第49話 第一師団長、傭兵のフリする貴族の娘と共に近衛隊と対峙する
近衛隊の急な態度にリラは目を丸くして驚いている様子。
だが、アイラは(やっぱりか……)という気持ちの方が大きかった。
近衛隊が中に入るのと同時にアイラはリラを隠すように一歩前へ進んだ。
実際にはリラは大きく隠すことはできなかったのだが。
彼らは足早にどんどんとアイラ達に近づく。
やがて、近衛隊の一人が見下すようにアイラを睨むと、こう叫んだ。
「貴様らには国家転覆罪の疑いがある!」
「国家転覆……?」
リラがそう呟く。
驚きのあまり、きっと思わず口に出してしまったのだろう。
その呟きに近衛隊の――おそらく隊長だろう――男が頷いた。
「そうだ! ギバ・フェルゼン! 貴様はシュント・リガイの婚約者エリー・ホワイトの幼馴染、そしてアイラ・マヤはそのギバの元部下だ!
貴様らはリラ誘拐及びトリノ殺害に加担した可能性がある!」
それだけのことで。と呆れそうになるが、一部嘘ではない。
ギバはシュントの婚約者の幼馴染だし、アイラもギバの部下だ。
それにリラ誘拐に関してはそういう作戦だった。
疑われても仕方がない。
元老院がそのことで自分達を拘束しようとしても不思議じゃない。
尤もその可能性はかなり低いし、あるとしてももう少し時間が掛かると思っていた。
(全くこういう時だけ仕事が早いんだから……)
と何度思ったかわからないことで呆れそうになるが、今ここで考えることじゃない。
心の中で首を振る。
ここで素直に拘束されては何も出来なくなってしまう。
おそらく今、一番真実に近づきこの王都を救えるのはリラだ。
少なくとも彼女は足止めされてはいけない。
「全くの誤解ですね」
アイラは真剣な表情のまま、内ポケットから念のためにと取り出した物を後ろ手に隠す。
「確かに私たちはシュントと関わりがあります。ですが、あの事件以来、会ってすらいません。そんな私たちがどう加担すると?」
「それはこれから取り調べすればわかることだ!」
「いくら調べても私たちからは何も出てきませんよ。そんなことよりバナナ盗賊団のアジトは見つけたんですか? 私たちを捕らえるよりそっちの方が優先では?」
「それも貴様たちに聞けばわかることだ! とにかく疑いがある以上、むやみな抵抗はするな!」
「お断りします!」
アイラは手に持っていた物を近衛隊の足元へ投げつける。
発動まで一秒足らず。
「ギバさん、目を閉じて耳を塞いで!」
後ろを向かずにそう叫ぶと、自身も目と耳を塞ぐ。
すぐに目を閉じても突き抜ける眩しさと爆音が。
『閃光の魔道具』だ。
人体に影響がなく、ただ激しい光と音を出すだけの最新の人工魔道具。
とはいえ、目と耳を塞いでても直近だとかなりキツい。
(近場でやるべきじゃなかった!)
そう後悔するが、もう遅い。
魔道具の発動が収まり、目を開けてもまだチカチカする。
耳もキーンという音しか聞こえない。
それでも直撃した近衛隊よりかはましだ、と思いたい。
近衛隊はおそらくこの魔道具を知らない。
なんていったって今回のリラ誘拐事件で初めて実証試験をしたのだから。
辛うじて目を凝らして見ると、案の定、近衛隊は腕で目を隠していた。
効果を知っていたら、耳もすぐに塞ぐはずだ。
身動きひとつ取れていないその態度から怯んでいるに違いない。
リラは大丈夫だろうか?
後ろに手をやっている時にそれとなく魔道具を持っていることをアピールしたが、急に指示されて反応できただろうか?
後ろを向くと、リラはギュッと目を閉じ耳を塞いでいた。
どうやら何とか指示通りに出来たようだ。
リラの肩に手を置く。
ビクッと一瞬身体が強張る。
そして、恐る恐るといった感じで目を開けた。
「リラ様! ここを去りましょう!」
聞こえているかどうか。
それでも何とかわかってもらえるように大声で叫んだ。
リラの目はまだ焦点が合っていない。
直撃は避けられたとはいえ、アイラと同様、多少ダメージがあったようだ。
アイラは返事を待たず、リラの手を取ると急いで図書館の出口に走った。
「あ! 待て!」
そんな近衛隊の叫び声が聞こえたような気がするが、魔道具で耳が機能しなかったことにしよう。
★★★
「だ、大丈夫なんですか?」
「え!?」
アイラとリラは逃げるように王都を駆ける。
ようやく耳が回復してきたとはいえ、まだ少し聞こえ辛い。
「ですから! 大丈夫なんでしょうか!!??」
リラの大声でようやく言葉の意味を理解した。
「いえ、全く!」
「なんでしょうか!?」
「全く大丈夫ではありません!!」
「!? そんな!?」
正直、できればこの展開は避けたかった。
近衛隊から逃げなくてはならないし、おそらく他の騎士団師団にも通達がいっているだろう。
そしてその騎士団や近衛隊、もっと言うと元老院からの情報も手に入れられないから、捜査もままならない。
だけど、近衛隊に拘束されてしまえばもっと絶望的だ。
奴らに捕まれば、今までの捜査も作戦も水の泡。
リラの気付きも有耶無耶にされてしまうだろう。
「ギバ! アイラ! 待つんだ! 命令だ! 止まれ!」
どうやら近衛隊も回復したようだ。
自分達を追いかけていた。
後ろをチラッと見ると、遠目でわかるほどの怖い顔に青筋。
不意打ちされたことにだいぶご立腹らしい。
「これで捕まれば、拷問も止むなしですね」
「……そんな! 拷問なんて……!!」
アイラの呟きにリラは恐怖で顔を歪める。
耳もだいぶ回復してきた。
近衛隊の回復にはまだ時間が掛かるだろう。
アイラは立ち止まり、後ろを振り返った。
「アイラ様?」
「リラ様はこのまま真っ直ぐへ」
「! 何をするつもりですか?」
「ここで迎え討ちます」
「!! ダ、ダメですよ! もっと罪が重くなります」
「ですが、このままだと私たちは逃げ切ることもできません」
「それは……そうですが」
「――大丈夫です。近衛隊を必ずや倒し、追いかけますから」
アイラはそう笑いかけて、リラを見る。
近衛隊との戦闘。
元老院直轄の精鋭部隊。捜査力も剣の腕も随一の優秀な人材だ。
とはいってもアイラも剣の腕には自信がある。
伊達に元副団長という肩書きを背負っていない。
一対一なら倒せる。
だが、相手は複数。チンピラならまだしも、多少ダメージがあるとはいえ、国内随一の猛者達を相手にどこまでいけるか。
(せめてリラ様を逃し切るまでは何とか)
と剣を握り直す。
その瞬間、
「アイラちゃん、こっち!」
少女のような声が聞こえてきた。
聞き覚えのある声にそっちを振り向くと、迷わずリラの手を引いて、そこに向かった。




