第23話 第一師団長、貴族の娘になった元騎士団長を説教する
「全くギバさんは! だからあれ程、気をつけろ、と言ったじゃありませんか!」
リラの部屋で、アイラの怒声が響く。
朝食が終わり、部屋に戻されると、事の些末を聞いたアイラから早速説教を受けた。
「今回は事なきを得ましたが、もしこれでラルー様にリラ様じゃないとバレたら早速作戦が台無し!」
「…………」
「しかもリラ様の身体であんな重い剣を持ったんですか!?
そんな危険な……!
万が一、リラ様の身体にお怪我でもさせたら! あーもうっ!」
「…………」
「あの~」
顔を真っ赤にさせているアイラの前でリラが恐る恐る手を上げた。
「私も悪かったんです。もうちょっと強く止めていれば、こんなことには」
「いいえ!」
アイラは思いっきり首を振った。
「リラ様は悪くありません! ちょっと注意していれば、ギバさんなら防げたことなんですから!」
「…………」
「……ちょっと聞いています!?」
アイラの怒声が響く中、ギバは何も発することなくただ椅子に座っていた。
その様子にアイラは苛立ちを隠さず詰問したが、ギバは何か考え事をするようにただ黙って組んだ指を眺めていた。
騎士団時代のことをアイラは思い出して、苛立ちは鳴りを潜めた。
ギバが考え事をする時の癖。騎士団時代によく見ていた光景だった。重大な局面で、よく指を組んでじっと考え込んでいた。
そして考えが纏まった後、発した数々の命令で、いくつもの事件を解決してきたのだった。
(何か気になることでもあったのだろうか?)
アイラは黙ってギバを見ていると、やがて、ギバは視線をリラの方に向けた。
「君の好きなものって何だ?」
「え?」
その質問にリラは戸惑いの声を発して、アイラは肩の力が抜けた。
(私の勘違いだったか……?)
しかし、ギバの顔は真剣そのもの。
眉間に皺を寄せ、鋭い視線でリラを見ていた。
「え……えっと」
その視線に不思議に思いつつリラは答えてみる。
「星や魔道具……あと、食べ物でしたら辛いものが好きです」
「……そうか」
そう言うとギバはまたしても組んだ指をじっと見た。
「あの……それが何か?」
不安げに尋ねるリラに、ギバは
「いや……なんでもない」
と席を立つ。
「それよりも、そろそろ座学の時間だったな」
貴族の娘とはいえ、リラはあまり暇な時間がない。
むしろ貴族の娘だからこそ、数々のことを学ばなければならない。
昨日は帰ってきたばかりということで、免除されていたが、実際にはほぼ毎日座学がある。
誘拐されたことにより座学に遅れがあるとも聞いていたから、今日から数日はかなり詰め込まれていると聞いていた。
「昼食後はラルーとの茶会。その後はフォードと馬で周辺の散歩と聞いている」
更には、娘をかなり可愛がっている両親の面倒も見なくてはならない。
リラの一日は実はかなり忙しい。
とはいえ、まだ話の途中なのに切り上げようとしているのにアイラは不満を感じる。
「ギバさん、話はまだ――」
「それと、今夜は流星群だったな?」
アイラの言葉を遮るようにギバは話を続ける。
「よく見えるところに案内してくれ。私の護衛から離れるわけにはいかないが、一緒に行く分には問題ないだろう?」
「!! ありがとうございます」
リラは嬉しさを隠しきれないと言った様子で礼を言った。
「護衛の任務があるから半ば諦めていました! ギバ様が自らおっしゃって頂くなんて!」
感激した様子で目を輝かせ、口角が上がっている。
その笑みを見た後、ギバは部屋を出ようと扉に向かった。
「ギバさん?」
アイラは呼び止めるが、ギバは止まらない。
そして、扉に手を掛けると、
「今朝は悪かったな。今後、気を付ける」
そう言って、ギバは部屋の外へ出ていった。




