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~一章~ 準備は騎士団全員で

お読み下さりありがとうございます


 練場前の朝礼で、レイモンド団長から重大な報告があると言われ、集まっている団員達はざわついていた。


「また魔獣大量発生か?」


「いや、噂も耳にしていないぞ」


「思い当たる節がないな」





「静かにしろ!異例の事態だ!」



 グレイ副団長が団員達を鎮めると、レイモンド団長が前に出てきた。



「突然のことで申し訳ないが······」


「明日、エメリラルド国の女王が来国することとなった。異例であるが、女王との会食を第一魔獣騎士団に任された。そして、我等が王もこちらで一緒に会食する。会食場所は······王から訓練場を指定された。······野外だ」


 午前中は訓練、午後は準備をするが詳細は今から決めるので、昼食後休憩を挟んでもう一度この場に集まるように、そして「この後、フロー嬢はこの場に残るように」と告げ後退した。


「すまない、フロー嬢」


 明日の会食のことで、フローの知恵を貸して欲しいとレイモンド団長から頼まれる。

 エルフは野外で会食するときは、どのような食事を好むのか、そしてどのような形式なのかなどだった。


「我が王も、こちらに丸投げとは······」


 グレイ副団長も困り顔で「時間がない」直ぐ決めなくてはいけない状況だと説明した。



「申し訳ありません。私はエメリラルド国の会食に行った事がないので分かりません」


「でも、母様の好きな野外パーティーなら······分かります。用意も簡単だと思います」


 それはどんなものなのかと聞かれ、フローは目を輝かせ自信満々に告げた。


「バーベキューです!母様はエルフなのに、お肉が大好きです。沢山のお肉を食べたいときは、家では毎回バーベキューをします。それと、お肉は魔牛がいいと思います。先日の夕食時に寮の食堂で食べたときに、母様の好きなお肉を思い出し、帰ってから母様に教えようと肉の種類を厨房で聞いたのです。サラダは野菜ではなく薬草を食べます。オブラニキス国の薬草は、エメリラルド国にはないものが多く、かなり喜ぶこと間違いなしです。デザートは無い方がいいです。せっかく美味しいお肉を食べた後に、甘い物を口に入れたくないといつも言ってます。家では最後に口の中のお肉の脂を流すのにと、ミントティーを飲んでいます」


 フローのイキイキとした発言の後、しばらく沈黙が続いた。初めて役に立てると思い、嬉しくてペラペラと話してしまった。


「今のは、聞いていい話しだったのか?」


「聞いてしまいましたね、では······こうしましょう。」


 グレイ副団長が、レイモンド団長に案を伝える。


「お世話になったオブラニキス国の第一魔獣騎士団のみんなを気兼ねなく母に紹介するため、フローが母とみんなのために一生懸命考えた会食······バーベキュー!」



「素敵です!」


「私が母様とみんなのためにって言うところが、すごくいいです!」



「だろー!肉の他には何を焼くか?フローは何が食べたい?俺はカニだな!」


「私はエビです!」


「みんなの食べたいものを用意して焼くのはどうかな?」


「いいと思います!楽しみです!」




 レイモンド団長は、忘れているようだか決定事項にするには私の許可がいるのだが、盛り上がっている二人に言える気がしなかった。



 


 明日のバーベキューの準備をするため、午後からは騎士団全員で取り掛かることとなった。

 

 第一部隊と第二部隊は、魔牛の確保を言い渡された。第三部隊は薬草園で薬草の採取、茶葉と炭などの買い付け、第四部隊はテーブルと椅子の用意、第五部隊は食器やその外必要な物、肉以外の食材の購入と振り分けられた。



「騎士団全員、重要な任務であることを理解してほしい。以上。行動開始!」


 号令とともに団員達は魔獣に跨がり、一瞬でその場から居なくなった。そしてフローはお留守番である。レイは、第一、第二部隊の魔牛討伐に連れて行かれてしまった。


 その後、10分もしないで第四部隊が帰ってきた。


「「「フロー!ただいま」」」


 第四部隊は、テーブルと椅子だったはずなのに、みんな大木を引きずっていた。不思議に思って見ていると


「この木で今から長椅子と長テーブルを作るんだよ」


 目の前で、風魔法を使い一瞬で木を切って木材が出来上がる。あとは木釘を作り、釘を打ちたい場所に穴を開け木釘を打ち込むだけ。すべて風魔法だけで、出来上がった。残りの木材は、燃やして炭を作ろうと火を付けた。木の上の部分は使えないからと、魔狼達に指示を出し山に捨てに行かせた。めちゃくちゃ仕事が早い。


 みんなで木を燃やしているとき、紫色のワンピースを着た女の子が厩舎の中に入って行くのをフローの目が捉えた。


······ん?

