第29話 貴族の娘になった傭兵、傭兵のフリする貴族の娘から告白を受ける
「君なんだろう? 今回の誘拐事件を企てたのは」
部屋の外は徐々に騒がしくなってきた。もうあまり時間がないようだ。
「ふふ……」
リラの零れた笑みが聞こえた。
「どこで気が付いたんですか?」
その回答はギバの推測を認めたということだった。
ギバは少し考え、ゆっくりと口を開いた。
「最初に違和感を覚えたのは、病室で会話した時だ。
私が『盗賊団がもう一度君を誘拐する』と言った時、君は言ったな? 『ありえない』と」
「…………」
「あの時は、もう一度攫われるなんて考えたくないのだろう、と思っていたが、それならばそんな強い言葉で否定はしない」
『ありえない』と言ったからには何かしら来ない確信があったはずだ、とギバは語る。
「それに、盗賊団が潜んでいた小屋の隠し扉から逃げた者を君は『殿方』と言っていた。会ったことがないと言っていたのに何故、性別がわかった?」
それから今までのリラの言動や行動を観察して、ますます違和感が生じた。
「はっきりしたのは今さっきだ。
あんなに騒がしく鳴るベルだ。
あんなに大きいなら君が攫われる前にブラウン家に雇われている衛兵が何かするはずだが、そんな報告はなかった。
それどころか、警報が鳴ったという記録もない。
ということは誰か協力者がブラウン家の屋敷にいたということ。
それを最も簡単に実行できるのは当事者であるリラ。君しかいない」
「なるほど。最初からお見通しというわけでしたか……」
「尤も決定的な証拠はない。全部状況証拠だったから、君が認めなければ、これで終わりだったんだがな」
そのギバの発言にリラは目を点にする。そして、すぐに口角が上がった。
「ふふふ。まんまとギバ様に騙されてしまいました。わたし達家族の事情もわかっていたので、てっきり……。お見事です」
「どうしてこんなことを?」
「あれ? ギバさん、理解していませんでしたっけ?」
リラは目を見開き、ギバの質問に質問で返した。
「……私がわかったのは君と君の両親との間の問題だ。誘拐を企てた動機まではわからない」
推測することはできるがな、とギバは補足する。
その回答にリラは「ふふふ」と微笑むと、
「どう思いますか?」
と更に聞く。
ギバは眉間に皺を寄せながらも、はぁと息を吐くと目を閉じて考える。
やがて、鋭い目つきでリラを見た。
「……自由になりたかったから、じゃないか?」
その言葉にリラは更に嬉しそうに笑った。
「やっぱりわかっているじゃないですか。
そうです。わたしは自由になりたかったんです」
「相手は盗賊団だ? 人身売買も行っているような奴らだ。簡単に自由になれるとは思えないが」
「それでもここにいては、わたしらしく生きられません!」
「…………」
「わたしは星と魔道具が好きなんです。将来はアストロのように星を観察して魔道具を探す旅に出たい。
ですが、ここにいてはわたしは好きでもないドレスを着て、好きでもないスコーンを食べ、好きでもない男性と結婚しなければなりません!」
リラは絶叫する。
「『リラ・ブラウン』という鳥かごに一生入り続けるんです」
男性の野太い声で、少女のように叫ぶから声はかすれかすれだ。
「あの方は……リーダーは言ってくださいました! わたしの星と魔道具の知識が必要だと! 確かに悪に手を染めてしまう道かもしれません。ですが、ここにいるよりはましです!
わたしらしく生きるためには、これしか……この道しかなかったんです!」
はぁはぁと息を荒げて、泣きそうな、悔しそうな顔を見せるリラ。
自分の顔でそんな表情を見せられて、ギバは複雑な気持ちになった。
ただ、リラの口から出た数々のセリフの中で気になる言葉があった。
ギバは努めて平静を保ち、質問する。
「……バナナ盗賊団のリーダーに会ったのか?」
「えぇ。以前に。星を観ている時にお会いしました」
仮面を被っていてお顔は見せてくれませんでしたが、とぶっきらぼうに答えるリラ。
「わたしの話を理解してくれて、一度家出してみるのはどうだ? と提案を持ちかけられました」
君が望めば外の世界に連れていってあげる。その代わり一度だけ力を貸してほしい。
ただし騎士団が君を取り返しにきてしまったら、終わりだ。自分達には騎士団と立ち向かう術がないから。
とバナナ盗賊団のリーダーは巧みにリラを誘ったらしい。
「それにあの方は言っていました。
『自分達はただの悪ではない……正義のためだ』と」
そう言われて、ほぼ即決だった。
ある種の賭け。これで騎士団に救出されてしまったら、諦めよう。
箱入りの娘として、理想の天使として、『リラ・ブラウン』として生きていこう、と決めた。
(だから、最初に会った時、落ち込んでいたのか……)
ギバはリラを救出した時のことを思い出し、そして、ため息をつく。
「くだらないな」




