~序章~ 人生の始まりの日
はじめての投稿です。
ここは、表半球を白い地、裏半球を黒い地と称した表裏一体で構成された世界である。
白い地には3つの大陸と1つの島がある。
一番大きい大陸には人族が住まう青国、サフィニア国。その隣りの大陸には、エルフ族が統一する大森林の緑豊かな緑国、エメリラルド国。最後の大陸には2つの国があり、ひとつが獣人族を筆頭に多種族が暮らしている赤国、ルービニアス国。それと、渓谷で覆われている竜族がひっそり住まう黄国、トパードゥラ国。
緑国から南に少し離れた島国が白国、ホワイティア国で、白い地は5つの国で構成されている。
裏半球の黒い地では、広大な大陸を魔人族が統べる黒国のオブラニキス国と、小さな沢山の島が連なって出来ているダークエルフ族が住む紫国、アルメジレスト国の2つの国があった。
☆
白い地のうち、1つの大陸にある緑国。大陸ができた当時からあると言われる3本の大古木を囲んだ中心には小さな王城がある。その回りには自然の森林を活かしながらの王都が広がっていて、更にそれを囲むかの様な大森林の中に町や村があり、エルフ族が自然と共に暮らしている。
王都の南東の端にある森の中。この春、ここに新しい命が3つの守護石を宿して誕生した。
「リリー、体調は大丈夫かい?
三番目の子は、男の子と女の子どっちかな?」
部屋のドアを開け入ってきたのは、人金髪碧眼の人族の美男子だ。
「大丈夫よ!ありがとう。
ニイル待望の女の子だわ」
無事、出産を終えたばかりのリリーの腕の中には、布地に包まれて生まれたばかりの女の子がスヤスヤ眠っていた。
ニイルは目を細め、手を差し伸ばして『リリー似の美人さんだね』微笑んで我が娘を抱き上げる。
リリーは、ベッドサイドに腰を下ろして愛おしそうに我が子の顔を覗き込むニイルの笑顔に安堵し、そのまま浅い眠りについた。
☆
ふたりの出会いは、リリーが10歳になり魔法世界大学へ入学した日だった。
大学に到着すると、正門脇からリリーの前に金髪碧眼の男子が魔方陣から現れた。
大学では、入学当日に行われるイベントがあり、パートナー同伴での会場入りとなっているため、正門まで迎えに来てくれたのである。
『はじめまして、リリーアニス嬢。本日のイベントパートナーに大学から指名されましたデイニイルと申します』
パートナーは、大学または大学院の在校生から選出される。リリーのパートナーを大学側から指名されたのが1つ上の学年にいたニイルだった。
『すみません。お迎えに上がるのがギリギリになってしまいました』
急いで着替えて来てくれたのだろう。制服のブレザーのボタンの留め方がチグハグで掛け違っていた。
『はじめまして、リリーアニス·ドゥルスと申します。私も今着いたところですわ。今日は、イベント中のパートナーとして、宜しくお願い致します』
当時のニイルは学生でりながら、青国の魔術研究局の副局長を勤めているという、大変優秀な人族だった。
すらりとした長身に、腰上まである金髪の長いストレートヘアを首元あたりで束ね、サフィニア国の王族独特の碧眼をもつ美男子であり、第二王子と言う地位も加わって、大学での人気は凄まじいものだった。
サフィニア国、青国と呼ぶが、この国には世界の種族が入学出来る大学が二校ある。魔術世界大学と魔法世界大学だ。魔術世界大学は魔法が使えない人族が高度魔術を学ぶための学舎である。そして、魔法世界大学は高度魔法の習得が可能だ。
魔法が使えないニイルが魔法世界大学に進学しているのは珍しくなく、魔術式を形成するにあたり、魔法の知識が必要になるために人族からもこちらの大学へ進学する者もいる。
逆に、魔法が使えても属性によっては使えない魔法も魔術で補えるために、魔術世界大学へ進学する種族も多い。特に聖魔法や光魔法など、今の時代属性保持者がいない治療系魔法は各国魔術に頼る他ないのだ。
