第43話 第一師団長、事件現場を確認する
翌日。
王都近くのとある領主の屋敷。
その屋敷の中及び周辺では医師や騎士団の人員が大量に動いていた。
そして、屋敷の門前には二人の人物が立っていた。
一人は赤髪のスタイルの良い若い女性。もう一人は黒髪をオールバックにした中年の男。
アイラとリラだ。
「……ひどい有様ですね」
「そうですね……」
屋敷を呆然としながら見つつ、アイラが呟いたことにリラも同意する。
アイラ達が見ている屋敷はブラウン家の屋敷よりは小さいが、ここらに建てられている住民の家よりはもちろん大きい。
だが、今、その屋敷はボロボロ。
外壁は剥がれ、梁が外向きに飛び出ていて、屋根もほとんど壊されていた。
屋敷の前にある銅像も倒れ、壊されていた。
ふと、アイラ達の前から医師らしき人物が二人歩いてきた。
前後に縦に並び、その間に何かを持っている。
「あ、ギバさん、こちらへ」
アイラはリラを医師達の邪魔にならないように横へ誘導する。
医師達は気にも止めないだろうが、入れ替わっていることを悟られないように身体の方の名で呼んだ。
医師達はアイラ達の横で止まる。
持っていたのは板だ。その板の上には白い布が被されていて、少々盛り上がっている。
布の中に物が入っているということだ。
医師は聞く。
「ご覧になられますか?」
アイラは困ったように顔を顰める。
隣のリラに気を遣ったのだ。
だが、
「アイラ様、構いません」
リラは毅然とした態度でそう言う。
そんなリラにアイラは少し眉をひそめると、
「ですが……」
「わたしにお気になさらず……むしろわたしも見なくてはならないと思います」
言葉ではきっぱりとしている。
だが、拳を見ると、ギュッと握り締め、ガタガタと微小に震えていた。
それでも、リラはアイラに向かって微笑んだ。
「大丈夫です……」
「…………そうですか。では、お願いします」
リラの勇気を無碍にしてはならないと、最終的にリラがいる前で医師にそう頼んだ。
医師はアイラに頷き、布を捲る。
「…………」
「う……」
「リ……ギバさん……ッ!」
中身を見た瞬間、リラは口を抑えて一気に顔が真っ青になる。
そんなリラを案じ、背中を摩るアイラ。
今まで縁のなかった人がこれを見たら当然こうなる。
リラの反応はむしろ正常だ。
何故なら、布の中には死体があったから。
死体の様子も悲惨。
内側から押されたように顔や身体が膨らみ、ところどころ血が吹き出たような後があった。
だが出た血は水分がなく、赤い斑点のようになっていた。
口内もかさかさで、目はギョロリと飛び出ていて、顔は紫に変色していた。
「ア、アイラ……様、大丈夫……です」
リラはそう言うと再度、その死体を見た。
吐き気を催しそうな顔をするが、なんとか堪えている。
だが、これ以上見せるわけにはいかない。
アイラは布を戻した。
「すみません。私がこれ以上は……」
嘘だ。
「……そうですか」
だけど、作り笑いを浮かべて吐いたそんな嘘でもリラの力みが少しでも取れるのなら良い。
アイラはリラの様子に少し安心しつつ、医師を見た。
「死因はやはり……?」
「そうですね」
医師は首を縦に振る。
「ですが、直接の原因は窒息のようです」
「窒息……?」
「詳しく診てみない限りわかりませんが、その可能性が最も高いかと」
「そうですか。ありがとうございます」
アイラがそうお辞儀をすると、医師は静かにここを立ち去った。
「リラ様……大丈夫でしたか?」
誰にも聞かれぬよう小声でそう聞くアイラにリラは弱々しく頷いた。
「えぇ……けれど思ったより酷かったです」
「あんな死体、私でも見たことはありません。運が悪かったです」
「……そのせいであまりお顔をはっきりと見れなかったのですが、今の方がここの家の当主ですよね?」
「そうです。グレイ家の当主トリノ・グレイ様です」
トリノ・グレイ。王都近郊にある領地一帯を治めている地方貴族の一人だ。
どうも良い性格をしているようで、あまり良い話を聞かない。
領地民には厳しく当たり散らす癖に、自分よりも偉い奴には笑みを浮かべて尻尾を振る。
金にがめつく、横領の噂もあった。
そのせいで騎士団が駆り出されたこともあった。確たる証拠は発見されなかったが……。
そして、トリノに関してはもう一つ、悪い噂が出ていた。
「そのお方が人身売買を……?」
リラがそう聞く。
「あくまで噂です。数年前からここの領地で半年単位で人が消えることがありました」
「そうなんですか?」
「えぇ。未だ消えた人物は見つかっていません。そして、その頃からトリノの金遣いが荒くなったので、人身売買をしてるのでは? という噂が平民達から広がりました。
この件は近衛隊が捜査していたようですが……」
もしあの話が本当なら証拠なんて出てくるわけないですね、とアイラはため息を吐く。
「ですが、そんな方をまさか……」
「えぇ。バナナ盗賊団が殺すなんて思いもしませんでした」
アイラは昨日のことを思い出していた。




