第74話 第一師団長VS元同僚
金属音が鳴り響く。
ぶつかる度に火花が舞う。鉄の破片が飛び散る。
脆くなった剣に負担をかけないように力を受け流すが、それでも削り取られる。
(もう少し持ちこたえて!)
アイラは頼むように剣を握りしめる。
目を大きく見開き口角を不気味に上げる元同僚。
殺意を隠さず、むしろ肥大化したそれを剣に込めて攻めを繰り返していた。
「どうしたんすか! 守るだけか! さすがのアイラさんも同僚は刺せないですか!?」
煽るようなシュントの言葉に「そんなわけはないだろ」と言い返そうになるが我慢する。
冷静さを欠いてはシュントの思うつぼだ。
身体は傷だらけ。剣はボロボロ。これでは強引に攻勢に出ても、倒し切るまではいかない。
チャンスを待つんだ。
ギバは言っていたんだ。『しばらく頼む』と。
つまりギバは戻ってくる意思がある!
(ギバさんならきっとチャンスを作るはず)
それまで持ちこたえれば、我々の勝利は決まったようなものだ。
「雑念がありますよ!」
アイラの考えを見透かすようにシュントは叫ぶ。
同時に剣戟の嵐が止み、隙が生まれる。
「そこだ!」
その瞬間を見逃さずにシュントは大きく振りかぶった一撃を放つ。
(しまった!)
思わず剣で防いでしまった。
騎士団の剣は良質。ちょっとやそっとじゃ折れはしない。
だが、アイラの剣は先の連撃で疲労し、更にシュントも騎士団時代の剣だ。
同じ質の剣がぶつかり合えば、当然、壊れるのは脆い方。
刃が粉々に砕け散り、故に止める物がない切っ先は慣性に従いそのままアイラの肩へ。
血が飛散する。
「ぐっ……」
肩から入ったそれは斜めに。
反射的に後ろに下がったのが功を奏し致命傷までにはならなかったが、薄皮よりも深く肉を抉られ、腹から外にそれが出た時には土まみれの地面に紅い雨が降り注いだ。
アイラの剣は柄しかなくなり完全に使い物にならなくなり、アイラ自身も。
痛みで立つことすらできず跪いた。
「あ~あ……」
興が覚めたように目の前の人物はため息を吐く。
「もう終わりですか」
痛みに堪えながらシュントの顔を見ると、見下したような目と合った。
「完膚なきまでに痛めつけてくれるんじゃあなかったのでは?」
「…………」
アイラはシュントを睨みつけ、跪く前に瞬間的に取り出したあの魔道具を投げつける。
だが。
「その手はもう効きませんよ」
シュントはそれを剣で思いっきり弾く。
発動時間が掛かるそれは天上へ。
そして最高点に達すると空が眩く閃光した。
「……こんなに離しても眩しくてうるさいんですね」
眩しそうに腕でガードしてその閃光を観察するシュント。
「こんな非常識な魔道具、作ったのヒナタちゃんでしょ?」
「よくわかったわね……」
「僕も六年前まで騎士団にいましたし、彼女の名前は隣国でも有名ですよ。
曰く騎士団にいるのが勿体ない逸材だと」
「伝えたらさぞ大喜びでしょうね」
「いやいや。ヒナタちゃんですよ? きっとおちゃらけるに決まってるでしょ?」
「あれでも本心では喜ぶのよ。いつまでも思い出したようににやにやするのが目に浮かぶわ」
「そうですか。全然想像つかないですが」
「いつもいじられていたからね。シュントは」
「えぇ。僕のやることなすこと馬鹿にしてきて……大変でしたよ」
「気に入っていたのよ。ギバさんにもあの態度なんだから」
「へぇ……ギバ団長と一緒とは。それは光栄ですね」
「まったくよ。ヒナタに気に入られる人なんてそうそういないんだから」
「まぁ今更それを知ったところでもう遅いんですがね……終わりにしましょう」
シュントは掌から魔道具らしきものを取り出すと、
「『光線剣の魔道具』!」
その魔道具に向かってそう叫んだ。
すると、すぐにその魔道具に吸い付くように『光線剣の魔道具』が来る。
「これ、『呼び寄せの魔道具』です。便利でしょ?」
呼ぶと一定範囲内にある対象が吸い付く魔道具。どうやら天然の魔道具らしい。
それによって距離を置いたはずの『閃光の魔道具』がまたシュントの手元に来てしまった。
破壊しておけばよかった、とアイラは後悔するがもう遅い。
シュントは『呼び寄せの魔道具』を身体に収納すると、光線剣を発動する。
また紅の殺意の塊が具現化する。
「もっと別の機会で話したかったですよ」
「貴方が罪を犯さなければいつでも話を聞いたよ」
それを聞くと、シュントは騎士団にいた頃のような屈託のない笑みを浮かべると、光線剣を振り上げる。
「…………さようなら、アイラさん」
振り下ろす――。
「――――!!」
瞬間。何かにぶつかり軌道がズレた。
アイラではなく横側の地面、そしてその延長にある大きな木が真っ二つに割れた。
目の前の光景にアイラは目を見開き――そして笑みを浮かべた。
黒の鎧、無骨な大剣。オールバックにした黒髪。
きっと眉間に皺が寄っているだろう。
久しぶりに見た背中はかつてのように頼もしく涙がうっすらと滲み出た。
「待たせたな、アイラくん」




