第80話 少女の考え(中編)
これを思いついたのはつい先ほど。
魔力豊富なハレーをどうにかしないと助けられない。
そう話す三人の話を聞いていた時、懐に入っているあれが熱くなった気がした。
こっそり観て反応を示している。
そうわかった時にこの性質を思い出し、閃いた。
本当のところ、うまくいくかわからない。
もしかしたら、と考えただけで反射的に手を上げてしまった。
こんな一瞬の単なる思いつきをここで話してみてもいいものか。
幼い自分の生意気な意見を聞いてくれるのか。
不安な気持ちでいっぱいだ。
心臓の鼓動はドクドクと速くなるし、頬も熱い。
出した声も震えていただろう。
三人の顔が見るのが怖くて、大人たちの顔を見上げることも出来なかった。
だけれど。
「オーケー。リラちゃん、話してみて」
ヒナタが優しくそう言うのを聞いて、ハッと見上げた。
三人とも真剣な表情。だけど目は優しく温かった。
――あぁそうだった。
この人達はこういう人達だった。
自分が何を言っても真剣に受け止めてくれる。
もうハレー内部の空気が無くなるのも時間の問題。
ダメで元々。言ってみるしかない。
「あの。これ、使えないでしょうか?」
そう言って出したのは、『交換の魔道具』。
ギバとリラが入れ替わった原因だ。
「これでハレーの魔力を吸収するんです」
「吸収ですか? ですが、リラ様。これは確か交換ではなかったでしょうか?」
眉を顰め難しい表情を見せるアイラにリラは頷いた。
「はい。ですがつい先ほどギバ様と入れ替わった時に確信しました。
片方の魔力が空っぽの時もう片方の魔力を移すことができるんです」
「「「!?」」」
リラの言葉を聞き、アイラ達は目を丸くする。
「交換とは言いますが、交換する量は等しくないようです」
リラとギバが入れ替わった時、ギバの身体には魔力がほとんどなかった。
リラの身体は魔力が回復し1割ほどの魔力があったため、『交換の魔道具』によって精神の交換と同時にリラの身体の魔力がギバの身体に移された。
その結果、ギバの魔力は回復し、魔力欠乏を引き起こしたリラの身体は意識を失った。
魔力の交換は貯蔵する全て。
大量にあるならば、その全てがもう片方に移される。
「今、わたしの身体の魔力はほとんどありません。
この魔道具を使えば、おそらくハレーの魔力をわたしに移すことができると思います。
わたしの身体でどのくらい取れるかわかりませんが、少しはハレーの勢いを弱めることができるかと」
とはいえ、ハレーにはリラ九日分の魔力が貯蔵されているはずだ。
一日分の魔力を移したところでハレーがどのくらい弱らせられるか、ある種の賭けだ。
今、ハレーは起動中だし、刻一刻とハレー内部の魔力は失われているはずだから期待はできる。
「いかがでしょうか?」
三人は沈黙する。
リラの提案に対して三者三様に考えているようだ。
「いいんじゃねぇか?」
一番初めに沈黙を破ったのワクだった。
「今の状態じゃどのみち何もできねぇんだ。少しでも弱らせられるならそれに越したことはねぇ」
「えぇ。私もそう思います」
アイラもワクの意見に同意していた。
「ギバさんを助け出すためにハレーはやはり厄介です。範囲が少しでも抑えられるか、もしくは勢いがなくなればギバさんを救出時間を得られるかと」
「リラちゃんの安全は俺らが確保すれば良いしな。試してみる価値はある」
「本当ですか?」
リラは安堵の声を漏らす。
自分の提案が認められたことに胸が高鳴った。
あとは魔道具の専門家であるヒナタがゴーサイン出しさえすれば――。
「僕は反対だ」
意外にも彼女は首を横に振った。
その言葉に一気にリラの顔が青ざめる。
「ど、どうしてですか?」
「理由は二つ」
ヒナタの指が一本上がった。
「一つ目はリラちゃんが魔力を吸収できたとしてもハレーの勢いはそんなに弱くならないということ。
ハレーはリラちゃん九日分の魔力が込められているんだ。いくら今、消費中だからと言ってハレーの勢いが一気に落ちることはない。
せいぜい少し膜が小さくなるくらいだね」
まぁこれは解決案があるけど、とヒナタはこっそり付け加えるが、説明はしない。
すぐに二本目が上がった。
「二つ目。これが問題だ。たぶんリラちゃんも気付いているんじゃない?」
その言葉に心臓の鼓動が嫌に高鳴る。
図星だった。
敢えてリラは口には出さなかった。
これを言ってしまえばワクとアイラにも反対されてしまうから。
「どういうこと?」
アイラはゴクリと唾を呑んだ。
それにヒナタは、うん、と頷くと、夜空を指差した。
「今日が新月だからさ」
「…………」
ヒナタの理由にリラはふぅと息を吐いた。
「やはり気付いていましたか」
「まぁね。これでも魔道具に関してはちょっとは詳しいんだ」
「ちょっとって……。アストロをお読みになったんですね」
「そう。リラちゃんにあんなにヒントを貰ったんだ。それに時間だってあった。
それだけあれば仮説くらいは立てられるよ。実際に戻っていたしね」
「さすがです」
そうやって二人の世界に入っていると、
「ねぇどういうこと?」
「おい、二人で話してないでくれ! いったいどういうことだ?」
専門外の人達が割って入ってきた。
ワクとアイラは困惑の表情を浮かべていて、それを見てヒナタは笑みを浮かべた。
だがその笑みは悲しげにも見えるしどこか憤慨もしていた。
それは全て自分に対して、だとリラは理解する。
ヒナタは少しため息を吐くと、重い口を開いた。
「今夜『交換の魔道具』を使うと、リラちゃんの精神はハレーに閉じ込められるかもしれない」




