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~一章~ 会談

お読み下さりありがとうございます



 案内された場所は、深い緑豊かな木々の中に透明度の高い小さな湖があり、湖畔には真っ白なテーブルと椅子、そこから木々までの間には広場になっていて背の低い白い花が咲き乱れていた。


 椅子に座ること10分くらいお茶を頂きながら、待ち合わせの時間に少し遅れるというディークヴェル王を待っていた。


 そしてここには、右を見れば五人、左を見れば五人、リリーの護衛として黒国の騎士が連なっている。


 騎士たちの服装はとても独特な衣装だ。黒と紺色の二色使いの薄目の生地で作られている騎士服は、爽やかな風が吹くと腰下から切れたスカートのようになっている部分が軽くハラリとなびく。


 その姿を見ていると、彼らと視線が合ってしまいニッコリ微笑まれ、魔族特有の縦長の瞳孔に捕らわれた。



···凄く緊張するわ、噂以上だわ


···本当に魔人族は美形しかいないのね



 リリーの後ろに控えている自国から連れてきた護衛騎士の二人から「見すぎです」釘をさされてしまった。じっくり騎士をみて堪能したい気持ちを必死に抑え、そこから目を逸らすように空を見上げれば、白い地では滅多に見ることが出来ないくらい大きな鳥が悠々自適に空を旋回していた。



「大きな鳥が三羽、旋回しているわ」


「獲物でも見つけたのかしら?」



 すると三羽の鳥が急降下し始めた。



「えっ?こちらに向かってくるわ!」



 それを聞いていた黒国の美形騎士たちは、クスクスと笑っていて仕事を放棄している。


 そのうちの一人が「心配しなくても大丈夫です」と声を掛けてくれた。



 次の瞬間、咄嗟のことに驚いて目を見開く。

 着地したのは鳥ではなく黒国のディークヴェル王と近衛騎士の二人だった。


 魔人族は、高位の魔力保持者になると羽が生えると聞いたことはあるが、リリーも実際に見たのは初めだったので、これには驚かされた。

 慌てて席を立ち、礼式をとる。



「申し訳ない···。急遽、飛来して来ることになったために時間に遅れてしまった」


「改めて、ディークヴェル·ファント·オブラニキスと申します。白い地、エメリラルド女王陛下の来国を心より嬉しく思います。私のことは、ディークヴェルとお呼び下さい」


 シルバーの長髪がフワリと揺れ、細めた紫色の瞳がゆっくり見開きリリーを捉える。リリーは妖艶な美男子の三人に微笑みかけられ、鼻血が出そうだ。



「この度は、急な訪問の時間を作っていただきありがとうございます。リリーアニス·ドゥルス·エメリラルドと申します。オブラニキス国の皆様には多大なるご迷惑をお掛けして大変申し訳ありません。それと、娘を保護していただき誠にありがとうございます」


 

「フェアローラ嬢のところへは、話が終わり次第すぐ向かおう」



 着席を促され新しいお茶が用意されると、ディークヴェル王は今回のフローの転移について話し始める。不法侵入に関しては、調査の上フローの処罰は無しとなったという。しかし、滞在中に他の問題が発生しているという内容だ。



「見てもらった方が早いのだが、先に話しをしておきたかったので代わりを用意した」



 広場の白い花の絨毯の上に、一人の魔人族の男性と一頭の魔狼が現れた。



「この者は、我が国の第一魔獣騎士団の団長レイモンド·ギャリマだ。隣にいる魔狼の主になる。そして、フェアローラ嬢を保護してくれているのが彼だ」



「レイモンド·ギャリマと申します。レイモンドとお呼び下さい」


 少し黒に近い濃いシルバーの髪を後頭部の頭上近くでひとつに束ね、髪と同色の瞳枠から中心に向かい薄いシルバーに変わる瞳をもつ美丈夫だ。


 しかし、隣にいる魔狼の大きさはすごい。こんなに魔狼が大きいとは知らなかった。リリーが魔狼を見上げて釘付けになっていると、レイモンド団長が「魔狼の名をミゼルと申します」と紹介してくれた。


 そして、このミゼルの子供とフローの事で問題が生じたらしく、フローが黒国に来てからの出来事をレイモンド団長が話し始めた。


 話し終えた後「フェアローラの守護石」のことを謝罪されたが、その事についてはフローが自分の意思で行ったことなので頭を上げるよう促した。



「問題は、今後の魔狼の子供についてですね」


「フェアローラをオブラニキス国に滞在させることはできません···こちらに通わせることになりますでしょう」


 リリーは深く息を吐き、言葉を続けた。


「もし通いになると、転移の固定魔方陣が必要となりますが」


 王宮からの魔方陣はフローには使用できないため、オブラニキス国に転移させるには新たに魔方陣を設置しなくてはならない。しかし、それは緑国と黒国を直接結ぶ危うい道ができることを示す。


