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~一章~ 弓場



 帰国した二日後、守護石の儀式に着る衣装の布地を持って、フローの周りをお針子さん達が裁縫道具を携えて慌ただしくしていた。



「フェアローラお嬢様、終わりました」



「えっ?もう出来たのですか?」  



 採寸から始まり10分程度しか経ってない。



 中でも年配の偉そうな一人に出来上がったばかりの真っ白なそれを試着するよう促され、衝立の後ろに行く。


 服を脱いで、その偉そうな人に着かたを教わりながら試着してみる。


 そのままだと床に裾がつき引きずる長さのポンチョロングだった。腰回りに紐を巻き長さを調整してから最後に袖を手首のあたりまで三回捲り上げた。ブカブカで不恰好だ。



「はい。上手に着れましたね」



「どうしてこんなにブカブカなんですか?」



 フローは、不快な自分の姿を姿見で確認しながらその人に質問した。



「人によりバラバラなのですが、守護石が体内に戻ることによりその場で一気に成長する場合が多いのです。身体に合わせた衣服だと、はち切れてしまうのですよ」



「えっ、一気に成長するのですか?」



「その場では成長しない方もいます。体内に戻された石は約一週間くらいで身体に馴染みますが、緩やかに成長する方もいますので·····。フェンスリーグ様とエリクシエル様はどちらも一気に成長されましたよ。覚えていませんか?」



「あっ、そういえばエリク兄様のとき、家の門まで出迎えに行ったときに大きくなってて、一瞬誰だか分からなかったことがありました。儀式の後だったのですね。」



「そうですね。それと、今月の儀式には29名が参加する予定ですので、朝会場でお友達になった方が帰りには分からなくなってしまわないよう、特長などを覚えているといいですよ」



 話しをしながらテキパキと帰り支度をし、次のお宅に向かうからとお針子さん達は帰っていった。



 その後、白シャツに茶色のベスト、焦げ茶色のパンツに着替えて急いで馬厩舎へ向かった。


「ゼン!遅くなってごめん」



「衣装合わせは終わったのか?···俺も2ヶ月後なんだよな」



「すぐ終わったよ!めちゃくちゃ早かった」



「そうか!昼まであまり時間がないから直ぐ始めようぜ」



 馬厩舎前で身体を動かしながらフローを待っていたのは、御者の息子でフローと同い年の男の子ゼラウィガン·チュルベイル。ゼンの長い緑髪は両サイドから編み込まれた髪をひとつに束ねてあり、グリーンの透き通った綺麗な瞳だ。

ゼンは生粋のエルフ人のため、長い耳がとても素敵で羨ましい。

 ちなみにフローも耳の先がちょっと尖った感じで、そこがチャームポイントだと思っている。


「父さん、フローが来たから弓場に行く。手が空いたら見にきて」



「シュー様、遅くなってごめんなさい」



「大丈夫ですよ。二人とも身体をよく温めてから始めるように」



 厩舎の中からゼンの父親シューケガム·チュルベイルが顔を出す。外見はゼンが大人になって、細身の筋肉ムキムキになった感じだ。実は現役の戦士なのだが大の馬好きだった為、母様と父様が結婚して今の家に住むときに護衛兼御者として来ることになったらしい。


 自然が大好きで家族第一主義のエルフ族は、王に仕えていても家から通いの者がほとんどであり、シュー様の家は遠方にあったため、フローの家のお隣に家を建てて引っ越してきた。


 ゼンが産まれたのは、フローが産まれてから約2ヶ月後。ゼンの母親は身体が弱く子育ての心配があった。

 夫婦で母様に相談したところ「二人一緒に成長させましょう」母様の一声で日中は我が家で双子の様に育てられることに。

 そのため、ゼンは小さいときから毎朝シュー様と共に家に来る。勉強も遊ぶのも昼食も、もちろん叱られるときもいつも隣にいる。兄弟みたいな存在だ。



「もう無理ー!体が痛いー!」



「フロー、硬すぎだよ」



 柔軟体操を終えると、ゼンは弓をフローに渡した。フローとゼンは小さい頃からシュー様の弓の練習時に一緒に的当てなどで遊んでいたため、二人ともかなりの腕前だ。


 ゼンは戦士になるために毎日弓の訓練をしていた。一緒にいるのが当たり前の二人は、一緒にやるのが当たり前。シュー様の男気で、やるならとことん容赦なくしごかれる。


 以前、訓練の様子を見に来た父様が「厳しすぎないか?」シュー様に問いかけると、かなり子供向けに優しく教えていますと言っていた。


 その幾日か後に、隣の町のシュー様友人宅へ届け物をしについて行ったとき、その人は弓が得意な戦士だから参考に色々教えてもらうはずだった。だが、ゼンとフローの弓使いを見てもらうと「君たち凄いね」家の息子も練習の仲間に入れて欲しいくらいだと話し、練習の内容を伝えると、シュー様の教えがスパルタだったことを知って帰路についたことがあった。



「二人とも、何本矢を射ることが出来た?」


「······で、的に当たったのは?」



 シュー様が水筒を持って弓場に来た。それを二人に渡しながら一度休憩にしようと言い、矢筒を覗きこんでいた。


「俺は、16本中14本当てました」


「私は、14本中10本です」



「·····ふむ、集中力が欠けてるね。休憩が終わったら庭園前からこまで往復した後、矢を一本。また往復したら、矢を一本。それを6回やったら終わりにしよう」



 爽やかに微笑みながら、さらりと言うシュー様が恐ろしい。往復1.5キロ位ある距離だ。



「さぁ、どちらがたくさん的に当てられるかなー?」



「そうだ!負けたら昼食後のデザートを勝った方に譲るってことにしよう。今日のデザートはオレンジシャーベットとレモンハーブシャーベットだったよ。ちなみに私は先程味見してきたが、久しぶりの冷たいシャーベットは、めちゃくちゃ美味しかったよ」




