第75話 元騎士団長の傭兵、最期の指導
数分前。
「待ってください!」
リラがそう叫ぶ声にギバは後ろを振り向いた。
何か閃いたように目を大きく見開き、高鳴る鼓動を抑えるように胸に手を置いていた。
その様子にただならぬ予感を感じる。
「どうした?」
「アストロです!」
「?」
しかしリラの答えは不明瞭。
……いや。そうじゃない。
リラが『アストロ』と言うということはあれ関連しかない。
「何かわかったのか?」
「はい」
リラは大きく頷き、自分の内ポケットからある物を取り出した。
「これは」
久しぶりに見た気がする。自分達が入れ替わった原因とされる魔道具だ。
確かヒナタに預けていたはずだが。
「『交換の魔道具』です。ヒナタ様によると魔力を交換するそうです」
「そうか……」
リラの説明を聞き、ギバはやや落ち込む。
交換は交換でも精神、もしくは魂ではなかったからだ。
原因はこれではなかったか、と諦めかけたところで、
「ですが、ある条件の元、魔力の交換じゃなく精神の交換が行われる」
「!!」
「条件はわかりませんでしたが、試したいことがあります。
成功するかわかりませんが……」
「なんだ?」
ギバはリラに説明を促す。
元に戻るための実験。
もしかしたら失敗するかもしれないし、最悪、悪化するかもしれない。
しかし魔道具に詳しいリラがそう言うのだ。
試す価値はある。
リラはギバに魔道具を渡す。
「これに魔力を」
ギバは言われたように魔力を込める。
今まで魔力を込めても反応を示さなかった。
しかし今は違う。
込めた魔力を放出するように深緑の光が噴き出てきた。
「『アストロと新月の兄妹』」
リラはそう呟く。
「それぞれ家を持っている兄妹が新月になると、何故か家を交換してしまうお話です」
緑の光はギバとリラを取り囲む。
「このお話はこの魔道具がモチーフだと思います。
つまり家が身体。兄妹は精神。実際にはこの魔道具で家ではなく身体を入れ替えていたんです」
リラとギバの影は伸び、互いに交差する。
「家を交換する時に兄妹は食べ物やお菓子を持っていきます。それはすなわち魔力」
魔力が引っ張られる感覚を得る。
「兄妹は新月の時しか交換しません。それは新月でないと魔道具が発動しないから。
そして今日は新月です」
精神も引っ張られる。
「試みは成功のようです。
魔力も交換されますから空っぽだったギバ様の身体の魔力は回復するはず」
次第に眠気が来る。精神が抜け出ていくのだろう。
「ギバ様。最後の約束です。無茶はしないでください」
「感謝する。リラ」
最後の言葉を聞きギバがそう言い終わると、周囲が暗転した。
★★★
そして現在。
「無事……ではないな」
「まったく……遅いですよ、ギバさん」
「……すまない」
「冗談です」
アイラの軽口に真剣に受け止めるギバ。
アイラが「ふっ」と少し吹き出すのが聞こえたが、気にしない?
「持ち堪えられそうか?」
「ご安心を」
「そうか」
「では――すぐに終わらせる」
ギバは大剣を構えてシュントを睨みつけた。
だがシュントは唖然とした様子でこちらを見ていた。
「どうした?」
「ギバ……団長?」
まるで幽霊を見たかのような反応だ。
しかし次第に口角を釣り上げると、
「戻ったんですね」
と何故か嬉しそうな反応を示す。
訝し気に眉を顰めるが、ギバは頷く。
「彼女のおかげだ。今日は新月だからな」
「あぁ……そこまで気付きましたか。さすがですね」
「無駄話はここまでだ」
ギバはそう話を打ち切ると、何故かシュントの目尻がピクッと動いた。
しかし、すぐに
「えぇ……そうですね」
と間合いを取り、左に剣を、右に起動した光線剣を持ち二刀流の構えをした。
「今のギバ団長と話していても意味はないですからね」
「そうだな。交わすのは剣のみで良い」
眉間に皺が深くなりギバは大剣を握り直す。
「君に最後の指導をしよう」
両者はほぼ同時に地を蹴った。




