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第4話 元騎士団長の傭兵、貴族の娘と入れ替わる

 重々しい音を鳴り響かせ、大剣を背中に収める。


「ご健在ですね」


 アイラがそう話しかけてきた。


「あぁ」


「一本の大剣を片手で持ち、敵を一網打尽に殲滅する。

 防御すらも意味をなさない一撃必殺の剛腕による戦いぶり。

 ついた二つ名が『剛剣』。

 まさに団長のお姿そのものです」


「基礎しか出来ないだけだ。それにもう団長ではない」


 二度も言わせるな、とアイラを睨みつける。

 だが、彼女は意に返さず、平然とした態度で軽く頭を下げると、


「失礼しました。それにしても……」


 ギバの背中にある大剣を見つめた。


「この大剣、刃がないのですね」


 先ほどの戦いを見て、気になったようだ。

 大剣で斬ったはずなのに、斬られたはずの男達に切り傷がなく、大きな打撲痕だけ。

 よく観察してみると、ギバの大剣にも血が付いていなかった。


「騎士団にいた頃は切れ味の鋭い大剣を使ってましたよね?」


 アイラは騎士団時代のギバの様子を思い出しているように聞く。


「あぁ」


 そのアイラの疑問に答えるようにギバは大剣を抜いた。

 刀部分が黒く、研がれている様子はない。

 重量もそれなりにある重厚感のある剣だ。


「敵を倒すのに斬る必要は必ずしもないからな。

 傭兵であれば、尚更だ。これで充分、食っていける」


「なるほど……ですが、重すぎません?」


「まぁな」


 アイラはそう言うと、ギバの剣を触れた。


「普通の剣よりも分厚い……おそらく私じゃ重すぎ持てないでしょうね……」


「そうだな。それよりもリラ・ブラウンは無事か? どこにいる?」


「あ、はい」


 剣に興味を持って、本来のことを忘れていたようだ。

 アイラはすぐさま奥の扉を指差した。


「おそらくこの奥の部屋かと」


「そうか。なら行こう」


 ギバは大剣を収めると、スタスタと奥へと進み扉を開けた。


 だが、そこには誰もいなかった。

 先ほどの部屋と同じくらいの間取りで、だが今度の部屋にはカードや酒などの遊ぶモノはなく、どこかの応接間のような作りになっていた。

 おそらくさっき戦った奴らが何かを話し合っていたのだろう。


「……ギバさん、あそこ……」


 そうやって部屋を観察していると、アイラがまた奥を指差す。

 扉があった。

 この小屋は三部屋に分かれているらしい。

 ここに誰もいないということは、リラは次の部屋にいるに違いない。


「あぁ」


 ギバはアイラに頷くと、更に奥の部屋の扉を開けた。

 


 室内は、薄暗く埃が舞っていた。

 酒や食料が陳列していたり、盗品と思わしき魔道具が乱雑に転がっていたりしていた。

 おそらく倉庫だろう。


 ゆっくりと警戒しつつ室内に入る。

 途中、燭台を見つけ、それに火を点けると、部屋の様子が鮮明になった。

 目を凝らし部屋の様子を観察すると、奥に椅子に縛られた少女を見つける。


 長い金色の髪にウェーブが掛かっているのが特徴的で、肌の色は白く、瞳は大きくて、整った顔立ちをしていた。

 ギバは足音を立てずに近づき、猿ぐつわをまず外す。


「リラ・ブラウンか?」


 低い声で淡々と質問すると、少女はゆっくりと頷く。

 どうやら間違いなさそうだ。

 次に懐に手を入れナイフを取り出し、縄を切った。


「立てるか?」


 そう聞くと、リラは頷き、手首を摩りつつ立ち上がった。

 思ったよりも元気そうだ。

 誘拐されたという恐怖はあったとは思うが、早期発見が功を奏した。


「あの……」


 だが、立ち上がったのはいいのだが、リラは不安げな顔をしてギバを見ていた。


「どうした?」


「貴方様は……?」


 確かに名乗りをするのを忘れていた。

 淡々とリラの拘束を解いたが、その者が敵か味方かは怪しい。


(だが……)