「「シャーベット!」」



「ああ、サクサクしたがすぐにとろけた。オレンジの方はそのままの果肉で、レモンの方はシロップ漬けの果肉が入っているんだ」



 二人は顔を見合せると同時に闘志を燃やす。



「フロー、真剣勝負だ!」



「望むところよ!シャーベットは渡さないわ」






 

 馬車に乗り、母様と約束した時間に間に合うように王宮へ向かう。


 気持ちのよい馬車の揺れが眠気を誘い、気がつくと王宮までの距離を昼寝に費やしていた。王宮に着いたところで馬車を降り、騎士にゲートがある部屋の前まで案内される。そこには母様とマーシュ宰相がいてフローが到着するのを待っていてくれた。


 そして母様と二人で黒国に転移した。



「オブラニキス国へようこそ」



 ゲートの前で出迎えてくれたのは、大柄な体格のオブラニキス国第一近衛騎士団の団長、ライニングィ·ブラーキル様だった。


 濃いシルバーに藍色がかった縦長の瞳孔を持つ瞳がキラリと光る。



「お待ちしておりました。エメリラルド国、リリーアニス·ドゥルス·エメリラルド女王陛下、フェアローラ姫様」




「歓迎していただきありがとうございます」



 挨拶を済ませ、ディークヴェル王の元へ案内される。



「よく来てくれた。待っていたよ。早速だが、茶の席を用意したので、そちらへ掛けてくれ」


 ディー様の妖艶な美貌で頬笑まれ、母様と二人並んで赤く熟したようなさくらんぼ状態で一瞬時間が止まってしまった。



「「ありがとうございます」」



 ソファーに促されて、母様が先に座るが、その後続いて座らないでモジモジしていると母様に「どうしましたか?」小声で囁きかけられたが、同時にディー様がこちらを振り返って見たので、目が合った瞬間に話しかけた。



「ディー様、早くアル······レイのところに行きたいです」



 手ずからお茶を用意していたディー様は、ティーポットからお茶をカップに注いでいたが、目を離してフローに視線を向けた。



「······私のお茶は?······あ、すまん。溢れてしまった」



「あっ、話し掛けてしまいごめんなさい」



 後ろに控えていた宰相様が、それを手早く片付けてくれてる。



「今、第一魔獣騎士団に向かうための護衛を呼ぶので、それまで私のお茶を飲んで待っていてくれるかな?」



「ありがとうございます」



 宰相に護衛を呼ぶよう話すと、ディー様は新しいお茶を入れ直してくれた。バーベキューの後から薬草茶や紅茶など、茶葉により色々な味を楽しめる事に興味かわいたらしく、茶葉のブレンドや湯を注いでからの待ち時間なども色々試しながら自分で淹れるようになったらしい。更には、本日はそのお茶の御披露目なのだと言う。


「薬草茶の本場であるエメリラルド国のふたりに御賞味頂きたく、出来れば感想などを伺いたいのだが」


 照れながら茶葉を説明するディー様。母様と私が手にしたティーカップを口に運ぶまで凝視され続け、飲みにくいったらなかった。






「レイ!」


『······フローだ!フロー!フロー!』



 転移魔法を使って護衛の方に第一魔獣騎士団まで連れてきてもらったフローは、訓練場にレイの姿を見つけると一目散に走り出した。


 レイまであと数歩、両腕を広げる。感動の再開であるはずが「あっ」小石につまずき転んでしまった。レイは上機嫌でフローをそのまま咥え、団員達が集う場所まで運ぶ。



「ぷふ······嬢ちゃん!期待を裏切らないな」



「フロー嬢、痛いところはないですか」



「今のスライディングは失敗だったな」



「ケガはしていないですか?···ふふ」



 グレイ副団長とライ様が交互にフローを気遣って?くれるが、他の団員たちにも笑われていてめちゃくちゃ恥ずかしくて顔をあげられずにいると、目の前に手が差し出された。



「おかえり······大丈夫?立てる?」



······ア



 嬉しくて抱きついてしまった。



「アルー、会いたかったー」



 涙と鼻水が止まらなくて、その姿を見ている団員たちは更に笑いが加速し、第一魔獣騎士団の訓練場は笑いの嵐に見舞われた。



 レイに魔力を与えている間、緑国に戻ってからの出来事をアルが隣で聞いていてくれた。それと、儀式後は体が不安定になるから落ち着くまで負担がかかる転移ができないので、黒国に次に来るのがいつになるか分からないこと。アルは、何度も頭を撫でてくれながら聞いていた。


 レイに魔力を与え終わると、護衛の騎士様に「王宮へ戻りましょう」声をかけられる。



「母様がディー様と待っているから······帰るね」


 名残惜しくて、アルの団服の袖口をそっと掴むと、それに気づいたアルがフローの手を取り強く握った。


「心配しないで、レイのことは任せて。次に会えるのを楽しみに待ってるよ。だから、フローも次にこちらに来る日までを楽しみにして毎日を過ごしてね」


『次はお土産持ってきてね。何を持って来てくれるのか、僕も楽しみに待ってるよー』


「分かったわ、じゃぁ私は何のお土産にしようか考え楽しみながら選んで持ってくるわね」


 繋いだ手が離れると、やはり淋しく感じる。でも、待ってると言ってくれた言葉から温かい気持ちが生まれ、それを打ち消してくれた。


 笑顔で「待っててね」と言って転移するときには、そろそろ日の入りに差し掛かろうかと夕陽が辺りを茜色に染めあげていた。



 

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