ふたりは、ニイルが大学を卒業するまでの一年間、大学の色々なイベントなどで交流を深め善き友人として過ごしていた。ニイルは卒業後、魔術世界大学の大学院へ進学した。そしつて翌年、リリーは大学を卒業し魔法世界大学の大学院を三年で卒業した後、エメラルド国の女王となる。
国を挙げての新女王誕生祭が1ヶ月続く。
その式典には各国が祝いの席に訪れた。そこに、サフィニア国からのニイルの姿もあった。
同時に、リリーは学生時代の友人たちも招いて、お茶会なども幾度か催し、各国の交流と親睦の場を設けた。その中でニイルとの時間を共有することも多く、友人から恋人へとふたりの仲が進展したのである。
その後、結婚まで辿り着くには沢山の障害があったが無事に乗り越え、ふたりは結ばれることができた。
そして今日、リリーは結婚6年目にして3人目の子供を無事出産し終えたのである。
☆
「リリー!そろそろ起きてくれるかい?」
「お腹がすいたらしく泣き止まないんだ。僕ではお乳が出ないからね。乳母は明日から来てくれることになっているから、それまでゆっくり休ませることが出来なくてごめんよ」
ニイルは申し訳けなさそうな顔でリリーを起こし、名残惜しそうに腕の中にいた娘を母親に預けた。
リリーが娘に母乳を与えていると
「この子の名前を考えてあげなくてはね」
隣でニイルが、娘の手に人差し指を握らせながら微笑んでいる。それとは反対の手で娘の頭を軽く撫で始めると、娘の瞼が開いた。
「あっ!目を開けたわ!」
初めて見る娘の瞳の色に、ふたりは固まった。
「「······緑彩眼」」
何度も娘の瞳を覗き込んで確認する。
「エルフ族は、守護石の儀式を終えると緑彩眼になるみたいだけど、産まれたときからの子もいるんだね!」
「瞳の上の方はリリーと同じグリーンで、下は僕のブルーだね。グラデーションが綺麗な瞳だ!髪の色もリリーと同じシルバーグリーンだし、とてもキュートだ!」
······これは···超過保護になりそう
「······産まれたときから緑彩眼を持っていた話しは聞いたことがないわ」
「エルフは儀式で体内に守護石を取り込むことで石の魔力と属性が付与されるのよ。付与される······と言うか···本来持つべき力が赤ん坊には耐えられないから石になって一緒に産まれてくるの。体が成長したら、それを体内に戻すって感じね。つまり、儀式後に本来の身体になり、緑彩眼になる訳だから、この子は最初から······」
「なるほど。じゃぁ、この子は最初から魔力が多く属性も多種かも知れないってことか」
「たぶんそうだと思うわ。
まぁ~魔力が強ければ、保護魔法で抑えてあげればいいとして······あとは、3日後くらいに守護石がお臍からもげるから、それも楽しみね!」
「そのときは、僕が魔術式を練り込んだ防具を造るから···子供に魔法をかけ続けるのは止めてくれ!」
ニイルは顔をしかめて、「娘に魔法をかけ続けるなんて、あり得ないだろ」と言った。
しかし、魔力の底が見えないリリーには、あり得るのかも知れないと疑問にも思う。
「そうね。ではお願いするわ」
「話しが逸れてしまったけど、名前よね」
「産まれてからの初めてのプレゼントよ!
父親の初仕事!!」
「う~ん。···そうだなぁ~。
上の二人のときは男の子だったから······」
ニイルは右手を顎に添え、産まれたばかりの赤ん坊の名前を考えながら窓の外に目をやった。
部屋からみた外の景色には、庭園の色とりどりの花やハーブが咲き乱れていて、それらが日差しを浴びながらキラキラ輝いている。
そのとき、窓のカーテン越しから花たちの香りを乗せた柔らかな風が頬に伝った。
「優しい花の香りだね。
ハーブの香りと相成って、落ち着くなぁ」
リリーは優しく微笑みながら言う。
「この子には、みんなから愛される花のような
名前がいいわ」
人族の第二王子とエルフ族の女王の娘だ。
これから歩んで行く先が、優しい世界でありますように······ニイルはリリーに笑顔で答えた。
「よし。決めたよ!」
「この子の名前は、フェアローラ」
「フェアローラ。素敵な名前だわ」
本日、このあと続けて投稿します。
次から本編になります。