騎士団長に任命されたけど、嫌なのでさっさと辞めたい 3
本日、私は……騎士団長を辞める!!
もう誰が何を言っても私は騎士団長を辞めてやる! 絶対にだ!
しかし辞めると言って辞めれる物でもない。なので私は考えました。
「はっ……! 騎士団のお金、超どうでもいいことに使い込めば……クビになれるんじゃね?」
そう、騎士団に割り振られた予算を……滅茶苦茶どうでもいいことに使い込む!
だがこれは非常に心が痛む行為。何故ならそのお金は国民の税だからだ。いくら私が騎士団長辞めたいからって、それを無駄遣いするのは……。
いや、ここまで来たら……やるしかない!
もう私は悪人だと罵られてもいい! とにかくどうしても……! 騎士団長をやめるんじゃぁぁぁあ!
※まず金庫の場所を知りませんでした。
《嫌ったら嫌なの!》
さて……あれからちょっと調べたが、どうやら騎士団の金庫番は……まあ当然というかゼルスさんだった。私が出す命令書に沿って必要な金を金庫から取り出しているんだとか。
金庫番がゼルスさんかぁ……正直、この作戦、もう上手く行く気が無くなってしまった。絶対ゼルスさんは騙せる気がしない……。
いや、待てよ?
以前も、騎士達に畑仕事やらせる! って言った時、ゼルスさんはそんな命令でも迷わずお金を回してくれたんだ。結構私の命令なら……いけるのでは?
問題はどんな命令で……何にお金を使うかだが……。
うーん……
「騎士団長、先日お話した件ですが……」
「んぁ? なんでしたっけ。ゼルスさんが実はお姉さんだったって奴?」
「そんな怪奇現象の話はしていません。私がしているのは……騎士団長が現役の騎士を相手にする模擬試合の事ですよ」
……は?
はあぁぁぁぁあ!?
「ちょ、そんな事出来るわけじゃないですか! あの脳筋騎士を相手に……模擬とは言え、私死にますよ! 即死しますよ!」
「そう言うと思ってました。ですがご安心下さい。過去、騎士団長が代役を立てるという例も無くはないのです。誰か信頼できる者に任せますか?」
もちのろんさぁ!
「承知しました。では誰を代役に致しましょう」
え、えー……誰って言われてもなぁ。
私が信頼する騎士……。まあ、腕っぷしだけで言えば兄も相当な騎士の筈だ。蛮族の所で毎日決闘して勝ち続けたわけだし。
あとは……あの子、巨斧のプレーリードッグだっけ? 見た目は如何にも野生児って感じの女の子だったけど、彼女も強そうだ。
「んー……どうしよっかなぁ……いっそのこと、ゼルスさんとかでもいいんだけども……」
「畏まりました。承りましょう」
え? マジで?
「ちょ、大丈夫ですか?! ゼルスさん、事務仕事専門でしょ? あんな脳筋どもに付き合ってたら体が……」
「まあ、大丈夫でしょう。私も最近訛ってますからね。たまには体を動かすのも悪くありません」
ほんとに? 大丈夫?
ゼルスさんに何かあったら……私、夜しか眠れない!
「あぁ、それなら騎士団長、これを預かって頂けますか?」
「ん? なにこの鍵」
「金庫の鍵です。私は少し体を慣らしてきますので。破損させたりすれば大事でしょう」
そのままゼルスさんは騎士団長室を後に。
クックック……ゼルスさん……あんたぁ……私を信用しすぎだぜ!
よりにもよってこのタイミングで私に金庫の鍵を預けるとは!
ひゃはははは! これで騎士団の予算、無駄遣いしてやるわぁぁぁぁ!!
※金庫の場所、聞くの忘れてました。
《模擬試合!》
コルネスは騎士の国。およそ三千万人の騎士がこの国に居る。
国の規模から見れば、実は騎士の数は結構足りていない。昔はそんな事も無かったらしいが、年々人口が増えるわりに、騎士という厳しい道のりからリタイアする者が結構いるそうだ。
そんな背景もあるからか、いつからか始まった騎士団長自らが力を示す模擬試合。
騎士達のモチベーションをアップさせるのは勿論のこと、民衆にも人気のイベントらしい。既にここ、王都に設置された模擬試合会場は満員御礼の状態だ。
「キャー! ゼルスさまぁぁぁぁ!」
何やら黄色い声援が……。
ゼルスさんはその見た目から女性人気が激しそうだ。私からしてみればクソ真面目な、いけすかない堅物執事って感じだけども……おっとイカン、こんな事を言ってしまうとゼルスファンから殺されてしまう。
『えー……テステス、マイクテス……』
お、早速使ってるな。私が魔術師に作らせた……超声大魔道装置!
