~一章~ デートに参加する2
王宮植物園につくと、背の高い茎の先に黒紫色をした百合の様な巨大な花をつけている植物が入口で出迎えてくれた。ディー様が黒国でしか育たない珍しい植物で、空気中の魔素を必要とする花の一種、魔草花だと教えてくれた。
「この花の名前はブラックオル。月に照らされると虹色に光るのよ」
花名はブラックオパール石から付けられたという。黒国ではこの花は癒しの花と言われているが、魔素から癒しとはかけ離れているように思う。
中に入ると庭園の先に薬草園があり、色々な薬草や魔草花を採取できるようになっていて、摘んで帰れるから「アルへのお土産にどうかな」得意の飴玉を作って持って帰ろうとライ様が提案してくれた。
大きな門の入口を抜けると色とりどりの葉っぱを持つ植物の中に細い通路がある。
「うわー、凄い」
フローが口を開けたまま目を"パチパチ"させていると、ディー様がフローの顔を覗きこむ。
「植物の楽園に来たみたいでしょ」
「はい」
「ここには野生の小さい魔獣もいるから、フロー嬢は離れず歩いてくれるかな」
「魔獣もいるのですか?」
「たまに見かけるわ。でも、ほとんどは逃げてしまうから襲ってはこないけど、念のためみんなで移動しましょう」
小さい魔獣とは、どんな生き物がいるのか二人に尋ねると、鋭い一本角が生えている一角黒ウサギや、尻尾の毛が針になっている針尾キツネ、鎌のように鋭い爪を持つミミズク鎌など、他にも多様な魔獣がいるらしい。
植物を観察しながら通路を20分くらい歩いた先に小さな小屋があって、煙突から煙が立ち上がっていた。
「ここからは馬車で移動しましょう」
小屋の中にライ様が馬車の手配をしに入っていくと、ディー様が「煙突の煙を見て」と人差し指を煙突に向けた。フローが見上げていると煙の色が白から赤に変わっていく。
「馬車を呼ぶ合図なのよ」
すると、ライ様が小屋から出てくるより先に馬車がディー様とフローの前にやってきた。
「馬車の馬は、普通の馬なのですね」
「フロー、この馬も魔馬よ!」
色が黒くて分かりづらいが、近くでよく見ると、体の表面は確かに鱗で覆われている。
3人で馬車に乗って薬草園に向かいながら、魔馬について聞いてみた。
「魔馬の大きさや色は、年齢によるものなのですか?ライ様に乗せてもらった魔馬と、馬車の魔馬は何か違うのですか?」
魔馬にも色々な種があり、馬車を引いてるのが下位魔馬で、上位魔馬が第三魔獣騎士団の魔風馬、ライ様と乗ってきたのは魔走馬と言って最上位魔馬。最上位魔馬はもう一種、魔天馬がいるという。
「凄いです。魔馬にも色々いるんですね!」
「最上位の魔馬に乗ったなんて、一生の思い出になります」
魔獣に無知なフローに、ライ様は唖然としたらしく、数秒してからため息を吐いた。
「第一魔獣騎士団の魔狼は魔大狼と言って、魔狼の中で上位種なんだ。そして魔大狼の雄が最上位に君臨している。分かるかい?君は毎日、最上位魔狼に乗って遊んでいるんだよ」
「······レイが?最上位魔狼?」
「そう、レイが」
「······あれで?」
「そう、あれで」
ここ500年で、第一魔獣騎士団の魔狼に雄が産まれた数は「レイが3頭目だよ」かなり少ない数だ。レイを除いて現在確認されている数は5頭だという。ちなみに魔走馬は6頭しか確認されていなく、その内の1頭がライ様と乗った深緑色の魔馬で、ライ様が魔獣大量発生時の討伐遠征先で出会い瀕死の状態だったところを助け、今はライ様のお家の居候だという。
「名前は何と付けたのですか?」
「呼び名はギー、名前はないんだ。主としてではなく、友として···家族として一緒にいるからね」
「ギーは気性が荒いんだけど、私達家族にはとても優しい魔馬なのよ。フローの魔狼にも会ってみたいわ、最上位の魔大狼の主だなんて、フローは凄いわ!」
「全然凄くないです」
レイを見たら「幻滅します」と言いたい言葉を声に出さずに心に止めた。
☆
「あの白い丸い葉っぱは何ですか?」
「この茎に付いている実は種ですか?」
広大な薬草園。多種多様な薬草。初めて目にするものばかりで、フローは興奮して「全種類採取します」目をギラギラとさせる。
「フロー嬢、落ち着いて下さい」
「ふふっ、全種類は無理よ。また連れてきてあげるから、今日は気に入ったものだけにしましょうね」
「そうだわ!ライが先ほど入口で買ったパンフレットがあるわ」
そう言ってディー様はバックからパンフレットを取り出し、フローに手渡した。
たくさんの薬草の写真に、効果や効能が記載されているパンフレットだ。
「これを見ながら薬草を選んで、アルに渡す飴玉を作ってみてはどうだろうか」
「分からないことは聞いてね!」
「お茶を作るのに、私も近くで薬草を摘んでいるから」
「ありがとうございます」
······アルにはどんな効果がいいかしら
······んー、んー
······思いつかない
「騎士は、怪我をする事が多いから治癒をするものや、身体を強化するもの、劣勢に立たされ後退するときに身を隠すもの、更には威嚇が上がるもの何かもいいかな」
破顔の笑みでライ様がアドバイスをしてくれた。アドバイスは嬉しい。でも、その笑みを見せないで欲しい。
······今、私にも気を失わない薬草が必要だ
「···では、治癒系、強化系を作ります」
パンフレットを参考に薬草を摘んできて、味を確かめる。
······黒い花と、白い葉と·····
······これと、この実と、その根っこ
······最後にこれ
「出来た!!」
「怪我治癒、状態異常治癒!」
······次は
······この種の殻と、茎
······赤い花と······黒い花
······黄色の実
「ふ、ふ、ふ、出来た!!」
「身体強化、皮膚硬質化、体重軽量化!」
······あっ、これも必要かな?
