プロローグ
その人がその人たらしめるのに、外見は関係ない。
薬の匂いが充満する無機質で質素な病室の中。
アイラ・マヤはその部屋にいた二人の人間を見て、そう思った。
「君の言いたいことはわかる」
リラ・ブラウンはそう発言した。
足を組んで眉間に皺を寄せながら、扉近くの椅子に座っている。
貴族の娘らしからぬその態度に、アイラは違和感と同時にちょっとした既視感を覚えた。
リラがじっと見ている先にはベッドの上で座っている男がいた。
男は目を丸くし、信じられない恐ろしいモノがその場にいるかの如く、顔を真っ青にしていた。
アイラは、その男――ギバ・フェルゼンのことをよく知っていた。
だが、こんな表情をするのは初めて見ると同時に、普段なら有り得ないとも思った。
リラは淡々とした口調でギバに話しかけた。
「私も同じだからな。正直、困惑している」
ギバは何も答えず、リラのことを見ていた。
彼女の顔を見て自分の顔をゆっくりと触った。
その動作にリラは言う。
「君の反応は痛いほど理解できる。私も平静を取り戻していなければ、同様のことをしていただろうな」
ふんと鼻で笑った。
「まるで鏡合わせだな。身体の感覚は異なるが」
その例えは言い得て妙だ。
ギバにとっては目の前の金髪の少女には見覚えがあるはずだし、リラにとっても同様。
だが、その見ているお互いの動きがリンクしない。
きっと相当な違和感があるはずだ。
ギバもリラのその例えに納得しているような表情を見せた。
「……わたし達は元に戻れるんでしょうか?」
ギバの問いにリラは首を横に振る。
「わからない。ただ解決するために、状況を正確に知る必要がある」
そう言うとリラは部屋の片隅に立っていたアイラをちらっと見た。
「そうだな……まずはアイラ君が私に依頼をしてきたところから話した方がよいだろう」
「はぁ……」
戸惑う表情を見せるギバに、リラは渋い顔しつつも、
「心配するな。騎士団の協力も得られれば、すぐに解決するはずだ」
とギバを安心させるような言葉を語るが、すぐに「ただ――」と言葉を重ねた。
「私達はある程度一緒に行動した方がよいかもしれないな」
ため息混じりにそう言うリラにギバは同意する。
何故なら――、
「何故なら、君と私は入れ替わっているのだから」
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