白国でいただき、ゼンの母様が栽培していて、4年目にして今回初めて少量だが収穫出来たという。
「リューイからは何も聞いてなかったので、まさかこの薬草が······収穫できたのですね」
目を細めティーカップを見つめながらシュー様が微笑んだ。
「初めての収穫で切った花草はとても少量。一番最初にシューにプレゼントしたかったって言っていたわ。二人の思い出の薬草だから。でも···」
収穫は出来たが、どう使うか分からなくて、パーリンばあちゃんの元に送られてきたのだという。
薬草の使い方、薬草茶のレシピと効能、効果、副作用などをまとめたメモと「リューイと飲みなさいね」残り一回分の茶葉をシュー様に渡すと、シュー様はパーリンばあちゃんにお礼を言ってお茶を飲み干した。
「お茶は飲み終わったかな?フローの弓を作るのに作業場に行くよ」
ノュガーじいちゃんから声をかけられ慌ててお茶を飲み席を立つ。
シュー様は訓練に行くといって矢を背負い弓を片手に先に出た。
ノシュガーじいちゃんの後ろについてゼンと作業場へ行く。作業場のドアを開けると、弓を作る際に使用する工具がズラリと壁に並んでいて、その下には主が迎えに来るのを待っている出来たての弓やクロスボウが陳列されている。
この雰囲気や香りがとても落ち着く、フローのお気に入りの場所だ。
いつもは何もない作業台の上に、今日は大小様々で沢山の魔石が陳列していた。
「ノシュガーじいちゃん、これって魔石だよね。こんなに沢山どうしたの?」
魔石の一つを手に取り「何の魔石だ?」ゼンは興味津々で石を凝視している。
「フローの弓を作るときに使って欲しいとニイルが送って来たんだが···」
ほとんどは魔石だが、いくつか精霊石もあるという。見ただけでは区別がつかない。
この中で、フローが気に入った物を使うつもりだが、残りは引き取りにこさせるから、どの魔石を使うか選ぶように言われた。
「うーん、どれがいいかなー」
「パッと見て、これっていうのが理想だよ」
ノシュガーじいちゃんがアドバイスをくれた。石を選ぶというより、選ばれるって感じですぐ見つかるという。
······パッと見てかー
陳列されている魔石をざっと見る。
すると、魔石に視線を戻されたかのように目が引かれ三つの魔石に目が行った。
「あっ!これと、これ、あれも」
「じいちゃんどうしよう。三個も見つけた」
「どれ?貸してごらん」
「ふむ、これは······」
「では、この三個で作るか」
しばらく魔石をじっと眺めて眉間にシワを寄せながら何かを考えている様子だ。
石を選び終わったので、ゼンとシュー様の行った森の入り口にある訓練場に行こうとしたとき、キラリと作業台の下が光った。
「ゼン、ごめん先に行ってて······」
作業台の下を覗くと、そこには黒に近い濃いシルバー色の小さな魔石が落ちていた。
······アルみたい
その魔石が欲しいとノシュガーじいちゃんに聞いてみると、父様が持ってきたものだから好きなだけ持って帰るように言われた。
······好きなだけって
······メチャクチャ高いのに
「これだけでいいです」
☆
「パーリンばあちゃん!お願いがあるの」
薬局のドアを開けると隣の作業部屋から「こっちにいるわよ」と声が聞こえた。
部屋の中では沢山の薬草がぶら下がっていて棚には沢山のビンのなかに乾燥された薬草や、魔石の粉末、できあがった薬草丸。まるで魔女の家のようだ。
手を伸ばし、もらってきた石を見せる。
「魔石に色々な効果を付与したいの。でも、やり方が分からないの」
どんな効果を付与したいのか、それを何の為に使うのかを問われる。
「守り石を作って、アルにプレゼントしたいの」
アルの事を聞かれ、パーリンばあちゃんには「内緒だからね」と、ゲートから転移して黒国に行っていたこと、そこで出会った男の子がアルで、魔獣見習い騎士の魔人族であること、箝口令が敷かれてることなども加えて話す。最後にアルとは従来ずっと一緒にいたいと思っている気持ちを話した。両親には、家の者で知っている人以外には誰にも言ってはいけないと言われていたが、パーリンばあちゃんとノシュガーじいちゃんにだけには話してもいいと言っていた。
パーリンばあちゃんは、かなり驚いて目を丸くしたが、何よりも無事に帰ってこれたことを泣きながら喜んでくれたのだった。
「もう心に決めた人が出来たのね」
そう言って頭を撫でながら、魔石への効果を付与する詳細を話し始めた。
そもそもそれは、青国が魔法を使えない変わりに編み出したものだということ。その為、魔術式を用いて効果を付与するのだという。魔石や宝石に効果を付与するとは、目に見えない魔術式で石を包んでいるようなものだという。
「魔術式が石の魔力によって魔法が発動するって考えると分かりやすいかしら?」
石には魔法を付与出来ない。魔石は魔力が宿っているだけだから。
「でも、その石なら出来るかも知れないわ。フローの手にある石は精霊石よ!」
ただ、精霊石に効果付与など聞いたことがなくどうなるかは分からない。それと言うのも、精霊石はとても珍しい石であり、石に精霊が宿っていると分かる人など殆どいないため、過去に事例がないという。精霊に魔力を与える代わりに、力を貸してもらえるかも知れない。試しに魔力練りの感覚で精霊石に魔力を与えてみてはどうか?とパーリンばあちゃんは言う。
精霊は人が多いところを恐がると言うから、静かな場所を選んで色々と試してみるといいとアドバイスをもらい「快晴の夜に決行だわ」期待に胸が高鳴った。




