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~一章~ デートに参加する1


「おはよう、フロー嬢」


「あっ、ライ様···おはようございます···」


「···ん?今日は元気がないなぁ?どうした、何かあったのかい」


「いえ、何もないです。元気です」


 今にも泣き出しそうな顔をしながら、無理やり笑顔を作って返事をする。


「あれ?ライ様、今日は騎士服じゃない?」


 本日のライ様は、白いシャツに紺色のベストが、スラリとした体型にシルバーブルーの長髪と相成って騎士服のときとはまた違った爽やかな美男子だ。

 

 「これからデートなのさ」右目を軽く閉じてウインクしながら、無駄にフェロモンをダダ漏れさせている。


 そして何かを思い出したように、フロー嬢も一緒に行こうと、デートの脇役に誘われた。


 デートの邪魔になるからと断りを入れたがライ様は聞く耳を持たず、さっさとライ様の魔狼に乗せられ、近くにいた訓練場前の騎士団の集団に向かって「フロー嬢を連れて出掛けるから」副団長宛に伝言を頼むと、魔狼を走らせ始めた。



「ライ様ー、話し聞いてました?」


 膨れっ面で、後ろに股がっているライ様を睨み付ける。


「聞いてましたよ!邪魔じゃないから大丈夫ですよ」


「怒った顔もとっても可愛いです」



······う、

······笑顔が眩しすぎる


 

 第一魔獣騎士団内の森を抜けたところで待ち構えていたのは魔馬だった。この魔馬は、普通の馬の倍の大きさがあり、月に一度は肉を主食として食べるが、普段の食事は草ではなく木や木の葉を食べるらしい。体の表面は鱗で覆われていて深緑色の体色に翡翠を毛にしたような鬣が面妖さを物語っている。


「ここからは魔馬に乗り換えて移動するよ」


 黒国の王宮は広大なため御用達の店などが並んで商いをしている場所が幾つかある。

 今から向かうのは、第一魔獣騎士団から一番近い商いエリアで服を主に扱っている店が多いところだという。


 商いエリアに着いたところで魔馬から降り、石畳の道を歩いて門を抜ける。店がずらりとずっと奥まで並んでいて、たくさんの人で賑わっていた。


「わぁ、凄い」


 目をキラキラさせ辺りをキョロキョロと見回しながら歩いていると、あちこちからの視線に気がついた。


「······ライ様、みなさんこちらを見ていると思うのですが、気のせいですか?」



「この国では、他種族は珍しいですから。みんな、フロー嬢を見ていますね」


「それに、エルフ族のお嬢さんが第一魔獣騎士団の騎士服を纏っているなんて、誰も見たことがないでしょうからね。···フロー嬢、笑顔で応えるのも騎士の務めですよ」


 クスクス笑いながら「立派にお務めしましょうね」なんて、絶対に騎士の務めじゃないと思う。でも、何事も第一印象は大事だと母様がいつも言っている事を思い出し、待ち合わせ場所だという噴水までニコニコ笑顔を振りまきながら歩いた。


「ライ!」


 噴水の前にあるベンチに座ろうとしたとき、後ろから声を掛けられ振り返ると、背の高い魔族の女性が立っていた。ポニーテールにまとめられた濃いシルバーの髪は薄く藤色を反射していて腰まで届く長さで、瞳髪と同色の瞳に縦長の瞳孔をした美しい女性だ。シルバーの刺繍が施されている濃い紫色のマントが凛とした美しさを引き立てている。


「ディー、待たせてしまいましたか?」



「いいえ、今着いたところです」


「そちらの小さなレディは、エルフ族の癒し手様ですか?」


 

 ライ様は頷きながら「そうです」是非お会いしたいと言っていたので、今日は一緒にデートを楽しもうと思い連れ去ってきてしまったと、紹介してくれた。


「フロー嬢、私の奥さんでディアラです」



「初めまして、フロー様とお会い出来て嬉しいです。一日楽しみましょうね!」


 ライ様に奥さんがいたことにビックリしたが、ディアラ様はライ様以上の美貌の持ち主で、二人と並んで歩いていると更に回りからの視線が激しくなる。そんな二人はおかまいなしで、人目も気にせず額や頬にキスしている。そしてフェロモン出しまくりだ。フローは暫くの間、鼻血が出そうなくらい熱愛に当てられた。