······この葉と、その葉と
······紫の葉
「よし、出来た!!」
「魔力回復、体力回復!」
······後は······うん、これだ
楽しくて一人黙々と魔力を練って次々と薬草丸を作っていると「フロー!そろそろいいかしら?」後ろからディー様が、もうそろそろ帰ろうと声をかけてきた。振り返ると、沢山の薬草を抱えていた。
「ずっと後ろから見ていたのよ!エルフの魔力練りは、秘伝よね?まさか、この目で見られるなんて驚いたわ!フローは天才なのね」
「えっ?······秘伝?」
「家では、みんな出来ますよ?」
首を傾げてフローが言うと「天才一家なのね」凄いことだとディー様が目を見開く。
「そうですね、フロー嬢の母親は白い地一の魔法使いだし、父親は白い地一の魔術師ですからね。どんなご家庭か興味深いです」
そう言いながらライ様がディー様の抱えている薬草を横からひょいと取り上げると「では忘れ物はないですか?」帰りは転移魔法で出口まで移動した。
出口にある売店で『保存用袋』を購入し、薬草を入れておく。これに入れておくと1ヶ月間位は新鮮取り立てを維持できる優れた袋だとディー様が絶賛していた。
その後で、遅い昼食を食べるためレストランに入った。
店員さんに薬草を預けてテラス席に座り、オススメのランチセットを3人分頼むとアイスティーがテーブルの上に置かれた。
「アルへのお土産はどんなものが出来たのかな?」
「はい。治癒系と強化系、それと回復系の3つ作りました」
「グレイ副団長には強化系を···それと、これはライ様に、こちらはディー様にです」
ライ様には、今日のデートに連れてきてくれたお礼に。ディー様には今日遊んでくれて嬉しかった旨を伝えた。
「僕達にも作ってくれたのかい?」
「フロー、私の分多すぎじゃない?こんなに沢山作って魔力切れは大丈夫なの?」
「はい。私の魔力は底なしだって言われているので、へっちゃらです!ディー様には毎晩一粒食べて欲しいのです。エルフは世界一の薬師です。私は子供だけど、毎日魔力練りをし薬草丸を作っていて、母様からも緑国で3番目の薬師ねと誉められているんですよ。毎晩忘れないで飲んで下さいね」
毎晩フローを思い出しながら飲むわ「了解よ」と笑顔で約束してくれた。
ディー様がトイレに立った際「ディーのはどんな効果があるんだい?」興味津々でライ様が聞いてきたので「治癒です」とだけ答えた。
遅いランチを終え、おしゃべりに花が咲いてしまい店を出る頃には陽が傾いていた。店の前には魔走馬のギーが迎えに来てくれていた。
「今日は楽しかったわ。また一緒に遊びましょう。プレゼントありがとう」
「ワンピース。嬉しかったです。大事にします。また遊びにきます」
「では私は、フロー嬢を無事送り届けてから家に帰ります」
そして第一魔獣騎士団に向かいギーが走り出した。
「ライ様、実は今日······」
「どうしたんだい?何かあったのかい?」
心配そうにフローを見つめて「何かあったんですね」と、走っているギーを止めて後ろから頭を撫でてきた。
「聞いてはいけなかったかもだし、言ってはいけないかも······でも······」
馬車の手配をしに、ライ様が小屋に行ったときのことだった。ライ様とディー様に赤ちゃんが出来たら、美形な赤ちゃんになるとフローが話したら、ディー様が色々あって怪我をしてお腹の中が破裂してしまったから赤ちゃんが出来ないと話していたのだ。
「今日の薬草園に、時計草といった時戻しの草がありました。それとブラックオルは治癒、部分的に損傷した細胞を元に戻す効果があると書かれていたのです。この2つと体力強化、魔力強化、精神強化の薬草を練り込みました。内容は聞いてないので症状が分からないため、二人の未来を勝手に想像しながら魔力を注ぎ練り込み薬草丸を作りました」
ディー様には言わないで欲しいと伝える。子供が出来る薬ではないから。
「······ありがとう」
「······フロー嬢の気持ちだけで、嬉しいです。僕達は孤児院出身なので······周りから向けられる目は、言葉にならないほどでした」
「フロー嬢の······気持ちだけで、僕達は癒されました。ありがとうございます」
話の最後まで待たずに、ライ様の頬が濡れていた。