伝説の武器として渡されたのがえんぴつなんだが、これでどうしろと?
「おお、勇者よ。よくぞ参った。おぬしにはこれをやろう」
ある日突然、勇者として城に呼び出された俺は魔王討伐の命を下された。
旅に必要な物資は一式そろえてくれると言う。
まずは軍資金100ゴールド。
100日働いた給料分の金額だ。
次に鎧。
カラーリングが違うだけで、一般兵士が身に着けているものとほぼ変わらない。
「うむ、これで以上じゃな」
一人で納得するよぼよぼじじいの王様。
肝心なものが足りなさすぎる。
「いや……まってくれよ。
まだ武器をもらってないぞ」
「うむ……わしとしたことが、ぬかっておった」
じじいの王様はぽけっとから鉛筆をとりだした。
「ほい、これ」
手渡されたのは何の変哲もない六角形の鉛筆だった。
「え? なにこれ?」
「伝説の鉛筆じゃ。
適当に好きなダメージを書け。
戦う時に転がすのじゃ」
「え? 剣とかじゃないの?」
「このご時世、残酷描写は規制が厳しくてな。
今回はR15はNGなのでそれで戦ってくれ」
「は?」
剣の代わりに手渡された鉛筆だったが、どうやらこれで戦うシステムらしい。
仕方なく俺は言われた通り、鉛筆の各面にダメージを書いた。
『致命的なダメージ。敵は即死する』
全ての面にそう書いた俺は、さっそく雑魚モンスターと戦うことにした。
「きえええええええええええええ!」
「敵だな! くらえ! コロコロ」
「ぎゃああああああああああ!」
襲ってきた敵は爆発四散。
R18指定相当のグロ描写全開な死に方をする。
「やべぇ……これ最強じゃねーか」
俺は最強の兵器と化した鉛筆を握りしめる。
これがあれば魔王だって楽勝だ。
こうして俺は最強の武器を手に入れ、三日で魔王を倒した。
さっさと故郷の城へ帰還する。
「ありがとう、王様。
このえんぴつ最強だったぜ」
「うむ、ではそのえんぴつを返してもらおう」
俺は王様に鉛筆を返し――
「あっ」
「あっ」
渡そうとしたところで、えんぴつを落としてしまった。
ころころ。
「ということがあってな」
同じ牢屋に入れられたよぼよぼのジジイは昔話を終え、満足そうにしていた。
「じいさん、大変だったんだな」
「ああ……即死だなんて小学生みたいなことは書かず、
ひん死とかにしておけばよかったわい。
最後の一撃くらい自分でやらなければ戦ったことにならんのじゃ」
確かに、じじいの言う通り。
ちょっとくらいは自分の力を使うべきだ。
強力すぎる力に頼ったところで幸せにはなれないのかもしれない。