第57話 第一師団長、地図に書かれた場所に頭を抱える
ヒナタの家を出た後、アイラとリラはすぐに人気のない路地裏に潜んだ。
近衛隊から隠れるためというのもあったしヒナタから授かった提案を確認するためでもあった。
アイラが内容を見ている間はリラが見張り役に徹していた。
「何が書かれていましたか?」
近衛隊やそのほかの追手が来ないかじっと見つつ、リラはそう聞く。
「どうやら地図のようですね」
「地図……ですか……? そこに行けということでしょうか?」
「おそらくそうでしょうね。ですがこの地図の場所……」
どこかで見たような、とアイラは首を傾げる。
だが考えている時間はそんなにないようだ。
「あ……!」
リラが思わず叫ぶ。
「! どうされましたか?」
「ヒナタ様が……」
アイラはすぐにリラが見ている方向を確認する。
今いる路地裏からはヒナタの家の後ろ側しか見れない。
玄関があるだろう正面ははっきりと確認できないが、建物同士の隙間を縫って正面側の道を誰が歩いているかはわかった。
ヒナタへの尋問が済んだ近衛隊が歩いていくのがちらちらと見えた。
そして、その間にヒナタがいた。
「ど……どうしましょう! ヒナタ様が連行されてしまいました!」
リラの顔は青ざめて小声でそう叫ぶ。
「落ち着いてください。リラ様」
だが、アイラは案外冷静だった。
「ヒナタがそう簡単に連行されるとは思えません。何か考えがあるんでしょう」
それはヒナタへの信頼もあったし、隙間から見えた彼女の姿も関係していた。
近衛隊に連れられた時、ヒナタはピースをしていた。
自分達に「僕は大丈夫だ」と知らせているようだった。
おそらくアイラ達が見ているとわかっていたのだろう。
まったく相変わらずだ。
そうであるならば自分達は彼女を信用して行動するのみ。
「ヒナタは大丈夫です。私達も行きましょうか」
アイラはそう言って、奥へと進み始めた。
「そう……ですか。アイラ様がそう言うなら」
釈然としないながらもアイラの言う通りにリラも歩き出した。
★★★
「着きましたか?」
リラがそう聞く。
近衛隊に見つからないように大通りや目立つ場所を避けて進んだアイラ達。
ヒナタに書かれた地図通りに進むといつの間にか貴族街から平民街へ降りたみたいで、少し騒がしくなってきた。
そして漸く紙に書かれた場所付近の路地で隠れると、アイラは頭を抱えた。
「まさかとは思ったけど、ヒナタ……ここはダメでしょう……」
「ど、どうされたのでしょうか?」
アイラの反応にリラは唾を飲む。
リラの様子をチラッとアイラは横目で見ると、ため息。
「確かにヒナタの言う通りリラ様が……いえ、正確にはギバさんの見た目が重要ですね」
「? いったいどういうことでしょうか? この場所に何があるのですか?」
「そうですね。まず場所の説明からした方がよいでしょう」
とアイラは路地に隠れつつ、その場所を指差す。
その指の方向をリラも見た。
そこには三階建ての大きな建物があった。
少し古びていて、歴史を感じる。
建物の前には粗暴な格好をした見張りが二人立っていて、鋭い目つきで通行人を観察していた。
出入りする者たちもガラが悪そうな者ばかり。
たまに怒声を上げているイカつい人物を連れてその建物に入るこれまたイカつい人もいた。
そして、建物の入り口の上にはアーチ状の板がある。
そこに書かれていた文字を読んで、
「ま、まさかここって!」
とリラは小声で悲鳴を上げた。
「そのまさかです。ここは『自警団本部』――言葉通り自警団が拠点とする場所です」
「自警団って確か騎士団とは仲がよろしくない方たちですよね?」
「……まぁそうです。ヒナタの提案は自警団に協力を頼め、ということですね」
確かに自警団に頼めば、アジトを見つける可能性は格段に上がる。
この土地周辺に詳しく、組織力に人数も多い。
土地に詳しい者たちによる人海戦術で騎士団や近衛隊よりも早く見つけ出すことができるだろう。
「で、ですがわたし達が頼んでそう簡単に聞き入れてくれるのでしょうか?」
問題はそこだ。
騎士団と自警団は六年前からの確執がある。
それに加えて、ギバだ。
直接的な原因になったわけではないが、騎士団と自警団との間に少なからずギバは関わっている。
騎士団長を辞任した後は一切自警団とも話していないとも聞いている。
そんな中でアイラとギバ(の見た目をしているリラ)が自警団本部に乗り込むのは、溝を深める危険性がある。
「それに見た目はギバ様ではありますが、中身はわたしです……何か余計なことを言ってしまったら……」
もっというとギバは本物のギバではない。
中身はリラなのだ。
事情を良く知らないリラがギバの口でもし変なことでも言ったら、火に油を注いでしまうような事態にもなりかねない。
「……そうですね」
その問題はアイラもわかっている。
だけど有効な一手であることもまた事実。
そしてその鍵は――。
「な、なんでしょうか?」
アイラがリラを一瞥すると、彼女は少し後ろへ下がる。
そんなリラの両肩をすかさず握り、アイラは壁へ押し付けた。
「いいですか、リラ様」
「は、はい」
「今から言うことは騎士団第一師団長としては、いえ、一大人としてもあってはいけないことです。
民間人、ましてや十二歳の少女にこんなことを言うのはかなり無責任です」
真剣な眼差しでアイラはリラを見る。
その様子にリラは目を丸くして唾を飲む。
「それでもこの頼み聞き入れてくれますでしょうか?」
「な、なんでしょうか?」
「…………」
たじろぐリラを前にアイラはふぅと一息吐くと、意を決してこう言った。
「リラ様が決めてください」




