第37話 最悪な状況報告
「状況を……報告します」
「…………」
「ブラウン家の屋敷の爆発はリラ様の部屋で起こりました」
「…………」
「騎士団の解析班に分析してもらったところ、魔力残滓が――つまり魔道具が使われた形跡があったそうです」
「…………」
「ラルー様はその時寝室にいましたので、爆発には巻き込まれず……ですが、寝室にまで火の手が……火の煙を大量に吸い込んだみたいで現在治療中です」
「…………」
「ブラウン卿はリラ様の部屋で倒れていましたが、ブラウン卿の身体には刺された痕跡があり……その……爆発の前には……」
「もうやめてください!」
リラは叫んだ。
ここはギバが住んでいる家だ。リラの一時滞在場所としてアイラが独断で決めた。
アイラの家に滞在させることも考えたが、自分が住んでいるところは騎士団の寮だ。
騎士団を辞めた身である『ギバ』を入れるわけにはいかなかった。
ギバの家ならば、平民街にある。
誰でも入れるところにあり、ブラウン家にも近かったので、気力を失っているリラを連れてくるのに都合がよかった。
そして、あの事件から数日が経過していた。
だいたいの状況がわかったので、リラの様子を見がてらアイラはギバの家へ報告しにきた。
ここ数日ろくに食べていないようで頬はやせこけ、あまり眠れていないのか目は虚ろになっていた。
オールバックに整えられていた髪はボサボサになっていて、髭も剃っていないようで、頬には無精髭が生えていた。
ベッドの中で膝を抱え耳を抑え情報を遮断しようとするリラをアイラは悲しそうな顔で見た。
だけど。
アイラは気を引き締めて、リラに近づき膝をついて座る。
「リラ様……確かにこの話を聞くのは嫌だと思います。ですが」
リラはアイラの顔を見た。
「このまま何も知らず情報を遮断したままでは何も前進しません」
「…………」
「まずは知りましょう。知ってから選択を……」
「そうは言っても、私にはもうお父様が……お父様が、い、いなく……な、な、ちゃ……じゃ……ない、で……か……」
リラの目からはどんどんと涙が零れ落ちてくる。
だが、アイラは真剣な顔を保って言う。
「そうです。フォード・ブラウン卿は亡くなりました」
涙を浮かべたままリラはバッとアイラの方を睨む。
だが、アイラは怯むことなく真っ直ぐとリラの目を見ていた。
「そして、お父様を切った犯人はまだ見つかっていないんです」
「……!」
「それに今、リラ様は生きている。お母様も生きているんです。そのことに……目を背けないでください」
自分の無力感、そしてリラの思いを実感する。
出来るだけ冷静に言ったつもりでも、その考えが漏れてしまったかもしれない。
アイラの言葉を聞いたリラは両手で目を覆い隠していた。
それでも溢れた涙は抑えきれず、手の隙間から滲み出ていた。
(これ以上、刺激しては……いけないな)
アイラは立ち上がる。
リラは気持ちに整理がついていない。今はそっとしておいた方が良さそうだ。
アイラはグッと拳を握りしめて、泣いているリラを悲しそうに見つめる。
「……最後にひとつだけ聞いてもよろしいですか?」
もうこの部屋からは立ち去るが、聞かなきゃいけないことがある。
「……何でしょう……?」
「リラ様が屋敷でお会いした近衛隊の男。その人の特長をもう一度、教えていただけますか?」
目を腫らしたリラにあの日のことを思い出させるのは、酷だろうか?
だが、事件の唯一の手がかりだ。
最後にフォードと会った男だ。何があったのか、話を聞かなくては。
アイラの質問で両手を目から離したリラ。目が虚になっている。
何かを思い出そうとしているのか、何も考えていないのか、その顔からは判断がつかない。
やがて――、
「黒髪で……背の高い……若い童顔の方……だったと思います」
質問に答える気があって、アイラは内心、ホッとした。だけど顔には出さない。
催促せずに黙ってリラの回答を待った。
「黒のスーツを着ていて、白の手袋をしていました」
それは近衛隊の特徴だ。まだ誰なのかは絞れない。
「あ……あと……左目がちょっと……おかしかったような」
「左目ですか?」
ようやく手がかりらしい発言をした。
思わずアイラは聞き返してしまった。
「えぇ……わたしと目が合った時に、見ているのに見ていないような……そんな違和感を覚えました」
釈然としない言動だ。だけど、その感覚は重要だ。
『初めに思った違和感。それが解決の糸口になる場合が多い』
昔、ギバに聞いた言葉だ。
人間、聞き返せば聞き返すほど、思い返せば思い返すほど、その違和感は誤った記憶にすり替わる。
初めの感覚を大事に、信じて、探れば自ずと答えが導かれる、と。
そう指導された。
(これ以上聞くのは止しましょう)
「わかりました。協力、感謝いたします」
そう会釈すると、リラは何も言わず窓の外を見ていた。
「…………」
アイラは黙って家を出た。