あの魔術師結構使えるじゃないか。これからもコキ使ってやろう。
『えー……それでは……これより、騎士団長vs現役騎士、模擬試合大会を……開催します!』
ドデカい声援、空気が震える程の歓声が会場を包み込む。
ちなみに私は特別に設置されたVIP席から、闘技場を見下ろす形で眺めていた。同じ場に、コルネス国王陛下も控えている。
「うむ! ぜっっけいなり!」
国王陛下……と言っても、未だ六歳の男の子だが。
噂では王族に王子は他にいるそうだが、一人は騎士として、もう一人は同盟国であるウェルセンツへと赴いているという。騎士団の中に王族がいるのかー……一体誰なんだろ。
「むふふ! きしだんちょうどの! わくわくするな!」
おおう、元気いいな坊主。
イカン、国王陛下の前だ、行儀よくしなければ。
「そ、そうですわね~?」
「ときに、きしだんちょうどの。なぜ、こんかいは主は戦わんのだ?」
いや、死んじゃうから。
とは即答できんな……なんて答えよう……。
「それに兄さまが代役とは……きしだんちょうは……きちくだな!」
きちくって……そんな言葉どこで覚えたんだ、六歳児。
貴方のお兄様を代役に立てたのは悪いとは思ってますが、これは致し方ないって……ええええええええええええ!!!!
「に、にいさま?! だ、だ、だれが?!」
「……? ゼルス兄さまの事だぞ。きしだんちょうが戦えって言ったんでしょ?」
ちょ、ちょ、ちょいまち!
ゼルスさんって王族だったの?!
なんで騎士団長の補佐なんてしてるの、あの人!
ま、まずい、騎士は基本的にアホだ。
手加減という物を知らない。いくらゼルスさんが王族と言えど……
「こ、こうしちゃおれん!」
「ぁ、きしだんちょう、何処にいくのだ!」
※ゼルスさんの顔に傷付けたら……騎士団長にしてやるぅぅぅぅ!
《その試合、まったぁ!》
既に試合は始まっている!
私はVIP席から試合場へと繋がる廊下を走りぬけながら、本日の取り組み表を懐から出して確認する。
第一試合目の相手は……えーっと……
「氷槍のペリカン……ジーナ・ベルフォスト! うん、知らん!」
何せ初登場の名前だ! っていうかこの国の騎士、なんでいちいち異名に動物が!
ええい、そんな事はどうでもいい! 早く試合を止めないと!
「はぁ、はぁっ、ゼルスさん……!」
試合場への扉を開け放つ私。
そして目の前では……信じがたい光景が……!
「痛い痛い痛い痛い! ぎぶ、ぎぶ!」
「おやおや、いくら女性と言えど騎士……このくらいで根をあげてどうします」
ゼルスさんは女性騎士に……足つぼマッサージをしていた!
え、なにしてんの?!
※たぶん作者も読者もサッパリですー!
《どうして教えてくれなかったの!》
第一試合目を勝ち抜いたゼルスさん。決め手は足つぼマッサージ。
「あの……ゼルスさん。言いたい事は色々あるんですが……」
「なんでしょう、騎士団長」
今、ゼルスさんと私は控室に引っ込んでいた。
ゼルスさんはパイプ椅子に座りながら、ミネラルウォーターを一気飲み。
いや、如何にもやってやったぜ……みたいな空気出すのやめてくんない?
「ゼルスさん……王族だったんですね……私、知らなくて……い、今までのご無礼、お許しを!」
許しを乞う私!
ゼルスさんは小さく溜息。
「いえ、私も悪かったのですよ。まさか王族の顔すら知らない人間が居るとは思いませんでしたから……つい悪戯心が……」
っぐ!
た、たしかに……国民なら王子の顔くらい知っとけよ! って感じだ。
ゼルスさんみたいな美形王子なら尚更だ。しかし私は知らなかった! だって……私もアホの集団の一員だったんだもの!
「まあ、私は気にしてません。出来れば今まで通り接して下さると助かります」
「そ、そんな事言われても……王子」
「王子は止めて下さい。今まで通りゼルスでお願いします」
うー……王子……じゃない、ゼルスさん。
しかし、なんかドキドキするな。
私……今まで……王子にお茶淹れさせたり、肩揉ませたり、魔術師にハメられたとは言え部屋に連れ込んであんな事を!(未遂に終わったけど)
「で、でも……なんでゼルスさんが騎士団長補佐なんて……それに国王がゼルスさんの六歳の弟って……」
「それは……同盟国のウェルセンツが絡んでくるのですが……まあ、その話はまた今度にしましょう」
そのままゼルスさんはパイプ椅子から立ち上がり、剣を取る。
その剣……要らなくない? 第一試合目、足つぼマッサージで勝ったし。
「次の試合は手こずりそうですね」
「え?」
私は試合表を確認……するとそこには……私の兄の名が!
ちなみに兄の異名は、諸刃の羊。意味わからん。
しかし、兄の実力は本物だ。あのアホなら本気でゼルスさんに向かってくるかもしれない。
ゼルスさんの顔に傷なんてつけたら……私、騎士団長クビになっちゃう!
……あれ? いいんじゃね?
※その後、アホ兄は一撃でゼルスさんに負けましたー!☆