第53話 傭兵のフリする貴族の娘、自分の推理を語る
「聞きたいことですか?」
リラはそう聞き返す。
するとヒナタは楽しげに頷いて、リラを見る。
「そうなんだ。アイラちゃんの話を聞いていて少し気になる部分がある。たぶんアイラちゃんもそうだよね?」
「……確かに」
「え?」
意外にもアイラがヒナタに同意したので、リラは驚いて目を見開いた。
「い、いったいなんでしょうか?」
緊張しつつ、リラがアイラとヒナタを交互に見ると、ヒナタが口角を上げた。
「リラちゃん。君は図書館でこのアストロ読んでいた。そうだね?」
「はい。アストロの本で『毒の魔道具』の効果と似たお話がありましたので」
「そう。それはすごく面白い発見だ。僕たちには盲点だったから有り難く思うよ。だけど、そのあと。君はアストロの別の話を探した」
「えぇ。『アストロと星の降る街』ですね」
この本にはありませんでしたが、とリラは本を優しく撫でた。
ヒナタはそれに「うんうん」と頷き、
「そして、リラちゃんはアイラちゃんに――」
「ちょっと。いつまでそんなクサい演技するつもり?」
いつまでも核心を聞かず、大袈裟に話すヒナタにとうとうアイラが痺れを切らして睨んだ。
「あ〜あ〜。ごめんごめん。アイラちゃん! ついね。わかった。わかったよ」
ヒナタは手や腕をバタバタとさせて、わざとらしく謝ると、「まったく。アイラちゃんはせっかちだな」と笑みを浮かべる。
またアイラが睨んだが、ヒナタは気にせずにリラを見た。
「じゃあ単刀直入に聞くよ。君はこの本で何に気付いたんだい?」
それこそがアイラやヒナタが気にしていたことだった。
図書館でアイラに説明しようとしたところで近衛隊の介入があり、中断してしまった話。
地方貴族と中央貴族でアストロの知っている話が異なる。
それが何を意味するのか。
願わくば、勘違いであってほしいその推理。
ちょうど魔道具の専門家がいるこの場いるのだ。
話してみて、考えを聞いてみよう、とリラは口を開いた。
「えっと……アイラ様にはお話しした途中からで良いですか?」
「うん。大丈夫! 地方貴族と中央貴族でアストロの話数が違うってところからだね?」
「はい。ここからは私の推理となりますので、間違っているかもしれませんが」
と前置きをして、目を躍らせて言葉を選ぶ。
「結論から申し上げますと、元老院が天然の魔道具生成について何か隠している可能性があります」
「「!?」」
ヒナタとアイラ、二人して目を見開く。
「詳しく聞いてもいいかい?」
だが、すぐに平静を取り戻し、ヒナタは説明を促した。
リラはそれに大きく頷くと、本の目次を開いた。
「わたしがその結論に至った理由はこれです」
指を差した場所は黒く塗り潰されている部分。
『アストロと星の降る街』が書かれていたはずのところだ。
「これがどうしたんだい?」
「ヒナタ様は『アストロと星の降る街』についてどのくらい知っていますか?」
「念のためあらすじを聞こうか」
「わかりました」
そう言って、本日二回目となるアストロの話をし始めた。
星が降る街に訪れたアストロ。
困っていた住民から依頼され、考えたアストロが逆に星の力を使って解決するという物語だ。
聞いただけではただのよくあるストーリー。
だけどリラはそのストーリーの意味を深く考察していた。
「この話は、私の説ですが、魔道具の生成について書かれています」
「……つまり降った星が魔道具だ、と?」
ヒナタの質問に「そうです」とリラは答える。
「現実ではおそらく流星。それが魔道具の正体だと考えています」
「なるほど。新説だね。それで、それがどうして元老院と関係するんだい?
ただ『アストロと星の降る街』が消されていたからといって、元老院が関わっているというのは早計じゃないかい?」
確かにその通り。
この話をあるからと言って、別に星が魔道具だと言い切るのは無理がある。
『星が魔道具』説はリラが考えただけだし、仮に本当だとしてもアストロの話が消されていたからといって、それ以外の方法で誰かが発見しただろう。
だけど、リラはそうじゃない、と考えた。
「……私、ずっと不思議に思っていたんです」
「何をだい?」
「ヒナタ様は魔素から魔道具が生成されるという話の原論文を読んだことありますか?」
タイトルは確か『魔道具の出現頻度とその在処についてのいくつかの議論』だ。
ヒナタは大きく頷いた。
「もちろん! あれを読まずして魔道具研究者は語れないよ」
「あの論文、実は他の論文とは少し毛色が違うと考えていたんです」
「ん? 毛色? ……ちょっと待ってね」
そう言ってヒナタは立ち上がると、別の部屋へ行った。
しばらくして、またこの部屋に戻ってくると、何かの本を抱えていた。
「あ、やっぱりヒナタ様も持っていましたか」
それはリラも持っていた魔道具に関する論文集だ。
「当然だよ。ってか十二才でこの論文を読んでるリラちゃんの方が驚きだよね」
と言いつつ机に広げると、対象の論文のページを開ける。
リラのものとは違って、書き込みがぎっしりと付いている。
その書き込みは専門用語だらけで、アイラはもちろん、リラでもよくわからない単語が並んでいた。
戯けてはいるがヒナタはやはり研究者だ。
「この論文がどうしたんだい?」
「これ、他の論文と明らかに違うところがあるんですが、わかりますか?」
「ん?」
ヒナタは首を傾げて椅子に座ると、パラパラとその論文を見る。
ときおり他の論文のページを開いては、見比べてみて、しばらくすると、
「なるほどね」
とリラを見た。
「表や図がない」
「そうです」
冷や汗をかきつつ、リラは大きく頷いた。
「その上、この論文は魔素が大きい順に魔道具の在処を書いているんです」
「なるほど……確かにおかしい。よく気がついたね」
「えぇ。この論文で時系列と場所の表を作ったので、その時に変だなぁって」
ちなみにこの論文の時系列と場所が流星のと一致してるんです、と補足をする。
ヒナタはそれを聞きつつ、論文を真剣に眺めている。
「なるほど。それが『流星が魔道具』説の根拠か……しかももう一つ気付いてしまったよ」
ヒナタは自分の哀れさを呪うかのように頭を抱えた。
「なんでしょう?」
「実は『魔素』というのはこの論文しか言及していない」
「!! そうなのですか!?」
「そう。魔素という要素は『彼』の功績の中でこの論文しか書かれていない……あぁ……なんてことだ! こんなことにも気がつかないなんて」
「いえ。わたしも先ほど気がついたので、仕方ありません」
「いや、僕よりも若くて、僕よりも短いだろうその研究期間でこの重大なことを発見したのは誇っていい」
ヒナタはそう言うと、論文集の後ろのページを開いた。
「そして、この論文集以外にもそうだけど」
「そうです。王都に出回っている論文は全てここで」
ヒナタとリラは息を合わせるかのように
「「査読されている!」」
こう言った。
「あぁ……なんということだ。こんな重大なことが……」
「そうなんです! でもヒナタ様の反応で私の説は当たってしまった、ということですよね……」
「あぁ。そう落ち込まないでくれ。リラちゃん。これは本当にまずいことなんだから……今まで気付かなかった僕の方こそ愚かだ」
「ちょっ、ちょっと待ってちょうだい!」
ヒナタとリラが白熱するところで、アイラが待ったをかけた。
途中から置いてきぼりにされたようだ。
アイラの頭の上で『?』がいくつも並んでいるように見えた。
「いったいどういうこと? 私にもわかるように説明して!」




