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~一章~ サフィニア国の王子



 家に着くと出迎えはなく、部屋まで両親が連れてきてくれた。母様が魔法で家の者たちの人払いをしてくれたのがすぐわかった。


 部屋のベットに腰を下ろし、隣に母様が座って背中を摩ってくれる。父様はフローと母様の前で、おろおろしている。


「······ごっ···ごめ···ん···なさい」


 父様は水差しからコップにたっぷりの水を注いで「喉が渇いただろう」フローの手に持たせた。


「うん。父様、ありがとう」


 それを一気に飲み干す。



「大丈夫?一気に飲んだらお腹が痛くなるわよ」



「うん。大丈夫」


「心配かけてごめんなさい。色々考えていたら涙が出てきて······止まらなくて」


 濡らしたタオルを「瞼が腫れてるよ」父様から渡され顔に当てる。適度な冷たさが気持ちいい。


 冷やした後でタオルを離すと、心配そうに覗き込む両親の顔が申し訳なく、俯いて片方の手に持ったコップに視線を落とした。グラスに写る自分の顔を見て思い出す。


「母様、そういえば······私の瞳の色」


 ベットから立ち上がり、姿見の前で母様が笑顔で手招きする。父様が差しのべた手をとり、恐る恐る姿見の前に移動し、三人で姿見に写るフローの瞳を覗き見た。


「やっぱり、変わっていないわ」


 グリーンからブルーに変わるグラデーションのいつもの瞳だ。


「フローの手鏡はどこかしら?」


 机の引き出しを開け「ここよ」それを持って窓の前に立ち、今度は手鏡を使って見てみるように言われた。


 手鏡で見ても変わらない。


 首を傾げていると父様から、手鏡を左に、次は右に、そして上、下と、ゆっくり動かしながら確認するように言われる。



「······え?···え?···えぇー!何これー!」


「信じられない!滅茶苦茶きれい!」



 二人はその様子を見て微笑んでいた。


「······でも」


「どうしたの?なにか不安?」


 母様がうつ向いたフローの肩に優しく手をのせて心配そうにこちらを見ている。



「うん。······父様に聞きしたいことがあるの」


「父様は、母様が私のように変わってしまっても

、母様のことが好きでいられる?今までと変わらない?」


 フローの質問に父様はキョトンとした顔をした後で目尻を下げ、優しく問いかけてきた。


「昨年、エリクが儀式を終えた後で家に帰ってきたときのことは覚えているかな?儀式でエリクもかなり身長も髪の毛も伸びたんだ。家の門の前でエリクの帰りを待っていたフローは、エリクを見て『カッコいい』って、抱きついたこと忘れちゃったかな?」


「覚えてる。兄様に抱きついた」



······『エリク兄様?男の子からお兄さんになっちゃった。お目めもフェン兄様みたいに綺麗!フローの兄様カッコいい!』


 父様は、容姿が変わっても母様は母様だし、フェン兄様もエリク兄様も、もちろんフローのことも愛してると言い「可愛い私の娘だよ」フローの背に腕を回して優しく抱きしめた。


 不安に押し潰されそうだった気持ちが、だんだん薄れて行く。



······変わったようで、変わってない

······私は私なんだ



「父様、母様、ありがとう」


「私、変わっちゃったから···どうしようって」


「私のこと分からなかったら、嫌われたら、気持ち悪いって思われたらって」



 父様の胸の中に顔を埋め気持ちを吐き出す。



「でも、アルは私のこと嫌いにならないよね。この瞳も気持ち悪いって思わないよね」



 父様は小さい溜め息をはく。


 母様が「ふふっ」と笑い、


「アルフォード様があなたを嫌うわけないでしょう」


「うん。早くアルに会いたい」


 守護石が体に馴染むためのこれから1ヶ月。



······楽しみながら待てるかなぁ

······めちゃくちゃ長いよ







 伸びた髪をツインテールにし、チャームポイントのちょっとだけ長くなった尖った耳を目立たせる。


 部屋を出て、エリク兄様の部屋へ行く途中で前からフェン兄様が来た。


「フロー!今、呼びに行くところだったんだ。可愛い髪型だね、とても似合ってる」


「ありがとう。でも、今からもっと可愛くなるのよ。エリク兄様に頼んだの」


 エルフ族は、元は狩りをして生活していた種族だ。魔力が髪に集まると言われていて、昔から長髪が主流のため編み込みなどの髪型にし、生活の上で髪が邪魔にならないようにしておくのが普通であった。


 エリク兄様は手先が器用で、フローがお願いすると色々なアレンジを取り入れながら髪を編み込んでくれる。いつもエリク兄様が髪をセットしてくれるので、フローはまだ自分では出来なかった。


「じゃあ、終わったら談話室までエリクと来てくれる?フローの御祝いにって、プレゼントを持ってお客様が来てるんだ」




「お客様?」


「うん。わかった」


 お客様について誰が来てるのかを尋ねると、フェン兄様は「見てからのお楽しみ」笑顔で踵を返す。


······見てからのお楽しみ?って

······プレゼントじゃなくて?




