第24話 第一師団長、傭兵のフリする貴族の娘に傭兵の過去を話す(前編)
「ギバ様……大丈夫でしょうか?」
ギバが出た後、リラは不安そうな顔でそうアイラに声を掛けた。
「えぇ。何か考え事をしているんだと思いますよ」
ため息混じりにアイラはそう言う。
そして一応は『リラ・ブラウン』の護衛の役目を全うしようと、ギバを追いかけようとして、
「あの……」
リラに止められた。
「何でしょうか?」
「あ、いえ……大したことはないんですが」
「大丈夫ですよ。気になることは全て仰ってください。リラ様をお守りする以上、少しでも気になることは共有してください」
それにギバが一人で行動している時に盗賊団が現れても一人で対処するだろう、とアイラはリラの方を優先した。
リラは「そうですか……」と呟くと、言いづらそうに目を泳がした。
「あの」
そして、覚悟が決まったのか、アイラの方を真っ直ぐ見ると口を開く。
「ギバさんが以前言っていた……『民間人を殺した』というのは一体どういうことなのでしょうか?」
「…………」
「アイラ様?」
「やっぱり、そうですよね……」
リラの疑問を聞いた後、一瞬アイラは固まったが、すぐに諦めにも似たため息を吐いた。
その疑問を生じるのは当然だ。
『民間人を殺した』というその一言だけ聞いて、「はい、そうですか」と納得する方がおかしい。
それなのにギバもそのことを話したがろうとしない。
結局、ギバの近くにいるアイラにそのことを聞かれるのは必然だった。
「本来なら、許可を取る必要があると思うんですが、リラ様は今はギバ・フェルゼンとして生活しています。
このことは知っておいた方がよいでしょうね」
「……教えていただけるのですか?」
「はい。ですが、このことはギバ様に内密にお願いしますね」
私が殺されてしまいますから、とアイラは人差し指を口前で立て微笑む。
それを見てリラも「わかりました」と苦笑した。
「ありがとうございます。では初めに、リラ様は六年前に王都で起きた誘拐事件のことを知っていますか?」
「誘拐事件ですか……? すみません……あまりよくは覚えていないです」
六年前というと、リラは六歳だ。
仕方がない。
そんな頃であれば、世間になんか意識を向けていられない。関心もない年頃だ。
覚えていないのも当然だろう。
「そうですよね。ホワイト家のご令嬢エリー・ホワイトという娘が誘拐された事件です」
「ホワイト家というと……治癒・治療術で名をはせた一族ですよね? その娘様が、ですか?」
「はい。そして彼女はギバさんの元部下であり私の同僚シュント・リガイの婚約者」
「――――!!」
「ギバさんの幼馴染でもありました」
「!!」
リラは目を丸くし口を抑える。
そんなリラを見て、アイラは苦い笑みを浮かべる。
「今回の事件と少し似ていますね……」
「……ということは騎士団も動いたのですか?」
そう聞かれたが、アイラは首を振った。
「いいえ。初め、騎士団は動きませんでした。正確には動けなかったんです。
ホワイト家は地方貴族。そしてシュントは中央の下級貴族でした。
今回のように中央の政治に影響力がある人の関係者というわけでなく、当時は隣国とも少々緊張状態になっていたので、国内の誘拐事件で騎士団が大々的に出られる状況ではなかったんです」
「……そんな……」
今のところ、リラは宰相一族のレッド家の関係者という位置付けとなっている。
対してエリーは地方貴族であり、その婚約者も中央下級貴族である。
騎士団として動き出さなくてはならない積極的な理由がすぐには見つからなかった。
「もちろん。元老院に掛け合いました。
ですが、元老院の許可も下りず、当時ギバさんも元老院の許可が下りない以上、騎士団を出動させるわけにはいかなかったんです――騎士団長という騎士団を守る立場にありましたから」
当時のことを思い出し、アイラは難しい顔で下を向く。
「シュントはいつも気さくでとても明るく愉快な人でした。
ギバさんにもすごく懐いていたのですが、その時はよく口論になっていましたね」
「それは……そうでしょうね……愛する婚約者なんですから。必死になりますよ」
「……そうなんです。まぁ動けない以上、騎士団はどうすることもできません。なのでギバさんが頼ったのは自警団でした」
「自警団……というと騎士団とはあまり仲がよろしくないとか?」
リラの質問にアイラは首を振って否定する。
「当時はギバさんのおかげでそれなりに関係性が回復していたんですよ」
そしてアイラは自虐風にそう笑うと、
「尤もこの事件で今のような最悪に陥ってしまったんですけどね」
「え……?」




