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~一章~ 第一魔獣騎士団


 見上げた視界の遥か先は、透き通ったアクアマリンの色をした空、ところどころには真っ白な真綿の様な雲がある「あれはクロワッサン」「あっちはベーグル」連想しながら現実逃避をする。それと言うのも、直ぐ目の前の光景から目を背けるためだ。



「嬢ちゃん!良く見てろよ!」


 濃いシルバーに薄くブルーがかった短髪に、縦長の瞳孔で、髪と同色の瞳をした筋肉美男子のグレイ副団長が、筋トレを披露しているのだ。そして、筋肉の動きがよく見えるように、薄い生地のシャツ一枚でトレーニングのやり方をフローに伝授している。



「近すぎます」


 ちらりと見たが、見たくない。



 今日から2日間、アルが家族と外出するために一緒に遊べない。朝食を終えた後、一日暇だろうからと、副団長のグレイが「騎士団の素晴らしさを、嬢ちゃんに見せてやるからな!」騎士団の訓練に誘ってくれたのだ。


 そして訓練場に着くと、見ているだけじゃつまらないだろうから体験させてやるから着替えてくるようにと、服を渡された。


 渡された服を広げれば、それは団服だった。


「グレイ様!······こ···この服」


「私が着てもいいのですか?」



 大きく目を輝かせ、満面の笑みのフローを見たグレイ副団長は「早く着て来い」と素っ気ない返事を返した。


 そして現在に至るのだ。


 



「ちゃんと見てたか?」


「はい!グレイ副団長」


 団服を着ているときは副団長と呼ぶように言われ、大きな声で返事をする。


「よし、見習い騎士のフロー!今度は君の番だ」


「はい!グレイ副団長!」



「今見た通りにやってみろ」


「はい!グレイ副団長!」



「··········フロー、返事は普通でいいから」


「はい!グレイ副団長!」



「··········返事はもういいから、始めるように」



 フローがここまでどっぷり騎士団にはまるとは思わなかったグレイ副団長は「······しまった」と、眉間にシワを寄せた。


 フローが見よう見まねの筋トレをしていると、美形騎士団員のライ様に「フロー嬢、ムキムキ美人に成りたいのですか?」と聞かれた。


「いえ?成りたくないです」


「では、どうして筋トレしてるのかな?」


「第一魔獣騎士団にしょぞょく······所属したからです」



······かんでしまった。



 恥ずかしくて耳まで真っ赤にしたフローを見て、あんぐり口を開けたままライ様は固まってしまった。



「嬢ちゃん?騎士団に入団させるとは言っていないと思うのだが?」



 ふたりの会話を聞いていたグレイ副団長が、首を傾げながら「体験させるとは言ったが」それを否定するかのように口を割ってきた。ライ様がジロリとグレイ副団長に冷たい視線を向ける。


 

「団服を着ているときは、副団長と呼ぶように言われました。だから、団服を着ているときは団員です!」


 

 フローが笑顔で答えると、ライ様はグレイ副団長を睨み付け「······だそうです」責任を取るように言いった。



······俺?


······確かに呼ぶように言ったな


······まずい


······団長にしばかれる



「······そうだったな。団服を着たときだけな!」


 








「この後は休憩を挟み、第三魔獣騎士団へ向かう。第四部隊は、モンドから昼食を受け取った後で、休憩に入ってくれ」


 グレイ副団長が指示を出すと、団員達は厩舎前にある給水所に向かった。


 今日は『リーモン茶』と呼ばれる柑橘類のフルーツティーが用意されていた。その隣のテーブルの上には、深緑色した丸い葉っぱが山の様に盛られ、その奥にはリーモンの果実が輪切りで、また山の様にお皿に盛られていた。


「フロー嬢は、リーモンを食べたことがありますか?」


 リーモンの実は、黒国でしか採れない果物で、とても甘く、かなり酸っぱいらしい。そして、深緑の葉っぱはリーモンの木の葉で、疲れを回復してくれるのだと言う。


 ライ様が、リーモンの輪切りを葉っぱにくるんで食べるんだと教えてくれた。


 団員達は、くるんだそれを無理やり飲み込んでいる様に見える。



「みなさん、その葉っぱと果実を私が食べやすく作るので、食べるのを少しお待ち下さい」


 小さい子どもが、「「「作る?」」」どう料理すると言うのか?団員達はテーブル前をフローに譲った。


「すぐ作りますね!」


 リーモンの輪切りの上に葉を乗せると、それを挟む様に左右から魔力を流し始め、甘くて美味しい回復薬のキャンディを想像しながら、ゆっくり魔力を練っていく。

 しばらくすると、実と葉が混ざり合いながら小さく萎んでいき、沢山の飴もどきが完成したのである。


 その行動を初めて目にした団員達は、驚きを隠せず、フローに質問攻めだ。


「今、魔力を使ったよね?」


「魔力で作ったの?」


「えっ?これは何なの?」


「どうやったの?元に戻すことも出来る?」


「今の何?もう一回やってみて!」



「魔力練りだな!成人した薬師のエルフ族が覚えると聞いたが、今から薬草丸を作れるなんて······嬢ちゃんは天才だな!」


 グレイ服団長は、できたそれを何個か口に入れ「ほう、これはいける」と言った後「突然無くなった?」と、呆けた顔でフローに視線を向けた。


「ふふっ······魔力入りだから!口の中に入れると粉々になって体に吸収されちゃうの。飴みたいに、ずっと舐めていられないんです」


 それが残念なのだが、先ほど食べづらそうに口に入れていたので、食べやすい方がいいと思って作ってみたのだ。


「さすがグレイ副団長だ!」


「見て直ぐ回答出来るなんて」


「たまたま知ってただけじゃない?」


「毒入りも作れんじゃない?」


「いや、元カノに作られたんじゃないか?」



「······お前ら、いい加減にしろ!期待に応えられず申し訳ないが、元カノなんかいねー!」



「ふふっ······。毒入りは禁止されています!」


「私は魔力量が多いから、魔力を調整して使えるようにするため魔力練りから覚えるように、小さい頃から母様がずっと教えてくれています」


 団員達はひとつ、またひとつと手に取り口に放り込んでは、「「「体力回復半端ない!」」」と、次々手に取って行く。そして、あっという間にリーモンから作った薬草丸が無くなった。



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