とギバは迷った。

 ここで名乗りを上げてもいいが、騎士でもない自警団でもない自分が「助けにきた」と言っても疑わしいだろう。

 誘拐されたことで、ただでさえ警戒心が高くなっているはずだ。


(どう説明しようか)


と頬を舌で押して膨らましていると、


「リラ様」


 アイラがリラの前で片膝をついて座った。


「騎士団の者です。

 リラ様を助けに来ました。この者は我々が雇った傭兵。怪しい者ではありません」


 そう説明して、ギバを横目で見てウィンクをする。


(助かる)


 アイラの意図を察したギバは一歩後ろに下がり、同じように片膝をつき、頭を下げる。

 アイラの鎧には騎士団のマークがある。

 リラもそれを発見して、やっと少し警戒を解き始めるが、


「騎士団? 騎士団が……本当に……?」


 見た限り自分の立場を理解しているようだった。

 下級貴族なのに騎士団が助けに来ていることにどういう意図があるのか、心配しているのだろう。


「本日、リラ様が誘拐されたとレッド家から連絡があり、馳せ参じました」


「レッド家? ……ということは」


「察しの通りです」


 アイラがそう言うと、リラは俯きポツリと呟く。


「……そうですか」


 騎士が来た理由に察しがついたらしい。


(聡い娘だな)


「とにかく」


 ギバは感心しながらも、今後のことを見据えて口を挟む。


「今はここからすぐに出た方が良い。敵の仲間がいつ来るかもわからないからな」


「そうですね。リラ様、歩けますか?」


 アイラはギバの言葉に同意すると、リラに手を差し伸べる。


「小屋の中にいる敵は全て捕らえましたが、下っ端だけでしょう。明らかに弱すぎました」


「そうですか……」


 リラは落ち込んだように少し俯くが、すぐに気を取り直し


「わかりました。お願いします」


とアイラの手を取る。

 リラの手をギュッと握ると、軽く微笑み立ち上がり、


「さぁ早くこちらへ」


と外へと促し、ギバもその後ろをついていくようにゆっくりと歩き出そうとした。


 が、その時。


 ――ギィ


 微かなきしみ音が部屋の奥から聞こえた。


「!? 誰だ?」


 ギバは音を感知した瞬間に反射的に奥を見ると、何者かが壁に手を当ててこちらを見ているのが目に映った。

 壁に同化した外套を身につけていたから、気が付かなかった。

 壁は半開きになっており、外の様子がわずかながらに見えていた。


(隠し扉か?)


 ギバはすぐさま臨戦態勢になるべく大剣を抜こうとする。

 だが、わずかながらに遅かった。


「ちっ!!」


 舌打ちをしたかと思うと、何かを転がしてくる。


「! 爆弾か?」


 ギバは剣を抜くのをやめ、すぐにアイラの肩を押して、部屋から強引に出した。

 ギバの背中で、奥の男の様子を見ることが出来なかったアイラ。


「しまっ……!」


 ギバに肩を押されるもすぐには反応できずに、リラの手を離してしまったようだ。


 残されてしまったリラを見て、ギバはすかさず彼女を抱きかかえて、爆発に備える。

 投げてきた物は地面に当たると淡く発光した。

 ギバとリラの二人の影が伸びて交わり、目の前が暗転する。

 遠ざかる意識の中、壁を抜けようとする者が振り向きざまに歪んだ顔をしてこっちを睨んでくるのが見えた。


★★★


「その後、私達は入れ替わってしまったようだ」


 リラの姿をしながらも、眉間に皺を寄せた顔をする娘がそう説明した。

 ベッドに座るギバ――の姿をしたリラは顔を下に向けた。


「そのようなことが……」


「原因は不明。おそらく奴が投げた何らかの魔道具だとは思うが、残念ながら騎士団の網を掻い潜り、逃げ果せてしまった」


 ギバはそう言うと、立ち上がり、自分の顔をしたリラをじっと見た。


「とにかく、私達の目的は一つ。

 あの人物を探し出し、元に戻ることだ」



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