「エリク兄様、遅くなってごめんなさい」


 遅くなった理由に、今しがたのフェン兄様との話をする。


「フローの儀式後の御祝いに来たってことは、成長後の姿を見せなきゃだな。よし、髪は下ろした方がいいな」


 せっかく頑張ってツインテールにした髪をほどかれてしまった。


 前髪を垂らし、耳が見えるように左右耳上から編み込んだ髪を後頭部上の方でまとめた後アルの髪飾りを付け、後髪はそのままストレートヘアに。長くなった髪を見てもらえるようにしてくれた。



「どうだ?可愛くできたぞ」



「素晴らしいです。自分で言うのもなんだけど、美人さんになってます。ありがとう」



 その後、エリク兄様と談話室まで急いで行きドアを開ける。



「···ウィル兄様!サイガ兄様!ダリル!」



「お客様って、お前らかよ······」



 突然の従兄弟来訪だ。


 サフィニア国の王子が三人揃ってフローの御祝いに来国してくれたのである。



「参ったな、こんなに急に美しいレディになるなんて予想していなかったよ。可愛い妹が、一瞬で大人のレディになってしまった。嬉しいような悲しいような······フロー、無事儀式を迎えられおめでとう」


「ウィル兄様、ありがとう。とっても嬉しい」



「······フロー······おめでとう」


 顔を背けながらサイガ兄様にお祝いの言葉を言われる。


「サイガ兄様、ありがとう」



「おめでとう。凄いね、ウィル兄様と並んでいると同じ年齢に見えるよ!フローを見上げる日が来るなんて夢にも思わなかった。僕も早く身長を伸ばしたい」


 ダリルは目を輝かせ羨ましそうに見る。



「ダリルもすぐ伸びるわよ!ふふっ······」




「今日は、フローに沢山のプレゼントを持ってきたんだよ」


 ウィル兄様から「これは私から」ピンクのリボンが付いた小さい箱を受けとると、開けるように言われた。中には腕時計が入っていた。文字盤が淡いピンクで、革のバンドが赤茶色の可愛らしい作りだ。


「素敵!ありがとう!」



 続いてサイガ兄様が無言でプレゼントをフローの前に出したので、手を出して受けとる。


「ふさふさ可愛いー!ありがとう」


 猫のぬいぐるみだ。衣装が別に何着かあり、着せ替えが出来るからと、衣装の入った箱も受けとる。



 最後にダリルから小さい袋を渡された。


「これは魔術研究局のリンデン・オーフィー様と魔術式を用いて一緒に作っていただいた物なんだ」


「リン様と?」


 袋の中にはピアスが入っていた。


「うん。今、リンデン・オーフィー様に魔術を教わっているんだ」


 ピアスは三連になっていて緑、白、黒の石がはめられていた。体内に戻した守護石の代わりになるものを考えたんだと、頬を赤らめて話すダリルは可愛いかった。


「ありがとう。大事に使うね」


 その他、陛下や王妃様からとお爺様、お婆様達からのプレゼントまであり、その夜みんなで中を確認したら高価な物ばかりでしまう場所がない。とりあえず、母様の宝石庫にしまうことになった。



「ウィル!明日から、何する?何か予定が組まれてるの?」


 フェンス兄様がウィル兄様に問いかけてきた内容を疑問に思い「「明日からって?」」エリク兄様も知らなかったみたいで、言葉がハモってしまった。


 青国の学校では今は長期休暇中で、今回三人で長く滞在出来るのは、視察として緑国に来たからだということだ。


「ドゥルス家に10日間滞在させていただくから、よろしくね」



「マジかよ!遊び放題?」


「じゃぁ、遊び放題?」


 

 エリク兄様とハモってしまった。



「さすが似た者兄弟だね。考える事も一緒とは、君たちは見た目と違ってまだまだ子供だね」


 ウィル兄様が呆れ顔で二人を見ると、フェン兄様とサイガ兄様、ダリルまでクスクスと笑い始めた。




 そして、この日を境にサイガ兄様が変わってしまうだなんて、このときは誰も予想できなかった。




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