第67話 黒髪の青年は狂気する(後編)
「ありゃ剣じゃねぇ。
確かに切れ味は抜群だ。
紅い線をあんたらも見ただろ? あれが過ぎた途端、色んなものが真っ二つだ。テントはもちろん、木や岩、なまくらな剣もだ。
けどありゃ斬ったというよりは焼いたってのが正しい。
断面が全て焦げていたからな。あんなの人間相手に振ったらタダじゃすまねぇ。
あんなのを剣って言うと、他の剣が可哀想だ。
反則も反則。
じゃあ何か、だって? そんなの決まってる。
あれは殺戮兵器だ。」
後に語ったワクの言葉だ。
★★★
ギバ達がいたテントは一瞬にして上部が吹き飛んだ。
紅い光線が宙に伸び、通った軌道上にあるものは全て真っ二つになった。
テントに森の中の木、岩、屋敷の壁、そして人間すらも。
不意打ちを食らったテント外にいた者たちはその攻撃になす術もなく。
騎士団や自警団、盗賊団のメンバーすらも無差別にその光は焼き切った。
運良く範囲外にいた人物は叫び声すらも上げれず、その無惨な光景に立ち尽くした。
そしてテント内では。
「グッ……」
「アイラ様!」
膝から崩れ落ちるアイラを見て、リラは声を上げる。
アイラの顔や身体に切り傷や火傷の跡があり、身につけた鎧もボロボロで焦げ跡もついていた。
そして何より地面に突き刺された剣。
騎士団から支給された良質な剣でもあり、ブラウン家の門も斬っても刃こぼれ一つなかったアイラの剣は、折れてはいないとは言え、もはや使い物にならなくなっていた。
「……さすがですね。アイラさん」
シュントが言った。
手には魔道具があり、握り拳の隙間からはみ出てくる一本の紅い光が先程の残酷な光景を思い出させる。
長さはアイラが持っていた長剣程。
待機状態なのか、この長さが通常状態なのか。
細長く、かつ高温高密度の状態で発動を維持していた。
「僕がこれを発動した瞬間に僕と彼らの前に立ち、振った全てを防いだ。アイラさんの剣の腕とその剣の質は知っているつもりでしたが、まさかこのテントの中の誰も死なせないとは……」
シュントが魔道具を発動した瞬間、アイラは彼によって傷付けられ動けないワクを押し退け、間に入った。
剣は既に抜いていた。
発動を確認。紅い一本の光線が猛威を振るうと確信する。
自分達を一掃、真っ二つにしようとシュントは横薙ぎ。
アイラはそれに反応して、魔道具から出る紅い光を防いだ。
それからシュントの猛攻は続くが、全て自身の剣で去なす。
超至近距離から来る死に対して、自分自身もかすり傷や鎧が燃え切り、剣も使いものにならなくなるのがわかりながらも、アイラは後ろにいた三人を守りきった。
「でもそのせいで外の者たちに被害が出てしまいましたね」
シュントは外の様子を眺めて笑みを浮かべてアイラを見た。
アイラもそれを聞き、歯軋り立てるが
「ふざけるな」
と一蹴する。
「あなた、さっき『皆殺しだ』って言ってたじゃない。全員、殺すつもりで振ってたんでしょうが」
確かに三人を護るのに精一杯だったが、それ以前にシュントが振る軌道は全て、外にいる人物も対象にしていた。
そうでなければ、あの時振った光線の長さと無差別のような無茶苦茶な剣捌きに説明がつかない。
「はは……ご名答」
シュントは口角を歪ませた。
「この魔道具すごいでしょう。
超高エネルギーの粒子を束で放出した強力な剣状の光線。
大きさも長さも自在に変えられるんです。
威力は見ての通り。全てを燃やし切り、真っ二つにする。
云うならば『光線剣の魔道具』でしょうか?
持ちにくいのが難点ですが、それを差し引いても強力な魔道具です」
そんな強力な魔道具を見て、後ろにいたリラが息を呑む音が聞こえた。
魔道具に詳しいリラだ。その威力や脅威、危険性などを一瞬にして理解したのだろう。
いや、詳しくなくとも先ほどの威力を見ればわかる。
「まぁアイラさんの剣が折れなかったのは誤算でしたが」
逆にこっちは幸いだった。
剣が折れずに受け止められた。おそらく質の悪い剣だったらこうはいかなかっただろう。
実際に外にいる自警団達の剣は真っ二つに折れていた。
騎士団に属していて良かった、とアイラは初めて感謝した。
「だけどアイラさん。これで貴女は動けないんでしょう?」
「…………グッ」
シュントの言う通りだった。
もはやアイラには動く体力が残されていない。
シュントの光線剣による攻撃のせいだ。
剣で受け止めたと言え、そのせいで火花なのか粒子なのか、そういう物質が飛び交いアイラの身体を傷付けた。
そのダメージは少しのはずなのに身体が痛みで動けなくなっていた。
それに加えて剣だ。
アイラの剣はもはやボロボロ。あと一太刀でも受ければ折れてしまう。
肯定も否定もせず、ただシュントを睨みつけるが、もう彼にはバレているだろう。
「どうやら図星のようだね」
いや、バレていた。
口角を不気味に歪ませて、シュントは魔道具を握りしめた。
光線剣の魔道具はより一層明るくなった。
「アイラさん、じゃあね」
シュントは大きく魔道具を上に、そしてアイラの頭目掛けて振り下ろした。
――ところで。
頭上から光線剣と何かがぶつかる音が聞こえた。
死んだと思ったがまだ死んではいない。
上を見上げると、光線剣から守るように大剣がアイラの頭上にあった。
その剣を持っているのは一人しかいない。
「リラ・ブラウン!!」
シュントが怒りのままにそう叫んだ。
「またあんたが邪魔をするのか!!」




