第46話 第一師団長、傭兵のフリする貴族の娘から説明される
リラは全て話してくれた。
彼女がバナナ盗賊団を依頼したことからその動機まで。
動機の方はラルーの病室でも仄めかしていたが、アイラにとっては取り止めもなく、理解できなかった部分があったから、一からもう一度話してもらって良かった。
「でも全てはわたしの勘違いでした……お父様も、それにお母様も本当のわたしを見ようとしてくれました」
「…………」
「アイラ様、本当に申し訳ありませんでした」
そう言って、リラは頭を下げた。
正直、驚いた。
フォードやラルーは本当にリラを愛していると思っていたし、リラがその両親に不信感を抱いていたとは。
そしてそんな思いからリラが狂言誘拐をしたとは気付かなかった。
ギバはあのブラウン家で過ごした二日間ですぐに気が付いたのに。
そんな自分をアイラは恥じた。
「こちらこそリラ様のそんな思いを気付かず……」
「いえいえ! そこはお気になさらないでください」
アイラが頭を下げようとすると、リラは慌てて手を振った。
「今まで気が付かれたこともないんです……ギバ様以外」
「…………」
「ギバ様は本当にすごいですね。あんな少ない情報からすぐにわたしのことを見抜いたのですから」
「そうですね。昔からギバさんは鋭いというか、目敏いというか……ですが……」
アイラは目を泳がせて言い淀む。
そういう能力の違いは確かにあったけれど、それ以前にアイラは油断していた。
まさか誘拐された被害者本人が黒幕だったなんて思いもしなかったし、作戦上、犯人を警戒させてはならないと敢えて力を抜いていた。
誘拐されるのは実際にはギバだから、というのもあった。
昔から詰めが甘いとギバに怒られていたが、ここまで自分が愚かだったとは。
もっとリラの両親を見るべきだった。もっとリラと話すべきだった。もっとギバの考えていることに注意するべきだった。
ギバはあの二日間でヒントを与えていたはずだ。敢えてアイラの前でリラに好きな物を聞いていたのもそうだ。
何か不自然な点がある。
そう、アイラに伝えようとしていたのではないか?
そのギバのメッセージを真剣に受け取らなかったのは、自分の落ち度だ。
アイラは猛省した。
「……あの?」
そんな時、リラが不安げな顔をして話しかけた。
話の途中でアイラが黙りこくってしまったからだろう。
アイラはすぐに我に返った。
「あ、すみません。どうしましたか?」
「怒らないのですか?」
リラは眉を顰めて、聞いた。
「え?」
「わたしは罪を犯したんですよ……?」
「…………」
「被害者でもあり、事件の首謀者なんです。騎士団やレッド家にも……いえ、今となっては王都全てにご迷惑をかけてしまいました」
リラは目を滲ませつつ、アイラを見ていた。
でも、その顔には泣いてはいけないという強い意志を感じた。
「そんなわたしは今ここで糾弾されてもおかしくないのに、アイラ様も……ギバ様もそれを怒ることはしませんでした」
ギバ様には他人に頼るなと叱られてしまいましたが、とリラは自嘲する。
「アイラ様もギバ様も何故、わたしを捕まえようとしないのでしょうか?」
「……捕まえてほしいんですか?」
アイラはきょとんとした顔でそう聞いた。
「え……?」
「それとも怒ってほしいんですか? それなら、怒りますが……」
「あ、いえ。そういうわけではなく……」
「ならいいじゃないんですか?」
「……え?」
アイラはリラの前で膝を立てて座り、彼女の手を握った。
「そりゃ、バナナ盗賊団に唆されて行動してしまったのは悪い事です。
ですが、リラ様はまだ十二なんです。十二歳なんて私達からすれば、何も判断ができないし、大人に簡単に騙されてしまうお年頃です」
「それは……」
「悪いのはシュントです。簡単に子供を騙して、利用しようとしているシュントが一番悪い人です。リラ様は首謀者でもなんでもありません」
「……それで良いのですか?」
「えぇ。それにそういうのは親が叱ることです――とはいえ、ラルー様がリラ様を叱るなんて思えませんね……」
アイラはそう言って、立ち上がる。
リラもそんなアイラの動作を追うように、見上げていると、
「えい!」
アイラはリラの頭を手刀で叩いた。
「あ……!」と驚きと痛みで悲鳴を上げるリラ。
頭を抑えつつアイラを眺めると、彼女は笑っていた。
「これで充分です。リラ様も反省しているようですし、世間的にはリラ様は被害者ですから」
「あ、ありがとうございます……」
ぽかんとしつつリラはアイラにそう言うと、
「むしろ、今回の事件解決にリラ様のお力が必要なことがわかりました」
「え?」
「リラ様はバナナ盗賊団のリーダー・シュントと話しています。もしかしたらそのことが何か解決の糸口になっている可能性があります」
「…………」
「何でもいいです。何か気になることはありませんでしたか? シュントと会話した内容でもいいですし、昨日の映像で見たことでもいいです。
使用された魔道具すらまだ詳しくわかっていませんし、何か気になることがあれば教えてください」
アイラはそう真剣な顔でリラを見た。
何でもいい。そう言われてリラは何か考えるように外を眺めた。
時々「リーダー……アジト……昨日……魔道具……」と呟き、今回のことについて思い出しているようだった。
「あ……」
やがて何かを思い出したように目を大きく見開いた。
「何かわかりましたか?」
アイラはリラにそう聞くと、彼女はアイラを見て大きく口を開いた。
「図書館に行きましょう!」