······見間違えたかな? 


 もう一度、目を凝らして厩舎の入口を見たとき「きゃー」悲鳴をあげながら出てくる女の子の姿が見えた。そして、女の子の後からグレイ副団長の魔狼アナ姫が出てきた。

 入口前で転んでしまった女の子に、アナ姫が威嚇している。

 フローと第四部隊の団員達が駆け寄ると同時に、アナ姫が大きな口を開き牙を剥き出しにした。



「アナ姫、ダメ!」


 フローが大声で叫ぶ。



 目だけを動かして、こちらをジロリと睨むアナ姫。


「アナ姫、あなたが怪我をさせてしまったら、グレイ副団長が責任を取らなければなりません。副団長がいないときに人を襲ってはいけません」


 すると、アナ姫は威嚇を止めフローの前までゆっくり来て、鼻先をフローの顔に付けた。鼻先だけでもフローの顔より大きい。そして、優しい目でフローを見た後、厩舎に戻っていった。


「大丈夫ですか?」


「ここで何をされているのですか?」


「転んで、汚れてしまいましたね」


 団員達が次々に女の子に声を掛ける。

 黒髪でシルバーの瞳を持つ綺麗な女の子だ。



「私は、アルフォード様に会いに来たのです」


「アルフォード様はどこにいますか?」



 その言葉を聞いた団員の一人が、右手首をふらふら揺らしながら「子供の遊び場じゃないんだ」すぐ帰るよう促した。


 女の子は、顔を真っ赤にしてフローを睨み付けながら人差し指を向けてきた。


「······あんたが、お母様が言っていた"醜い緑の女"ね。アルフォード様は私の婚約者になる方よ。醜いくせに、アルフォード様の周りをうろちょろしないで!」


 

 フローは、突然の事に理解が追い付かずに、呆然と立ち尽くしていると、レイモンド団長と黒髪の大人の女性が現れた。


「シャーリー!こんなところに、探したのですよ。帰りましょう」


「お母様、私はアルフォード様に会うまで帰りません」


「アルフォード様は、騎士団で外出中だと伺いました。また、日を改めて·······」


「アルフォード様に会うまで帰りません」


 母親が娘を迎えにきたが、シャーリーと呼ばれた女の子は母親にまだ帰らないと懇願した。



「これは、どういうことですかな?」


「モディラン夫人?······お答えしていただけますかな?」



 モディラン夫人という女性は、この世の終わりのように顔を真っ青にして俯いてしまい、レイモンド団長の問いに答えたのは、シャーリーという女の子だった。


「ギャリマ様、アルフォード様に会いにきましたがお姿が見えず探していたところ、この醜い緑の女が獣を使って私を襲わせたのです」



「モディラン夫人、シャーリー嬢は迷ったのではないらしいですよ?」



「申し訳ありません。その様です」


 困った顔をしながらモディラン夫人がレイモンド団長に謝罪した。すると、シャーリーと呼ばれた女の子が後ろにいたフローを振り返り、睨み付けながら指差をした。


「ギャリマ様、聞いていらっしゃいますか?この醜い緑の女が獣を使って私を襲わせたのですよ!」


「モディラン夫人、またこのようなことがあったら······牢に入ることになると理解していただきたい」


 更にレイモンド団長は、二度とギャリマ家の敷地と第一騎士団管轄内に足を踏み入れないようにと、モディラン夫人に告げた。


「シャーリー嬢、フロー嬢はエメリラルド国の女王のご令嬢だ。つまり、エメリラルド国の姫様である。今すぐフロー嬢に言った暴言の謝罪をするように。それと、アルフォードはここには居ないので諦めて帰るように。この2つは、お願いではなく命令だ」


 シャーリーと呼ばれる女の子は、顔を真っ赤にしレイモンド団長を睨み付けた後、きびすを返した。



「謝罪も出来ないとは······シャーリー嬢は、私の言葉が理解できないらしい」


「申し訳ございません、きちんと言い聞かせます。······実は、娘が言うには、お茶会のときにアルフォード様を見て、すぐに結人だと分かったと。でも当日は、沢山の人がいて話せなかったと言っていました。アルフォード様は、シャーリーの事を何とおっしゃっていましたか?」


「何も言っておりません。もし、シャーリー嬢の言う事が正しければ、周りを気にする余裕もなく、アルフォードと一緒に居ることになったでしょう。話すことが出来なかったと言うことで······自ずと答えがでてますが」








