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【コミカライズ配信中!】少女⇔傭兵の成り代わり  作者: 久芳 流
2章 星と魔道具の研究

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第34話 傭兵のフリする貴族の娘、父親の本音を知る

 リラとフォードは親子になって十二年。


 親の顔色を伺って親が好きそうな『リラ』を演じてきた彼女にとって、親の本音を読み取るのは造作もないことだ。

 だから、戸惑った。


『リラが本当に喜んでいるのか実のところよくわからない』


 フォードの顔から、これが本心だ、と理解してしまうのだから。


「リラが生まれて、十二年。まだ娘の気持ちがわからないなんて情けない」


 自信を失ったかのようにフォードは肩をすくめる。


「でも僕も少しは知っているんだよ?

 リラは本が好きだし、星や魔道具が大好きだ。

 夜な夜な僕達に黙って、あの見晴らしの塔に昇っていることも知っている」


 フォードのその発言に目を見開く。

 まさか、父親がリラ自身を見ているとは思わなかったからだ。


「どうして……知っているんですか?」


 もはやギバの演技など忘れていた。自分の言葉で自然とその質問が出てしまった。

 だけど、フォードは即答する。


「そんなの当り前さ。だって私の娘だよ?」

「――!!」


 真剣にそう言う彼にリラは驚きを隠せない。


「……まぁだけど本当にリラが望んでいることは知らないんだけどね。ハハ……」


と自信なさげに笑うフォードの言葉ももはや聞こえなかった。


 ずっと思い込んでいた父親の像が音を立てて崩れていく。

 混乱し、動揺し、もはや目の前にいる人が本当に父親なのかさえわからなくなる。

 それくらいリラにとっては衝撃的な発言の連続だった。

 思わず顔を軽く空を見上げてしまう。


 しかし、思えば星や魔道具の本をたくさん買い集めることが出来たのは何故か。

 その答えも同時にあった。

 母親の理想からすれば、本を読むことは出来てもおそらくそれは少女向けの小説しか読めなかっただろう。

 それが貴族の娘にとって一般的に好きと言われるジャンルだからだ。


 だけど、リラは星や魔道具の本を読むことが出来た。それも大量に……。

 何故か。それは父親が理解していたからだろう。

 彼女の趣味を理解し、妻を制御し、彼女が本当に好きなことをやらせるように影ながら色々行っていたのだ。

 リラの数少ない好きなこと。それを奪わせないようにフォードは頑張ってきたのだ。


「なぜだろうね。君にだったら本音が話せるよ。

 きっと君がリラと同じ癖をしていたからだろうね」


 優しそうな笑みで見るフォードのその発言にリラはまたしても目を見開く。


「!! それって……」

「あぁ。君もよくやるだろう。今だってやっていた」


 そうしてフォードは窓の外を見るような仕草をする。


「何か考え事をする時、よく『空を眺める』。昔からリラはそうやって気持ちに整理をつけていたんだ」


(あぁ。そうか。本当にお父様は……)


「お、おいおい! なんで泣いているんだい!?」


 フォードは慌てたようにそう言うと、リラは目を覆い隠し、


「あ、いえ……」


と首を横に振る。


「もしかして、リラと同じ癖っていうのが嫌だったのかい? 僕の天使と同じなのに!? それだったら聞き捨てならないな!」

「そ、そうじゃないんです……!」


 勝手に勘違いして徐々にヒートアップしていきそうなになるのをリラは全力で止める。


「その、えと……」


 だが、なんと言おうか。ここで誤魔化したらギバらしいか? いや、もう演技なんて解けている。

 嘘を言っても、それは不自然だろう。

 なら、本心を。実際、父はギバのことなんてそう知らないのだから。


「う……嬉しかったんです……たぶん」


 とはいえ、まだ自分の気持ちも自己分析できていないけど。


「? そうなのか?」

「まさか……ブラウン卿がわた……娘をちゃんと見ていたとは思いませんでしたから……」

「そうか。まぁ見ていないと思われても仕方ないな」


 妻が特にそうだからな、とフォードは笑う。


「だから、その、ありがとうございます……」


 そう言ってリラは頭を下げる。


「!? 君がお礼を言うのかい! いったいなんでだ? アハハハハ」


 その行為にフォードは目を丸くすると、腹を抱えて大笑いする。

 自分でも何故そうしたのか、よくわからない。ギバにとってもかなり不自然。

 だけれど、そうしなければならない気がした。

 今まで親を勘違いしていたことと、こんな事件を身勝手に起こしてしまったことの謝罪も込めて。


「それと……一つ聞いていいですか?」

「ん? なんだい」


 そしてリラが一番気になることを聞きたかった。多分この姿じゃないともう聞けないから。


「リラ……様は自由に、望むままに生きて良いんですか?」

「?」


 フォードは首を傾げた。たぶん質問の意図がわからなかったからだろう。

 意図を聞いてもいいのだろうか。ギバがそんなことを聞く意味がわからない。

 そう疑問に思っているに違いない。

 けれど、リラの真剣な眼と目があって、彼は佇まいを直した。


「そんなの当り前だ。

 彼女が言えば、少なくとも僕は、望みを叶えてあげる用意は出来ている」

「……そうですか」

「だから、そうだな。会ったら伝えておいてくれよ」

「え?」

「リラを救出したら、たぶん僕よりもギバ殿の方が早く彼女と会うだろう?

 その時に、今のことを伝えてくれ。僕から言っても多分リラは信じないだろうから」


 そう言って笑うフォードに陽の光が差し込み輝いて見えた。

 目を潤わせながらリラは大きく首を縦に振った。


「はい。必ず」

(もう伝わっていますけどね……)


 フォードの本音がわかった。『リラ』だったらわからなかった父親の真心が。


「じゃあ、僕はそろそろ行くよ」


 フォードはそう言うと、後ろを振り返って応接室へ戻っていった。


 そして、残されたリラは空を眺める。


(ギバ様が言っていることは本当でした)


 ギバはいち早く、このことに気が付いていたのだ。

 あとで感謝を伝えなくては。

 たぶんギバが言ってくれなかったら、フォードの話を聞いても疑っただろう。


 だから、また会った時、伝えよう。

 そして戻った時にまた伝えよう。

 自分の本心を。なりたい自分の姿を。父に。母に。

 この身体になったのも悪くなかった。


 いつの間にか雨が上がった空には、綺麗な虹の橋が架かっていた。

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