······お姉様とお呼びしたい

······この二人、凄いわ

······イチャイチャはいつまで続くのかしら

······まだ終わらない

······長い、こちらの身が持ちそうにありません



 最初に訪れた店のショーウィンドウでは、スカートに切れ込みがあるシースルーの魔族特有のワンピースと、それに合わせたブーツが飾られていた。中に入るとディアラ様が「この子に似合いそうな服をお願い」と、店員さんに声を掛けた。


「ディアラ様!私はお金を持っていないので、見るだけでいいです」



「何言ってるの、服は着るものよ!今日の記念に私からプレゼントしたいの」


「それと、私のことはディーと呼んで」



「ディーは、フロー嬢とワンピースを着てデートしたいんだよ」


 ディー様とライ様の見立てで、アクアブルーをベースにピンクとブラウンの刺繍が入ったシースルーのワンピースに着替え、膝下までの革のブーツに履き替えた。


「鏡を見て!とっても似合ってる!」


「髪飾りにワンピースを合わせてみたのよ」


「第一魔獣騎士団なんて男ばかりでむさ苦しいでしょう。今日はお洒落して楽しもうね!」


 後ろからディー様に抱きしめられ「めちゃくちゃ可愛い!」と、頬ずりされてフローが顔を赤くしていると、ライ様がその様子をニコニコと見つめていた。


 一度休憩しようと、近くにあるお店に入る。そこはドリンク専門店で、さまざまな種類の飲み物が販売されていた。


 ディー様はフルーツティー、ライ様はミントティーを、フローはリフレッシュティーを注文した。


「フローの髪飾りは、アルメジレスト国のシェルね。ご両親からの愛が伝わってくるわ」



「あっ···これは、両親からではないです」


「アルが、お出掛けしたときにお土産を買ってきてくれたんです」



 ニヤリと微笑んだあとでライ様が「アルからのプレゼントですか」ピンクシェルの石言葉は"恋人同士の恋愛が永遠に続きますように"恋愛成就ですよ、アルもいつの間にか男になったんだなと言いながら、瞳を潤わせた。



「えっ、恋人同士?」


 フローは、耳まで真っ赤になり両手で顔を隠して俯くと「あらら、脈ありなのね!」と、ディー様が囃し立てた。


「私達魔族は、恋愛結婚なのよ!人族は政略結婚もするみたいだけど、エルフ族はどうなのかしら?」


「私とアルは、同じ孤児院で育ったの。アルが8歳のときに魔獣騎士に志願して、二年間見習い騎士として第一魔獣騎士団に入団したわ。正式に騎士になり、子爵家の養子になって10歳のときに私を迎えに来てくれたのよ。結人ではないからって、迎えに来たときにそのまま竜の巣まで行って水晶原で約束の儀をしたの。そのときに渡されたプレゼントがこれよ」


 出された左手の薬指にピンクシェルの指輪がはめられていた。ディー様は「ふふっ」と笑みを浮かべ幸せそうに指輪を右手で撫でた。そして、約束の儀の次の日に結婚の証しを二人で選びに行ったと言い「これよ!」二人の耳にはお揃いのピアスがはめられていた。


 

「恥ずかしいからそれ以上は止めてくれ」


 頬杖をつき顔をそむけたライ様が、このときばかりは可愛いらしくみえた。



「結人ではないからってお話しでしたが、結人とは何ですか?」



「結人っていうのはね······獣人族の番と同じようなものなの」


 出会う確率は少ないが、出会った瞬間その人以外に考えられなくなるらしい。


 でも、ディー様とライ様みたいに、その相手と出会う前に約束の儀をすることで結人との縁が切れ、儀を交わした相手が伴侶となると言う。


 もし、約束の儀の前にディー様が結人に出会ってしまっていたら、ライ様はどうなるのかを聞いてみると「伴侶には成れなかったかも」少し淋しい顔をして答えた。



······アルが約束の儀をしなかったのは

  結人と結婚したいからだ


 二人の幸せな話を聞いた後で、アルに裏切られた気分になり胸の奥が苦しくなった。



「······この後、王宮植物園に行ってみない?白い地では見られない薬草がたくさんあるのよ!お昼も園内のレストランで食べましょう、あそこの食事はとっても美味しいのよ。今日はデートなんだから、フローには沢山楽しんでもらわなきゃ!」


 ニコニコしながら、ディー様がこの後の予定を語る姿を見て、フローの心もホッコリとした気持ちに変わり、今日を楽しむことにした。





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