第69話 傭兵の姿をする貴族の娘、黒髪の青年と戦闘する
シュントが地面を蹴った瞬間、リラもまた前へ走った。
ちょうど中間地点で剣がぶつかり合う。
リラが持つ大剣はアイラの剣よりも質は良くない。
だがなまくらというわけでもなく、刃がない代わりに重く硬いため、光線剣で切れることはなかった。
刃がない故に多少、焼かれたり削られたりしても問題ない。
切るのではなく叩くのがこの大剣の正しい使い方だ。
ただずっと受けているとさすがに少しずつ削られていくからリラの身体は弾く動作をしていた。
シュントもそれを理解しているのかなるべく弾かれないようにぶつかるたびに押すような力を入れているのがわかった。
大剣を削り落とそうとしているのだ。
大剣の破片と光線剣の粒子が辺りに散らばり、激しい火花が散った。
何回か撃ち合うがやはりこの身体はすごい。
動くためには、剣を握るためには、剣を振るためには、数々の動作や思いを頭で巡らせなくてはいけないが、この身体はひとつ考えるだけで実行する。
戦うのが素人のリラが考えていることなど
(あ、こちらに剣が! あちらにも剣が! あぁ、振り下ろしてきます! 横から来ます!)
と言った下手な実況よりも陳腐なただの感想だ。
だが、それでもこの身体は良く動く。
ギバが今まで鍛錬してきたおかげだろう。
「すごい! すごいぞ! リラ・ブラウン! こんなに戦えるとはな! 誤算だった!」
口角を吊り上げ歯を見せて、愉快げに話すシュント。
それに応対する余裕は今のところリラにはない。
「ギバ団長の身体だからでもあるんだろう? 戦い方がまさに団長だ! 中身が違ってもまた戦えるとはな!」
戦闘中、そうやってずっと楽しげに口を開く。
ただ防ぎ弾くだけだが、見ている人にとっては動き方がギバそのもの。
どうすれば効果的に防げるのか。ギバの身体はそれが染みついているらしい。
力は拮抗しているかに見えた。
「だが、やはり中身が違う! 身体の動きがぎこちない!」
だが、その拮抗は少しずつ破られていく。
シュントの剣捌きのスピードが徐々に増していく。
いや、違う。
リラの身体の動きが鈍くなってきたのだ。
理由は二つ。
精神で考えていることと身体の実際の動きがやはり合っていないから。
そして、魔力が徐々に枯渇してきたから。
身体に魔力を張り巡らせ続ければ、すぐになくなるのはわかっていた。
魔力コントロールをすべきなことはわかっていた。
だが、命を奪い合うような戦闘が初めてなリラだ。
いつどのタイミングで魔力を増減させたらいいかわからず、加えて殺されないように必死すぎて常に最大限の魔力を込めていた。
当然、長くは持たない。
「あ……」
リラは軽く悲鳴を上げた。
大剣を掴む握力がなくなり、光線剣によって弾かれた。
宙を待った大剣はやがてテントの中で突き刺さる。
武器を失ったリラは立つ体力もなくなり、その場で跪いた。
「……こんなもんか」
興が冷めたようにシュントは言う。
辛うじて頭を上げると、シュントの目には軽蔑の感情が見えた。
「所詮、ただの少女。少しは期待したけど、あんたじやダメだな。誰も助けられないじゃないか」
そう言われて、リラは悔しそうに下唇を噛み締める。
「あんたが出しゃばったせいで、ギバ団長達は苦しみの時間が増しただけ。しかもあんたは護衛対象なんだろ? それがこんな前線まで来て……護衛よりも早く死ぬ。
それがどんなことかわかるか?」
「…………」
「職務を全うできなかったってことだよ」
シュントは顔を歪めてそう叫ぶ。
「ギバ団長やアイラさんにとっては二度目だ。六年前と同じだ。
辛いだろうな。また後悔が生まれるな。今度こそは護ろうとしていたのに」
顔を手で覆い隠して大袈裟に、演技臭く、道化のように言い放つ。
「結局あんたは最後まで役立たずだったな。最後まで助けられなかった。
今回にしても、あんたの父親にしても」
「…………!!」
その言葉を聞いて、リラの身体はまた動く。
今度は自分の意思だった。
震える身体に鞭打って立ち上がる。それと同時に平手をシュントに浴びせようとして……。
――バキッ!
鈍い音が自分の頬から鳴った。そして倒れる。
頬の痛みが徐々に増し、自分が殴られたのだとようやく気がついた。
だけれど、それで怯んでいる場合じゃない。
「どうして……」
「うん?」
少し腕に力を入れて起き上がり、シュントを睨みつける。
「どうしてお父様を殺したんですか……?」
「あぁ……」
シュントは興味がなさそうに生返事。
リラにとっては大切な、重要な話だ。
だけど彼にとってはもはやどうでもいいことなのか。
それだけでも彼に対して怒りが増してくる。
だが、シュントはそのリラの様子を気にしない。
当たり前かのようにこう言った。
「正義のためだ」




