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第8話 貴族の娘になった傭兵、傭兵になった娘から提案される

 アイラの話を聞き、ピタッと動きを止めたリラ。

 まるで、アイラの言葉から何かを感じ取ったかのように。

 リラの周りだけ時が止まってしまったかのような雰囲気だ。

 アイラは首を傾げつつリラに聞いた。


「どうされましたか?」

「……今なんとおっしゃいましたか?」

「えっと、『どうされましたか?』と」

「違います。その前です」

「え?」


 アイラは顎に手をやりながら、


「『もしできなかったら入れ替わったままの生活になります』と――」

「そう! それですよ!」


 アイラの発言に急に明るくなるリラ。その突然の変化にギバとアイラは戸惑った表情を浮かべた。

 事件について何か思い出したのだろうか。


「何か思い出したのか?」


 ギバがそう聞くと、リラは首を横に振り否定する。が、その表情はどこか嬉しいそうだ。


「いえ。そういうわけではありません。ですが、アイラ様の発言で妙案を思いつきました」

「……何?」


 なんとなく嫌な予感がする。

 恐る恐るギバはリラに聞くと、リラは晴れやかな顔で口を開く。


「ギバ様がわたしになれば良いんですよ!」

「……………………どういうことだ?」

「あぁ。そういう……ふっ」


 リラに聞き返すが、ギバにはその真意がなんとなく理解していた。

 アイラもわかっているようだ。

 その様子を想像して、笑いそうになるのを反射的に手で抑えて堪えている。


「つまりですよ」


とリラは得意げな顔をして、人差し指を上げると、


「ギバ様がわたしに成りすまして、わたしの家へ行くんです!

 そして事件解決までわたしの家で生活をする。

 上手くいけば、解決までバレることはないし、お父様、お母様に心配をかけることはなくなります!」

「…………」

「我ながら良い考えとは思いませんか?

 これなら、ギバ様が何をするでもなく元に戻れますし!」


 リラの輝く眼を前にギバは顔を顰める。

 そして、助けを求めるようにアイラを見たが、彼女は口元を抑えて見えないようにして肩を震わせていた。

 その様子を見て、自分でなんとかするしかないか、とギバはため息を吐くと


「盗賊団のアジトを探すのは、この辺の土地勘がないと難しい。君も早く解決するに越したことがないだろう?」

「それはそうですけど、ギバ様? アジトを探しても解決できるとは限らないでしょう?」


 ……痛いところを突かれてしまった。


「あのお方がバナナ盗賊団の方ではないかもしれませんし、あのお方のせいでわたし達が入れ替わってしまったとも限りません」

「…………」

「その可能性が最も高いのはわかりますが、もし違えば、事件はもっと長引くのでしょう?」


(やはり賢いな……)


 リラの言い分は尤もだ。

 アイラやギバが提案してきている方法は、ただ解決する確率が最も高い、というだけ。

 もし違っていれば、更に時間を要することになるのも事実。

 リラはその分帰れなくなるし、リラの両親にも余分に心配を掛けるだろう。


 だが。


 その懸念のために、自分が貴族の娘の振りをしなくてはならないのは、気が引ける。

 そう思って、どう説得しようかと考えていると、


「それも一理ありますね」


 アイラが顎に手を当てて、そう呟いた。

 さっきまでの笑いを堪えていた姿とは一転して、至って真面目な顔だ。


「……どういうことだ?」

「いえ。もしかしたら、ですけど、ギバさんが捜査に協力してくれるよりもリラ様の案に乗った方が良いかもしれないと」

「理由を話してくれ」

「はい。まずおさらいですが、今回の主犯はバナナ盗賊団で、彼らは普段、魔道具を主なターゲットにしています

 しかし今回のターゲットはリラ・ブラウンという貴族の娘。

 ギバさんに依頼する時はあまり議論しませんでしたが、明らかにおかしくないですか?」


 考えてみれば確かにそう。今回の事件は不可解な点が残る。

 彼らバナナ盗賊団は、今回、普段ターゲットとしない人間を誘拐していた。

 魔道具を盗めないほど金に困って誘拐したのだろうか。いや、それにしては魔道具よりもリスクがあるし、犯行声明もなかった。

 誘拐をするなら、貴族に身代金を要求した方が莫大な金が手にはいるはずなのに。

 じゃあ別の目的があったということか? だったら――。


「アイラ君が言いたいのは、この事件は終わっていない、ということか?」


 アイラは黙って頷いた。その肯定にギバは短く息を吐いた。


「ど、どういうことでしょうか?」


 多くを語らないギバ達のやり取りに不穏な空気を感じたのか。

 だが、そのやり取りで行間を掴み切れなかったようだ。

 説明を求めるようにリラはギバとアイラに聞いた。

 アイラはリラの方を見ると、少し緊張感のある視線を向ける。


「つまり……あぁ……非常に言いづらいのですが、リラ様はもう一度誘拐される可能性がある……ということです」

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