第32話 傭兵のフリする貴族の娘、もんもんと色々考える
「はぁー」
応接室から出来るだけ離れた後、アイラは力を抜くように大きなため息を吐いた。
「緊張しましたね」
「えぇ。そうですね」
「バレてしまったのかとヒヤヒヤしました。さすがブラウン卿。
ここら一帯を納めていた貴族だけはあります」
「わたしも驚きました。父のあんな目つき、見たことありませんでしたから……」
娘の立場では、デレデレとした顔しか見たことがなかった。
怒っていたとはいえ、家族以外だと、ああも見る目が変わるとは。
「仕方がありません。ご両親はリラ様を溺愛していますから。驚くのは当然ですよ」
「そう……ですね……ところで、ギバ様は無事なのでしょうか?」
魔道具で追跡できているとはいえ、姿は見ることはできないから心配だ。
それに昨夜のことも気になる。誰か知り合いのような人と話していた。
バナナ盗賊団以外の人物に連れ去られた可能性もある。
そのことは既にアイラには報告済みだ。だが、アイラのスタンスは変わらない。
「大丈夫ですよ。ギバさんですから」
ギバに対する無条件の信頼。
時々、心配になるほどの信頼っぷりであるが、あの冷静沈着なギバだ。
実力も申し分ないことを知っている。
アイラがここまでフォード達に責められてもケロッとしているのは、ギバの能力を信じているからだ。
「それに追跡もこのようにできていますし、部下の定期連絡でも順調だと来ています」
受信の魔道具を見ると、光はもう動かなくなっていた。
「盗賊団の隠れ家に着いたんですかね。ひとまず我々も焦らず作戦を実行していきましょう」
――ピィィイイ……
そうやって話していると、突然笛の音が聞こえた。
「失礼します」
アイラは懐から連絡用の笛式の魔道具を取り出し、小刻みに鳴らす。
鳴らし終わった後、アイラはリラの方を向くと、
「すみません。緊急で招集が掛かったみたいです」
「あ、はい。わたしも行った方がいいですか?」
「いえ! リラ様のお手を煩わせる程ではないと思います」
そのまま部屋で休んでいてください、とアイラは微笑んだ。
「そうですか……わかりました。お気をつけて」
とリラが頷くと、アイラは「失礼します」とお辞儀して走って行ってしまった。
★★★
「はぁ……」
アイラの姿が見えなくなると、リラは深いため息をついて力を抜く。
廊下には窓がいくつも並んでいて、リラはその一つから思わず空を見上げた。
今日は朝から雨が降っていて、空を見上げても雲に覆われていた。
そんな天気だと、気持ちも下がってしまう。
(そういえば、これをギバ様はわたしの癖だとおっしゃっていましたっけ?)
とギバのことを思い出す。
すると、また蘇る。
『本気で現状を変えたいと願うなら、もっと自分から行動するべきだ』
「はぁ……」
そしてため息。雨のせいか、昨日のギバの発言が残ってしまっているのか。
気持ちはまた下がる。一人になる度、この言葉が反芻する。
でも、確かにその通りだと思う。
他人任せ――ましてや盗賊団に任せて最良の結果を出せることはリラも思っていない。
「でもそれができたらこうはなってないもん」
独り言のように文句を言う。
身体は中年そのもの。いつ戻れるか、本当に戻れるか、わからない不安。
「わたしはギバ様のように強くないんです」
そうやってギバへの鬱憤を晴らしている時、ふと思い出した。
ギバのあの表情だ。
「わかる」と答えた時の辛そうな顔。数日間、一緒に過ごしていたが、あんな表情は初めて見た。
たぶん、騎士団長時代のことを思い出していたのだと思う。
アイラに聞いたギバの過去を思い出すと、ちょっと言い過ぎたかもしれない。
(あとで謝った方がいいかなぁ……)
「あぁ。ギバ殿」
そんなことを考えていると、横からギバの名を呼ぶ男の声が。
少し間があいて、振り返ると、そこにはフォードの姿があった。
「良かった。ちょうどいい。ちょっと話さないか?」