 第一、第二部隊が魔牛を5頭も連れて帰ってきた。魔牛は魔狼の倍以上の大きさだった。一緒に連れて行かれたレイは、一番後ろをしょぼくれて歩いていたが、フローが視界に入るとすぐさま目の前まで走ってきた。


『ただいまー!フロー、聞いてよー』


「おかえりなさい。どうしたの?」


 レイは顔を突き出して甘えてきた。大きなレイに擦り寄られて、転ばないようにするのが目一杯だ。


『みんなに怒られたんだ』



「嬢ちゃん。このバカ犬は、初っ端から作戦を無視して魔牛を怒らせ、仕舞いには俺が背に乗ってることも忘れて振り落とした後、魔牛を蹴散らしやがった。灸を据えといたけどな」


 魔牛を狩るはずが、レイは遊び始めてしまったようだ。


「せっかく貴重な団体の狩りを経験させるのに

連れて行っていただいたのに、ごめんなさい」



「嬢ちゃんが謝ることじゃないさ」


「バカ犬には、今夜は寝ずに魔牛の見張り番をするという罰を与えといた」


 グレイ副団長はレイに視線を戻し「アナ姫に留守番させてまで、連れてった甲斐無し」と氷点下の眼差しを向けた。


 そうこうしているうちに、第四部隊が風魔法を使いながら魔牛を解体し終えていた。魔牛5頭分を保管する場所が無いため、それを厩舎横の木にぶら下げ、第二部隊が氷魔法で凍らせていた。


 第三部隊も帰ってきた。凄い量の薬草だ。その内の一人が大きな袋を抱えてこちらにきた。


「おかえりなさい。ハイドさん」


 ハイデュルド·ガルーディズさんだ。アシンメトリーの短髪でシルバーにブルーが薄く入った

髪と同色の瞳を持つ青年で、右眉の上に傷跡があるが、それすらも色気のアクセサリーと化しているフェロモン駄々漏れの美男子だ。


 ハイドさんは魔力練りに興味をしめし、元々薬草学を学んでいるとのことで訓練の休憩中に魔力練りを教える代わりに、黒国の薬草の効果や禁忌などを教えてもらっていた。


「留守番のお土産に、珍しい薬草を採ってきたよ」


 袋からハイドさんが薬草を取り出し「忘れ草」水色の小花が可愛らしい。滅多にお目にかかれない希少な薬草だが、リュイが匂いがすると言って走り出し、第一騎士団の森の先で見つけたという。リュイがフローに薬草を摘んで持って帰れば喜ぶだろうからと言い、沢山採ってきてくれた。

 リュイはハイドさんの魔狼だが、フローとハイドさんが仲良く薬草の話をしているとき、リュイに睨まれることが多かったので嫌われていると思ってた。


「ありがとうございます」


「リュイにも後でお礼を言いますね」


 忘れ草は、幻影草とも呼ばれている魔草で、忘れてしまった記憶を呼び覚ます効果があるという。幻影草と呼ばれている由来は、その記憶を呼び覚ますときに脳内で記憶が影像化されるからだとハイドさんが教えてくれた。


「魔力練りで、飴玉にしておけば?」


「学生になって、テストを受けるとき満点だ」



「······ハイドさん、学生のときにカンニングしたんですか?」


 ハイドさんは右手の人差し指を口の前に当ててニヤリとした。



······う、美しい!魔族はフェロモンだけで

  完璧にエルフを仕留められるのね

  


 第五部隊も戻ってきて明日の準備もあらかた終わると、グレイ団長の一声で騎士達が集まる。そして全団員の点呼が終わるとレイモンド団長が話し始めた。


「明日は朝から準備がある。準備が終わり次第、騎士の正装に着替え女王をお迎えし、バーベキューを始める前に団服に着替えて、すぐ持ち場に戻ってくれ。私は女王の迎えに行くので朝からいないが、バーベキューの内容についてはグレイ副団長とフロー嬢に聞いてくれ」


「それと、この後は予定通りで······以上だ」



······この後の予定?何だったかな?


 団員達がバラけ出し、近くにいたアルに小声で声を掛けた。「アル、この後って?」レイモンド団長の予定通りが何かを聞く。


「さぁ、何のことだろう?」


「何かあれば、直接言われると思うよ。明日はフローの母上が来るのか。女王を前に緊張しちゃうよ」


「今夜は僕も寮に行くから、一緒に食事しよう。着いたら、部屋まで迎えに行くから待ってて」


 アルは、フローの髪飾りを撫でた後、フローの額に自らの額を合わせた。

 突然のアルの行動に、全身真っ赤になったフローは、アルも全身真っ赤になっていることに気がつかなかった。










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