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~一章~ 青国からの招待状



「フェン兄様!アライグマさんがいるわ!」


「あっ!エリク兄様ずるい。いつの間にお庭に行ったのかしら!」


「私も、行ってくるね!」




「フロー!行っちゃダメだよ!」



 フェンと呼ばれる、肩まである緑髪に、深いグリーンからブルーに代わる緑彩眼を持つ洗練された容姿の美男子は、フローの3つ年上の兄で、この家の長男のフェンスリーグだ。


 そして、アライグマと遊んでいるエリクは、透き通ったグリーンとイエローの緑彩眼で、金の短髪が活発的印象な1つ年上の次男エリクシエル。


 三人は朝食を終えて部屋に戻る途中だった。


 部屋に向かう廊下を歩いていたとき、窓から見た庭園で、アライグマがいたのを発見したのだ。


「私も、アライグマさんと遊びたいわ!」


「エリク兄様だけズルイ!」



 呆れ顔でフェンはため息をつき


「遊んでいる時間はないだろう。食事の後に母様から言われたことを忘れたのか?」


 

 ······そうだった。


 つい先程、朝食を食べ終えたときのことだ。


「今日は予定通り、みんなで父様の実家に行きます。一週間後に行われる父様の弟、サフィニア国の王弟殿下の結婚式前に、家族で晩餐会を···と、父様の兄であるサフィニア国国王陛下からお誘いがありました。この後、みんなの用意が終わり次第すぐ出発しますからね」



······母様が話していた


······すぐ出発だって



「フローは女の子なんだから、ドレスに着替えるのに時間掛かるだろ!」


「遊んでいたら、また前のときみたいに置いてきぼりになっちゃうぞ!」



······そうだった


······前にサフィニア国に行くとき


······置いてきぼりにされたんだっけ



 フローは、そのときのことを思いだした。


 その日はとても暖かい日だった。

 お出掛けすることが嬉しくて、前日の夜は中々寝付けず、乳母に永遠と絵本を何冊も読んでもらった。


 そして当日、朝食を終えた後に、庭園に珍しい蝶々がいたので見に行くと、お腹がいっぱいになり寝不足だったせいか、うとうとと······。

 気がついたときには、みんなが出発するときで、私は着替えもしていなくて連れて行ってもらえなかったのだ。



「フェン兄様!今すぐ着替えるので、兄様の用意が終わったら、お部屋に迎えに来て下さい。絶対来て下さい」



「わかったよ。迎えに行くよ...」



 フェンは、面倒くさそうに頭を掻いた。





 最初に向かう先は、この国の王城である。家は王都に建っているが、王都との中でも南東のはじの方にあるので、王城までは馬車でも一時間くらいかかる。


 緑国の王都は緑豊かな森林の中に家が建ち並んでおり、いわゆる田舎っぽい感じである。


 フローの家は森の中の一軒家的だが、敷地内にはかなり大きいし寮もある。寮には、青国から来ている父の護衛騎士らや母の侍女ら、乳母にシェフに庭師に御者などが住んでいる。他にも馬厩舎が2つあり、庭園もハーブガーデンさることながら、畑まであるのだ。


 母様は、家から王城まで毎日転移魔法で仕事に通っているが、今回は王城から魔術式のゲート(魔術門)を使って青国に転移するため、子供たちの身体に負担が掛からないように、家から王城までは馬車での移動となった。





 緑国王城内にあるゲートに入れば目の前の壁模様が変わり、一瞬で青国のゲート上に立っていた。


 そして、目の前には金髪碧眼の老夫婦が立っていた。



「お爺様とアンお婆様!」



 フローは、嬉しくて声を上げてしまった。


 慌てて両手で口を押さえ、視線を母様に移動してみる······



······今のは、まずいやつだ。

······馬車の中で母様に、第一声は挨拶ですと

  言われたばかりだっけ。



 フローは一瞬で氷漬けになった気分だった。



 お爺様が微笑みながら、フローに軽く片方の目を閉じたあと右手を挙げ···



「挨拶は省こうぞ······」


「フロー!今回は間に合ったのだな。フェンもエリクもまた背が伸びたようだ。ニイルはまだ仕事中だと言っておったが···来るまでゆるりとするがよい」




「みなさんよく来てくれました」


「あなたたちに会うのが待ち遠しかったわ。さぁ、まずはお茶にしましょう。ナリスも待っているわ」



 前国王陛下のお爺様は、隠居してからアンお婆様、ナリスお婆様と一緒に離宮に住んでいる。本当は王都に住みたかったらしいが、色々あって王宮から外には住めないと言っていた。


 アンお婆様は正妃で、今の国王陛下と父様の実母。父の弟で三男の王弟殿下の実母が、側妃のナリスお婆様だ。




 先に、結婚式までお世話になる離宮の部屋に案内される。


 クローゼットの中には、沢山のドレスが用意されていて、その中でも黄色地に水色のリボンの付いた可愛いドレスに着替えさせてもらい、お婆様たち自慢のバラの庭園までメイドに案内されて行く。



「ナリスお婆様!」



······またやってしまった。



 気まずそうな顔をしたためか、ナリスお婆様はクスクス笑いながら


「大丈夫よ!まだ誰も来てないわ。こちらにおいでなさい」


 隣の席に促され、席に着く。


 ナリスお婆様の手がフローの頭に置かれ、優しく撫でながら、もう片方の手の人差し指を立て口元に当てた。



「······フローは、私の子供のころにそっくりなの。血は繋がっていなくとも、貴方は私の孫よ。ドレスも、私が仕立てたものを選んでくれたのね。嬉しいわ。」



「ナリスお婆様とそっくりなの?...髪の色も瞳の色も違うのに?」



 ナリスお婆様の髪は金色、瞳の色は水色だ。


 首を傾けていると、もう一度人差し指を口元に立て、ニヤリとした後とても小さな声で言った。


「容姿ではないわ」


「······おっちょこちょい···と

 ······お転婆なところがそっくりなの!」



 そして、アンお婆様と母様が到着した頃には、沢山用意されていたお菓子がほとんど無くなっていた。




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