第66話 黒髪の青年は狂気する(前編)
「なんでだ……?」
シュントの口からそういう言葉が漏れた。
それに反応し、ワクが睨みつける。
「何か言ったか?」
「なんでなんだ!?」
憎しみの篭った目でギバを睨みつけて、シュントは叫んだ。
「なんで! なんでなんでなんでなんで!!??
あの時は来てくれさえしなかったのに! 協力なんてしなかったのに!!」
六年前の事件のことを言っているのだろう。
騎士団はギリギリまで行くことはなかった。自警団は依頼が握りつぶされ協力できなかった。
「なのになんで! こんな小娘のために! こんな折れた団長のために! 今更! なんでだ!」
「お、おい! 暴れるな」
「クッ……止まりなさい!」
縄で縛られながらも身体をブンブンと振り回し、ギバの元に近寄ろうとするシュント。
それを止めるようにシュントの進行方向にワクとアイラは立ち、抱き止めるようにシュントの動きを抑えつけた。
「あんたらがこうやって協力すれば!
エリーは死ななかった! 『蘇生の魔道具』も元老院に奪われなかった!
こんな役立たずがそんなに大事か!!
人の命は平等じゃないのか!!
なぁ! ギバ団長!? なんで黙ってるんですか!! これが『正しい』ことなんですか!!? なんか言ったらどうなんだ? おい!」
「――いい加減にしやがれ!」
ワクは腕や肩に力を入れて、シュントを前に投げる。
進行方向とは逆に身体が動き、縛られているためにバランスを崩し尻餅をついた。
その姿のシュントにワクは近付き、目線を合わせるようにしゃがみ込む。
「お前の嫁さんが殺された事件なら俺たち自警団も悔やんでる」
ワクは眉を顰めてシュントを見つめる。
「あれは自警団にとっても、騎士団やアイラさん、ギバさんにとっても、もちろんお前さんにとっても後悔が残る事件だ。もっとこうしときゃよかったってな」
「……ぃ」
「だけどギバさんを責めるのはちげぇだろ? 悪りぃのは誘拐犯だ。あいつが嫁さんを誘拐しなきゃこんなことにはならなかった。そうだろ?」
「ぅ…………ぃ」
電池が切れたように下を向き何かを呟いているシュントにワクは懸命に話しかける。
「お前さんがしてるのはただの逆恨みだ。少しは頭冷やせ」
「…………るさい」
「あ? 言いたいことがあるならしっかり言え」
「うるさいんだよぉ!!!!」
「!!」
暴風が吹き荒れる。
テントがバサバサと外側にはためいた。
シュントを縛っていた縄は解れ、そして――、
「ワ、ワク様!!」
「グフッ!」
ワクの身体はシュントの足から出た細く何本もあろうかというニードルによって貫かれた。
「うるさいんだよ……偉そうに説教しやがって……」
ゆっくりと立ち上がるシュント。
ワクを貫いた棘もゆっくりとシュントのブーツの中に隠れた。何かしらの魔道具を使ったのだ。
立ち上がると、どこに隠していたのかいつの間にか天然の魔道具らしき石をもう一つ手に持っていた。
「『縄抜けの魔道具』と『棘の魔道具』……持っていてよかったよ」
「クッ……身体検査した時にはこんなもの……」
アイラは驚きと悔しそうな顔で喉を鳴らす。
確かにあの屋敷を出る前に簡単に身体検査をしたが、何も出てこなかった。
検査が甘すぎたのか。それとも。
「『収納の魔道具』だよ。便利だろ?」
手首につけたブレスレットを見せつけて、シュントは口角を歪ませた。
魔道具を蒐集する盗賊団のリーダーだ。こういうことを想定しておくべきだった。
「まったくどいつもこいつもどうしようもなく腐ってやがる」
ブレスレットには綺麗に磨かれた石が装飾されていた。
おそらくこれが『収納の魔道具』だろう、とリラは確信した。
石が光ると、『縄抜けの魔道具』は手に吸収され、また別の魔道具が出てきた。
どうやら身体全体が魔道具によって収納できるようになるらしい。
「もう誰かが掃除するしかない!」
出てきたのはまたもや天然の魔道具。
シュントはその魔道具を握ると、めいいっぱい口角を吊り上げた。
「皆殺しだ!!」
テントの中から外へ紅い閃光が貫き、空を走った。




