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【コミカライズ配信中!】少女⇔傭兵の成り代わり  作者: 久芳 流
2章 星と魔道具の研究

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第28話 貴族の娘になった傭兵、作戦開始の合図をする

 警報が鳴り響く敷地内。

 正規の入り方ではない侵入に対して反応したベルの魔道具は、けたたましい音をブラウン家の広大な土地に轟かせた。


「侵入者はどのくらいいる?」

「塔から見た限りだと、十は間違いなく」


 塔から屋敷に向かいながら、ギバとアイラは現状の確認をする。


「見張りの騎士団は?」

「今、連絡を取ってます」


とアイラは持っていた通信の魔道具を鳴らす。

 すると、すぐに笛から音が返ってきた。どうやら、連絡は取れたようだ。


「すでに動いているようです」

「そうか。……作戦の確認をしよう」


 走りつつ、ギバはそう言った。


「私たちは今、リラ・ブラウンの部屋に向かっている」

「はい。そこでギバさんとリラ様は待機。私は侵入者を迎え討ちにいきます」

「尤も、本当に討つことはない」

「うまく誘導して、侵入者をリラ様の部屋に誘い込みます。侵入者が来た時、リラ様は?」

「わたしは護衛用の部屋で身を潜めます」


 リラの言葉にギバは頷いた。


「そうだ。そして、侵入者たちが君の部屋に来たら、私は抵抗せず、そのまま捕まる。

 ふん。言葉にすればかなり稚拙だな」


 そう言ってギバが鼻を鳴らすと、アイラも苦笑いを浮かべる。


「確かに。ですが複雑で困難を強いるよりかはましです」

「その通りだ。作戦は単純な方が良い。対人の場合は特に。

 複雑になればなるほど、逆に策に溺れる。

 作戦はシンプルに。あとは現場の人間を信じるだけだ」


 その言葉にアイラはニヤリと笑みをこぼす。


「相変わらずですね」

「ふん。当たり前だ。では作戦通りに――」

「あ! その前に」


とアイラが口を挟んで、懐に手を入れた。


「なんだ?」

「ギバさん、これを」


 出した物をギバの手に置く。訝しげにギバはその物を見るが、その意味にいち早く気付く。


「なるほど。貰っておこう……では作戦通りに」

「了解です」

「は、はい!」


 三人はリラの部屋へ駆けていく。


★★★


「では私はここで」


 リラの部屋にギバとリラを送ると、アイラは真っ先に部屋を飛び出した。

 盗賊団をそれとなくここへ誘導するため、だ。

 不自然に誘導しても、盗賊団はもちろんフォードやラルーにも怪しまれる。

 全容を把握していて、器用にそれを実行できるのはアイラしかいない。


「……静かですね」


 警報はいつの間にか鳴り止み、部屋の中は不気味に思えるほどの沈黙に包まれていた。

 明かりは点けず、月明かりだけの部屋はいつもと同じ。

 侵入者なんていなかった、と言われても信じてしまうくらいだった。


「じきに騒がしくなる。自分の命を優先して行動しろ」

「はい。ではわたしは護衛用の部屋へ」


 そう言って、隣の部屋へ移ろうとするが、


「待て」


 ギバに止められた。


「どうされましたか?」

「少し聞いておきたいことがある」

「……いいですけど。盗賊団の方が来てしまいませんか?」

「すぐに終わる」


と言いつつも、ギバは眉間に皺を寄せ、頬を舌で押してどこか聞き辛そう。

 そんな様子にリラが首を傾げていると、意を決して口を開いた。


「君は……両親が好きか?」

「え?」


 あまり予想していなかった質問にリラは声を漏らす。


「まぁ。はい。好き……だと思います」


 それがどうしたのですか、と言うようにキョトンとした顔でギバを見ていると、


「そうか」


と眉間に皺を寄せながら、考えるように目を瞑る。


「逆はどうなんだ?」

「…………」

「君のご両親は君のことを好きか?」

「…………」

「君のご両親は()()()君を愛しているのか?」

「……ふふ」


 その質問にリラは自虐的に笑みを溢した。


「その質問をした、ということはギバさんもわかっているんですよね?」

「……そうだな」

「わたしの父と母は『リラ・ブラウン』が好きなんです」


 その回答に、ギバは困ったように舌で頬を膨らませる。


()()()を愛してはいないのですよ」


 リラは相変わらず作ったような微笑みをしていた。


「君は、それに納得しているのか?」

「仕方がありませんよ」


 諦めたようにリラはそう言う。


「父も母も、自分の理想とした天使が好きなんです。自分で思い描いたとても可愛くて、真面目で、親の言うことを素直に聞くお淑やかな娘が」

「…………」

「わたしの好き嫌いなんて関係ありません。理想の娘が何が好きか、が大事なんです」


 リラの両親は『わたし』は好きではないんです、と語るリラ。

 思えば、そうだった。

 リラを着せ替え人形のように楽しみ、剣を握っただけで激怒した。

 そして彼女の好みとは違うスコーンをさもリラの好みのように言っていた。


 理想の『リラ・ブラウン』というのが彼女の両親の中にあり、その理想と違った行動をしてはならない。

 両親は『リラ・ブラウン』という存在を愛していただけでリラは愛していない、と彼女自身は語る。

 思い当たる節はある。だが、とギバは考える。


「……星と魔道具が好きなのも演技だったのか?」

「いえ、それは本当です」


 リラは困ったように笑う。


「幸い『リラ・ブラウン』は本を読むのが好きだったので」


 だけれど『リラ・ブラウン』は好きではない、ということか。

 だから。ギバは知らなかった。リラが本当に好きなものを。


 星や魔道具が好きなこと――しかもあんなに夢中になることをギバはここに来て初めて知った。


 リラと成り変わる時に教えてもらった好みは『リラ・ブラウン』のものだった、ということだ。

 だから。


「だから君はこんな馬鹿げたことをしたのか?」


 ギバの眉間には皺が寄り、どこか困ったような表情だった。


「君なんだろう? 今回の誘拐事件を企てたのは」


 月明かりで照らされたリラの口角は不気味に吊り上がった。


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