~一章~ 約束
ちょっと風変わりな魔狼のレイは、主以外のアルにも心を砕いている。
本来なら魔獣が魔石に魔力を蓄えるには食事が必要となるが、成獣になるまでは母の母乳からも魔力を得ている。しかし、レイは魔石がない。宿しているのはフローの守護石だ。
そのためか、レイは母乳を飲んでもフローに魔力を貰っている。そして、アルの魔力もおねだりするのだ。
『撫でてほしいってアルに言ってー』
「私が撫でてあげるよー」
「ワシャワシャーっ!魔力充電!どうだー!」
『毛繕い大変なんだから、ワシャワシャしないでよ』
『今はアルの気分なんだよー』
まだ産まれて何日も経っていないのに、体はデカイし態度もデカイ。
主を蔑ろにする、とっても失礼な魔狼だ。
「アル、レイが撫でて欲しいんだって」
「ん?僕?フローがいるのに?」
「アルにして欲しいんだって言ってるわ」
「レイはアルにも魔力をもらってるのに、どうしてアルとは念話で話さないの?」
言葉の橋渡しが面倒になったフローは、不思議に思いレイ聞いてみる。
レイの知識からは主としか念話しないという。
そもそも、魔狼は主以外の他の人には興味も示さないし、じゃれあうなんてもっての他なのだ。
「でもそれは、普通の場合でしょ?」
主以外の人から魔力を貰っている魔狼はレイだけだ。最初から常識はずれなんだし、アルのことも背に乗せたり遊んだりしているのだから念話で直接話した方が面倒じゃなくていいのでは?と思う。『考えてもみなかったー!』これからはアルとも直接念話で話すよと、自分から魔狼の常識を覆す。
『アル、聞こえるー?』
『お気に入りの場所まで、まだ遠いの?』
アルは突然の出来事に目を大きく開き、瞼をパチパチさせレイを見た。
「······レイ······今のレイ?」
『そうだよー』
「聞こえるよ」
『やってみるもんだね!僕って凄いー』
「あぁ、凄いよ。魔狼としての気高きプライドが無いところがな」
アルの何気ない言葉から、レイの知識には『プライド大事』と追加されたのだった。
☆
「ここは?」
「大昔、竜の巣だったところ」
「この洞窟の中は水晶原って言うんだ」
かなりの広さがあるその洞窟の中は、辺り一面が青水晶で覆われている何とも幻想的な青い世界をしていた。
『奥まで入ってもいい?』
鼻をクンクンさせながらレイが先に入っていった。アルがフローの手をとると、ふたりも手を繋ぎながらそれに続く。
『この中、母さんのお腹の中にいたときみたいに凄く気持ちいいよ』
「すごい···綺麗···」
上を見ても横を見ても、そして足元を見ても全てが水晶でそれが更に奥深くまで続いている。
「竜は魔人族の祖先だったって、フローは知ってる?竜の巣の中は魔族にとって一番過ごしやすい場所って言われているんだ」
竜を祖先に持つ種族は、白い地では竜人族だ。魔人族も竜人族も瞳孔が縦長なのは、竜の血を引いているからだと言われている。
「竜は大切な相手のためだけに、綺麗で居心地のいい巣を作ったんだって」
「今も魔人族では、竜の巣の中で大切な人と約束の儀をするんだ。ずっと一緒にいる約束って言われているんだ。いつまでも変わらず思いも永遠にってね」
「約束の儀は何をするの?」
「······約束の儀式をするときにしか教えられないな。魔人族独特の行為なんだ」
「私も知りたい!」
「じゃぁ、アルとするから教えて!」
一瞬で顔を真っ赤にし、アルは気持ちを落ち着かせるように深呼吸を繰り返した。
······僕はまだ成人まで後二年ある
······エルフ族の成人は12歳って言っていたな
······フローは意味を理解していない
「ずっと一緒にいたい大切な人とするんだよ。本当に僕でいいの?」
「アルと、ずっと一緒にいたいわ!」
「アルは、いや?」
今日じゃなくて、次に来たときのお楽しみに取っておこうと、アルは誤魔化した。そして、絶対に約束の儀をフローと行うことを約束した。
「分かった、お楽しみね!」
「それに、これは二人だけの秘密だよ」
「秘密っ!······素敵だわ!」
「アルこそ、絶対誰にも言わないでね」
秘密が気に入ったらしく「絶対よ!約束よ!」フローは右手の人差し指をアルの口に当て、口を封じ、命令口調でそう言うと、耳まで真っ赤にして目をそむけた。その様子が嬉しくて提案者は優しい笑みをこぼすのだった。