 黒国は、この案についてはどう思われるかをディークヴェル王に尋ねると、以外な答えが返ってきた。



「我が国では道のひとつやふたつは問題ないが、それより娘を毎回他国に送り出すことに不安はないのか?」



「不安?心配ではありますが···」


「先程のレイモンド様が報告をおっしゃられていたときに、娘を気遣う言葉を何度かいただきました」


「知らない場所にて、娘が初めての交流を得た方々は手を差しのべて下さる方ばかり、娘を預けるに不安などありましょうか」


「心優しい騎士様たちには感謝しかありません」


 リリーは椅子から立ち上がり一歩前にでて、女王ではなく母親としての礼をとり、レイモンド団長に深々と頭を下げた。



「親としての心配はつきません。しかし、それはいつ限りなくどんなときでも付きまとうものです」


「そちらの魔狼も、親として子供の今後を心配しているようですよ」



 レイモンドは「なぜ分かるのですか?」と不思議そうな顔でリリーを見る。



「警戒を解いているので、彼女は仕事で来たのではなく、母親としてここにいるのでしょう。私と同じ思いなので、分かります」



 リリーが座り直すとディークヴェル王は、先ほどの続きとでもいうように話し出した。


「実は、こちらも似たような事を考えていたのだが、転移魔法を用いても黒い地から白い地への転移は不可能だ。城にある魔方陣のようなレベルの高い魔術式を組める者もいない。出来ればそちらで魔術式での移動を可能にして頂けると助かる」


 普通の魔方陣では、緑国にも不安要素のひとつになる。その為、認識された個人だけが転移できるものを魔術式を用いて作成するのはどうかとリリーが提案する。



「しかし、そのような個人認識などの高度の魔術式を組める者がそちらの国にいるのか」



「フェアローラの父親ですわ」


「サフィニア国の王弟殿下か、なるほど」


「娘のためなら頑張れる夫なので」







 広大な平原の奥に大森林があるここは、第一魔獣騎士団の敷地である。平原と大森林の境目には、とても大きな厩舎があり、少し奥には小さいお城のような建物、騎士団の寮がある。その建物の前に、ずらりと騎士団員達が整列していた。


 ディークヴェル王がエメリラルド女王に第一魔獣騎士団の紹介をしたところで、レイモンド団長がフロー嬢がいないことをグレイ副団長に問う。


「フェアローラ嬢は、まだ厩舎から戻ってきておらず、只今すぐお連れします」



「ありがとうございます。私が厩舎まで行きますので大丈夫です」



 グレイ副団長が前にでてきて案内役を申し出た。厩舎までの短い道のりの中で、リリーは何度も娘への気遣いのお礼を伝えた。

 そして、厩舎前から手を振りながら走って向かってくる娘が視界に入る。



「母様ー」


「フロー!」



 待ちに待った親子の再開である。感動の瞬間にグレイ団長の目頭が熱くなる。



「あなたは、どうして走ってくるの!この場合は母様が厩舎に着くまで待ってるの。もう少し落ち着きを学びなさい」



「だって、今からバーベキューをするから早く伝えたくって!なんと、魔牛食べ放題なのよ」



 リリーはフローの言葉に一瞬言葉を失った後、目を輝かせた。



「魔牛食べ放題···なんて贅沢なんでしょう」



 グレイ副団長の熱くなった目頭は、即座に冷えきった。

 それを察した緑国の二人の護衛は「期待を裏切って申し訳ありません」グレイ副団長に平謝りをした。

 とことん人の心を踏みにじる親子だ。



「コホン、···失礼しました」


「ヴァーイン様、先に娘と話をしたいのですが。少しお時間をいただけますか」



「はい。準備が整ったらお声を掛けさせて頂きます。それと、私のことはグレイとお呼び下さい」


 訓練場前にあるベンチに母様と二人で並んで座ると、グレイ副団長は騎士達に合図を出し、すぐさまテーブルにお茶の用意がされた。


 ここに来るまでに、フローの転移後の黒国での出来事などはレイモンド団長から聞いているという母様は「すぐに迎えに来たかったけど」と、フローを強く抱きしめた。家でもみんなが心配していて、フローが帰ってくるのを待ってると言われた。そして、今後のことは家に帰ってからゆっくり話し合いをすることになった。


 グレイ副団長が会食の用意が出来たと呼びに来てくれて、急ごしらえの野外バーベキュー会場に向かう。すると、そこには川で出会ったレイモンド団長の友人のヴェル様が、黒光りした衣装を着て笑顔で手を振っていた。



「···えっ?···ヴェル様?」



「やぁ、フロー嬢!今日はバーベキューをすると聞いて楽しみにしていたよ」



「···今日は、騎士服ではないのですね。···ヴェル様、キラキラしていて素敵です」



「そうかい?ありがとう。素敵だなんて言われ慣れていないから、恥ずかしいな。ちなみに私は恋人募集中なのだが···あぁ、フローの後ろから八つ裂きにされそうな視線を感じるな」



 後ろを振り返ると、アルが氷の様に冷えきった表情でこちらを見ていた。


「失礼します。会場準備が出来ましたので、席にご案内させて頂きます」



···レイモンド団長が···尊敬語で?


···ヴェル様を席に案内?



 フローはアルを見て目をパチクリさせると、隣まで来て小さな声で「ヴェル様はオブラニキス国国王陛下だった」と耳打ちした。その様子を見てヴェル様はニヤリ顔で右瞼を軽く閉じウインクした後、唇に指を立ててフローにキスを投げながらレイモンド団長と席へと向かって行った。



 ···こ···国王陛下?


「···え?···え―――!」 


「チッ」


 アルは小さな舌打ちをした。睨み付けた後に更に舌打ちまでして、不敬罪になったらどうするんだ。

 顔面蒼白になったフローは心の中で、ヴェル様には聞こえていない事を祈った。





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