第42話 第一師団長、貴族の娘と王都内放送を聞く
聞き覚えのある声だった。
ただ覚えのある声よりも若干、力が抜けているような、しっかりとしていないような気がした。
王都全体に響き渡るその声に住民は一斉に振り返る。
いや、全員が同じ方向を向いてはいなかった。
何故ならその声は王都の随所で発していたからだった。
そして、その音がする方には仮面を付けた若い青年の映像が映し出されていた。
どこかの部屋にいるのだろうか。
青年の後ろは綺麗な装飾が施された壁が映されていた。
そして、青年を取り囲むように不敵な笑みを浮かべる男達数人と椅子に縛られて猿ぐつわをされた少女がいた。
「ギバさん!?」
病室の窓辺に立ち、近くの映像を観るとアイラがそう叫んだ。
少女は『リラ・ブラウン』だった。
その顔は俯いていてよく見えない。
気を失っているのだろうか。
そして、その青年も、
「……リーダー」
リラがそう呟くのを聞いて驚く。
(バナナ盗賊団のリーダー? いや、むしろ……)
「今、映像の魔道具を使って王都民全員に話しかけています」
愉快に語るその口調。仮面でくぐもっていたが、その声はアイラも実は聞き覚えがあった。
(いや、まさか。そんな……)
しかし、アイラは首を振って自身の仮説を否定する。
「僕らはバナナ盗賊団。魔道具専門の盗賊団です」
青年はそう言った後、更に話を続ける。
「便宜上、盗賊団と名乗ってはいますが、悪ではありません。
不当に扱われている魔道具を回収し本来あるべきところに戻し救済する、まぁ所謂、義賊という奴です」
青年を取り囲む男達も堂々とした様子で頷いている。
「とはいえ、この映像を見ている方からすれば僕らが正義と言われてもピンと来ないでしょう。なぜなら――」
と映像は一緒に映っている少女に焦点が合う。
「僕らが少女をこのように捕らえていますからね。
彼女の名はリラ・ブラウン。先日亡くなった下級貴族ブラウン家当主の娘です」
「なんですって!?」
それを聞いて、アイラが叫ぶ。リラは驚いてアイラの方に顔を向けた。
「どうしたんですか?」
「フォード様が亡くなった事実はまだ公にはしていないんです。
亡くなったと知れば、ブラウン家が治める土地の住民が混乱してしまいますから」
屋敷の爆破で、ただでさえ住民は不安がっているのに、そこでブラウン卿の訃報を知ればひどく動揺し、最悪暴動に発展するかもしれない。
然るべきタイミングで知らせるつもりだったのに。
「奴は私達しか知らない情報を知っていたどころか、それを王都民に知らせてしまった……」
恐らくまずいことになる、とアイラは窓枠に乗せていた指に力を込める。
だが、そんなこと、バナナ盗賊団のリーダーは知ったことではなく、話を続ける。
「しかしこれは僕らが正義を執行するために必要なことなんです。僕らは何も悪意があって彼女を誘拐したわけではありません。
むしろ彼女は僕らの正義を理解してくれ、自らこっちに来た同士なんです!
――まぁ尤も僕らと彼女の間では少し認識の相違があって暴れてしまったので、このように身動きを取れないようにしているのですが」
脈略のない青年の言葉がどんどん続く。
いったい何を言いたいのかわからないが、事実を知った王都民の反応が怖い。
「少し脱線してしまいましたね。本題に移りましょう」
青年はきっぱりとそう言う。
緊張の面持ちでアイラ達は青年の言葉を聞く。
「僕らは今、ある魔道具を取り返そうとしています。
それはある一家が代々受け継いできた秘宝で、六年前、とある事件で失われてしまった魔道具です」
(――六年前?)
その数字にはピンとくる。ギバが辞める原因となったあの事件のことだ。
「確か以前、ギバ様の幼馴染であるエリー・ホワイトの魔道具が消えた、とアイラ様、仰っていましたね」
「えぇ。リラ様の言う通り。ホワイト家の秘宝である『蘇生の魔道具』が消えました。
バナナ盗賊団はそれを狙っているということ?」
でもどこにあるかなんて騎士団でさえわからなかった。
(バナナ盗賊団はどこから回収するつもりだ?)
「騎士団でさえ見つけることができなかった魔道具。ですが僕ら独自の調査によりある機関が奪い取ったことがわかりました」
そこで青年は一息、置く。
「元老院です」
「「!!」」
アイラとリラは目を大きく見開き、息を飲んだ。
「まさか……そんな……!」
「いえ、でもそれならば辻褄が合います。私達騎士団があの事件以降、隈なく探しました。
でも全て探しているわけではありません。探せないところもありますから」
「……それが元老院ですか?」
「そうです! それに元老院はこの国をどの国よりも強くしたいという野心があります。
それは、経済、政治、そして軍事など全てにおいてです。
ホワイト家の秘宝は軍事の強化において有用なものの一つ! 戦闘中、絶対に死なない兵が出来るわけですから」
「!! ですが、いくら絶対に死なないとは言っても……」
「えぇ。そうですね。あくまで魔道具の使用中だけです。人間死んだら生き返りません。
蘇生の魔道具は一時的なもの。魔道具を使い終わったら、その者は死んでしまいます」
(だけど、裏返せば、戦闘中死ななければ、どんな無茶も実行できる! 元老院にとったらこれほど良い魔道具もない!)
元老院にある可能性を完全に排除していた自分を責めるようにアイラは唇を血が出るほど噛んだ。
「僕達の要求はひとつ。元老院の老いぼれ共。『蘇生の魔道具』を返してもらいたい」
そう言うと、青年は自分の仮面を取った。
「!!」
違ってほしかった。アイラは驚きと共に自分の考えが合ってしまったことを悔しがった。
黒髪で童顔。そして左眼が義眼になっている。
アイラのよく知る人物であり、そしてギバの元部下で、ギバの幼馴染の婚約者。
「亡きエリー・ホワイトの婚約者。つまりホワイト家の秘宝を受け継ぐ資格のあるこのシュント・リガイに!」




