第26話 第一師団長、傭兵のフリする貴族の娘に傭兵の過去を話す(後編)
『蘇生の魔道具』
それは文字通り、その近くにいる者を蘇生させることができる天然の魔道具。
そればかりか例え腕を切り落とされたり、内臓を破壊されたりしても綺麗に回復でき、不治の病気も完治してしまう程の、まさに最強の道具だった。
ただし、デメリットも大きい。
それは使用する魔力量が人間三人分、必要であること。
そして、
「確かあの魔道具って本当に蘇生するのではないんですよね?」
「リラ様の言う通りです。あくまで使用中だけ」
あくまで使用中に限定されるということ。
死ぬ程のダメージを負っても回復する。死者であっても――1時間以内であれば――蘇生する。
だが魔道具の発動を止めた瞬間、致命傷を受けていた者は助からない。
「それでも、隣国との戦争の危機にあり、戦力が欲しかった元老院にとっては、その魔道具はかなり重要だったんですよ」
「死なない兵隊……それ程、強力な戦力もありませんものね……」
人道的には許されないことですが、とリラは苦虫を噛み潰したような顔になる。
そんなリラを見て「そうですね」とこちらも苦い笑みを浮かべると、
「そんな魔道具を誘拐犯に渡すわけにはいきません。
『蘇生の魔道具』はエリー様が所有していましたし、最悪、誘拐犯がその事実を知ってしまえば、魔道具を悪用されるかもしれませんから。
事件発覚から十日後、ようやく元老院は騎士団出動の許可をしました。ですが――」
アイラは拳をギュッと握る。
「間に合いませんでした……」
「…………」
「潜伏場所を特定しギバさんや私がその場所に向かいましたが、生きていたのは一人だけ……シュントだけでした」
当時のことをよく思い出す。
肩から腰までを切られたエリーを抱き抱えていたシュント。右目は大粒の涙、左目は潰されて血の涙が垂れ流されていて、その両目でギバさんに恨み言を叫んでいた。
その近くには犯人の首が転がっていた。
「ギバさんはそのことを今でも後悔していました。自分が元老院の許可など待たず、騎士団総出で捜査していれば、こんなことにはならなかった……と。
『私が殺したようなものだ』と……」
「…………」
「しかもそれだけではありません。『蘇生の魔道具』も消えていたんです……」
「! そんな……!」
「街中隈なく探しましたが、見つからず。
そして! あろうことか! 元老院はその責任を全てギバさんに背負わせたんです……!」
悲痛に叫ぶアイラの訴えにリラは閉口した。
「元老院はギバさんを疎ましく思っていました。ちょうどよかったんでしょう。良い口実が出来た、と。
元老院が早く許可していればこんなことにはならなかったはずなのに……!
ギバさんもなんで素直に受け入れたのか……翌日にはギバさんは騎士団団長を辞任していました」
アイラは血が滲むほど手を握り締めていた。
もちろん自分も処分を受けていた。だがギバよりも生ぬるい。
当時副団長だったアイラは師団長に降格されただけだったのだから。
「そんなことがあったなんて……知りませんでした」
「ふふ……それはそうですよね。まだリラ様は小さかったですし、騎士団のそういう内情は上が隠していましたから」
「……シュント様はその後どうしたのでしょうか?」
「書類上は今でも、怪我で療養中ということになっています。ですがもう騎士団を辞めているかと。
あの事件で騎士団に一番失望したのはシュントですから」
「アイラ様は辞めようとは?」
リラの素朴な質問にアイラは苦笑した。
「当然思いましたよ」
「…………」
「でもギバさんに止められました」
「え?」
「『私の意志を継ぐのは君しかいない』って……ずるいですよね。普段そんなこと絶対に言わないのに、その時だけ言うんですか……ら」
当時を思い出したのか、アイラの目からはうるっとした物が。
すぐさま気がつき、手で拭う。
そんなアイラの様子を見られ、リラは唇をギュッと噛み締める。
「お見苦しいところを」
涙を拭き終わると、アイラはそう言い、リラに向かって笑みを浮かべた。
「さぁ。この話は終わりです。そろそろギバさんを追いかけましょう。
あんまり放っておくと怒られてしまいますから」
「そうですね……あの……」
「? なんでしょう」
「ありがとうございました……こんな……言い辛いことを教えていただき」
「いえ。リラ様も知っておいた方がよいと思ったんです。気にしないでください」
そう言うと振り返って扉を開ける。
「さぁ。ギバさんが待ってます。
あ、この話はギバさんには本当に秘密にしてくださいね。私が殺されちゃうので!」
「ふふ……はい」
戯けて冗談を言うアイラにリラは笑みを浮かべ、二人はその部屋を出ていった。




