第59話 第一師団長、傭兵のフリする貴族の娘と自警団本部に乗り込む
自警団本部の中は殺伐としていた。
最近、平民で流行っていると言われてる嗜好品の煙が充満していて、窓がほとんどなく陽の光がそんなに入らないのかやや暗い。
一階は大きい広間があり、二階まで吹き抜けになっている。
大会議室と呼びそうなその部屋には木製の長机が四列に十数台並んでいて、一番前にはこの部屋で最も長い机が一台向かい合うように置かれていた。
二階からもこの広間が見れるように、周りを柵で囲まれていて、通路には取り調べ室だろう部屋の扉が何十個も囲むように並んでいた。
三階は広間からじゃ観察することができなかった。
そんな中、大広間の一番前でリラとアイラは立っていた。
机にガラ悪く座ったり、二階から柵に乗り出す自警団達が黙って二人を睨んでいた。
殺気や敵意にも見えるその雰囲気にリラとアイラは包まれ、二人の顔は強張り冷や汗をかいていた。
静まり返っているこの部屋ではゴクリと唾を飲む音も響きそうだ。
「んで? 師団長様と元騎士団長様が何の用だぁ?」
二人が黙っていると、そう叫ぶ男の声が聞こえた。
しゃがれていてドスが効いている。
犯罪者と言われても納得してしまう程だ。
だが、あくまでそれが自警団。
ここでしくじればもう騎士団と自警団が修復することは不可能だ。
「貴方たちにお願いしたいことがあります!」
アイラは気合を入れてそう叫んだ。
奥にまで轟くその凛とした声に自警団達の目が鋭く光った。
「お願い? 騎士団が俺たちに何を頼もうってんだ!」
「まさかいつものように『何もするな』とか言うのか!?」
「もしくは避難誘導のお手伝いとかか?」
「そんなしょうもないことならぶっ飛ばすぞ!」
「俺たちにもプライドってもんがあるんだ!」
「テメェらの言いなりになんてなるかよ!」
「そうだ! そうだ!」
アイラの叫びに野次が飛び交う。
騎士団との溝はかなり深い。
皆、自分達のことを信用していないことがよくわかる。
だが、ここでたじろぐつもりはない。
アイラは背筋を伸ばして、腹に力を込めた。
「落ち着きなさい!」
その一声で野次は鳴りを潜めた。
一度は副団長まで上り詰めたアイラである。
その声や態度は伊達ではない。
広間一帯を見回し静まり返ったのがわかると、
「リラ様、心の準備は?」
と小声で聞いた。
ギバのフリして眉間に皺を寄せたまま真ん中に立つリラ。
内心とても緊張しているのだろう。腕がフルフルと震えている。
けれど、リラはアイラの言葉に頷く。
今まで受けたことのないだろう視線や会ったことがないだろう人間を前にして、彼女は決して怯んでいる姿を見せず、一歩前に出た。
鼻で大きく息を吸って、一度呼吸を止める。
「ゴホン」
慣れない煙が入って、少し咽せた。
仕切り直し。
大きく息を吸って、ゆっくりと口を開いた。
「君たちに……」
しかしすぐに止まった。
数秒。体感ではそれ以上に。
少しざわめく会場。
アイラは眉を顰めてリラを見た。
「どうされましたか?」
そう言おうとしてリラの後ろに静かに立とうとすると、やがてリラはこう言った。
「わたしはリラ・ブラウン。下級貴族ブラウン家の第一子の長女です。
本日はあなた方にお願いがあって参りました」




