表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【コミカライズ配信中!】少女⇔傭兵の成り代わり  作者: 久芳 流
4章 過去と後悔の行進

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

74/93

第73話 傭兵の姿をする貴族の娘、傭兵に謝罪される

「よっと!」


 ドサッという音を響かせて、ワクは二つの荷物を地面に下ろす。

 一つは軽く、一つは重い。


 ワクは肩を回すと、壁に寄りかかる。


「いてて……」


とワクが呟くと、


「すまないな」


 すぐに軽い方の荷物がお礼の意味を込めて謝罪した。


「なーに。気にするな。ギバさんの頼みだ」

「尤も私を連れ出す必要はなかったのだが」

「へっ。何を言いやがる」


 ワクは笑うように息を吐くと、未だ両手をついてペタンと座り込んでいる重い方の荷物を指差した。


「嬢ちゃんと話したいんだろ?」


 その言葉にギバは眉を上げ、すぐに鼻で笑った。


「あなたには敵わないですね」

「お前さんよりは長く生きてるからな」


 冗談めかすようにワクはそう言うと、すぐに壁から離れ、


「じゃあ俺は少し休んでるわ」


と手を振りつつ、奥へと進んだ。

 それを見届けると、ギバはリラの方を向いた。


「……無事か?」


 父親のことでシュントに責任を押し付けられたのだ。

 身体はそうでも、気持ちの方は大丈夫なわけはない。

 それでもなんと声をかけたらいいかわからない不器用な人だ。

 話のきっかけとしてそう声をかけざるを得なかったのだろう。


「そう……ですね」


 リラはぽつりと返事をした。


「身体の方は」

「そうか……」

「はい」

「…………」

「…………」

「すまなかった」


 しばらくの沈黙の後、躊躇するようにギバは口を開いて、頭を下げた。

 突然の謝罪にリラは驚き、ゆっくりギバの方を向いた。


「何がでしょう?」

「……シュントくんと君との会話で初めて知った。

 君の父親は……」

「…………」

「私が囮としてブラウン家に行かなければ、こうならなかったかもしれない」

「いえ。ギバ様のせいではありません……それにギバ様をわたしのお家へ行かせたのはわたし自身ですし、そうでなくてもわたしが……」


 リラはそこで言葉が詰まる。

 詰まりを出すように少し息を吐き、もう一度、息を吸うと、


「わたしが殺したようなものです」


 シュントは言っていた。

 自分のせいだと。リラ・ブラウンが星や魔道具に興味を持ちさえしなければ、アストロを好きになりさえしなければ、フォードは殺されなかった。

 ギバがいなくとも、彼はフォードを裁いたのだ。


「いや」


 だが、ギバは首を横に振る。


「シュントくんがああならなければブラウン卿が死ぬことはなかった」

「それはそうですけど……」

「そして彼が歪んでしまったのは私のせいでもある」

「……ッ!」


 それは違う、と言おうとしてリラは目を見開く。

 以前にも見たことがある。

 確かギバが誘拐される直前に口論になった時だ。

 その時と同じ表情をしていた。

 眉間に皺が寄るのはいつものこと。だがその目は歪み涙が滲んでいた。


「六年前、何もかも間違えた。

 未来で正しくあろうと目先のことを無視した。

 そのしわ寄せをシュントくん、そして君にも押し付けてしまった」


 ギバは「ダメだな……この身体は感情が高ぶるとすぐに()()が出る」と呟きつつ目を拭う。

 それから「ふぅー」と深く呼吸をすると、


「六年前のケジメをつける時が来たみたいだ。

 騎士団長を辞任しても清算できなかった責任を取る時が」


 ギバは真っ直ぐにリラの目を見た。

 その瞳には覚悟があった。

 何かを決めたような強い意志を感じられた。


「今しばらくこの身体を貸してくれ。必ずシュントくんを捕らえケジメをつける」

「……どうするつもりなんですか?」

「アイラくんが今、シュントくんと戦っている」


 金属音が外から響き渡る。アイラとシュントの剣が交わった音だ。


「だがアイラくんの剣はボロボロ。いずれ剣が破壊され、苦戦を強いられるだろう」


 屋敷の外では激しい闘いが繰り広げられているが、しかしその音は徐々に変わっていく。

 脆くなった剣の破片が飛び散っているのだ。


「その前に奇襲をかける」


 ギバはそう言うと、「気休めだが」と地面に落ちていた石を拾う。


「でもギバ様ももう身体が……」


 地下牢で見つけた時、ギバはぐったりと横たわっていた。

 ハレーに魔力を吸い続けられ、身体にも不調をきたしているはずだ。

 そんな身体であの激しい戦闘の只中に入っても、シュントの剣の餌食になりそうだ。

 だが、


「いや」


とギバは否定した。


「幸い君の身体は魔力が大きいが故に回復も常人より速いようだ」


 ギバは自分の調子を確かめるように手を握ったり開いたりする。


「まだ1割ほどだが、それでも大剣を持ち上げるくらいには回復している」


 リラは自分とシュントが対峙している時に大剣を投げていたギバを思い出す。

 確かに直前まで魔力がゼロに近い状態だったのに、大剣を投げられたということはそれくらい回復しているということだ。


「アイラくんをサポートするくらいはできるはずだ」

「そうですか……」

「あぁ。自分の身体なら気を遣わなくてもいいが時間がない。

 そろそろアイラくんも苦しくなっている頃だろう。

 戻る方法もまだわからないからな。

 だから君の身体を危険に晒すことを許してほしい」


 真剣な表情をするギバを前にリラは考えるように下を向く。

 そしてやがて前を向くと、


「……わかりました」


と真剣な目で頷いた。

 ギバはその目を見ると、頭を下げ、


「感謝する。

 幸い今夜は新月。父親を殺し君を傷つけた男に一矢報いることを約束する」


 そう言い、外に向かおうとする――、


(……あれ?)


 ところで、彼の発言に違和感を覚えた。

 何かが引っ掛かる。

 一体、何が?


 思考が目まぐるしく回転する。

 全てがゆっくりとなっていく。

 何かを得ようと数々の思い出が蘇る。

 鼓動が早くなり、胸が熱くなる。

 そして最後に。


『思いついた説はとことん検証・検討するといい。要因、条件、そしてその説に至った過程。そこにヒントがあるはずだ』


 あの変わり者の研究者の言葉が反芻した瞬間、


「待ってください!」


 屋敷と外の境に立ったギバを呼び止めるリラの声が響いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